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水野司の世界の声  作者: すずはるな
水野司と世界の声
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第39話 沈黙の会議室

 ノームは部屋を出て看守に従い、階段を何段も昇って目的の場所に到着した。


 ここは異人棟の最上階にある会議室だ。

 部屋の中は今までの食堂とは違い、六人掛けの木製机はない。

 背もたれのある椅子が無数に並べられているだけだった。


 すでに多くの組長たちが集まっており、入口から中央へ向かって列が作られている。

 看守の指示に従い、無言のままゆっくりと列は進んでいた。


 足音だけが、やけに大きく響く。

 誰も言葉を発していない。

 そのせいで、場の空気は妙に重かった。


 ノームも列の最後尾につき、順番を待つ。

 腕を組みながら、前に並ぶ背中をぼんやりと見つめた。


 やがて自分の番が来ると、指定された席へと腰を下ろす。

 そのまま腕を組み、周りを見渡してみる。


 同じように座っている組長たちは終始無言だった。

 聞こえてくるのは咳払いくらいしかなかった。

 そして顔には、初めて経験する大規模な移動の疲れが、はっきりと浮かんでいる。


 そしてノームも同じような顔をしているのだろうと思い、わずかに自嘲した。


 部屋の背後には異人兵と看守が待機していた。

 彼らの表情にも、疲れの様子が見て取れた。


 全員が席に着くと、キムが前日と同じように看守の列から前へ歩き出す。

 そして、組長たちの前で立ち止まる。


 三百人の組長たちが椅子に座りなおす音が聞こえてくる。

 これからどういう内容を話すのかと警戒して身構えているようだ。


「今回の大移動ご苦労様です」


 キムが会釈しながら言った。

 寝ていないのか目の下に大きな隈が出来ている。


「無事にバルトラインに到着できたこと、ひとえに各組長の協力があってのこと、心から感謝します」

 

 キムが全員の顔を見渡しながら数度頷く。


「さて、今日は大移動の疲れを癒し、明日からの訓練に向けて体力の回復に専念していただきたい」


「通常であれば、練度を高めるために訓練を行います。しかし、今回は異人街総出であるからして……」


 ノームはキムの話を静かに聴きながら、思った。


(連絡事項は簡潔にして事前に要点をまとめてから話せよ。)


 そう心の中で考えていた。


 キムの長々とした分かりにくい説明に、苦笑を浮かべた。



「今後の我々の担当だが、前列長槍隊を担当することになりました」


 キムの一言で、組長たちからざわめきが聞こえる。


「訓練は一週間で、城壁の外で行われます」


 キムは組長たちを無視して話を続けた。


「そして、訓練後はそのまま行軍して、平野に野外基地を建設して、そこが拠点となります」


「待ってくれ」


 誰かが声を発した。

 発した本人は無意識だったのだろう。

 自分が声を出したことに驚いている様子だった。


 しかし、他にも似たような声が次々とあがる。


「一週間だと」


「そのまま行軍?」


「あり得ない」


 次々と組長たちが声を出す。


 ノームも同じ気持ちだった。

 口には出さないが、頭の中では同じ言葉が何度も反響している。


「諸君らの不満はよくわかる」


 キムが少し早口で言った。


「異例の大移動の次は、短期間の訓練で実戦に参加だ」


「これまでであれば、訓練には最低でも一か月以上を要した。それを経ずに、いきなり最前線へ向かうなど、前例がない」


 キムは一旦間を置き、一呼吸した。


「つまり――異例に次ぐ異例。何もかもが、明らかに異常だ」


 キムの説明が終わった後、場は静まり返った。


 しかし、組長たちは、


「そんなことはわかっているから理由を教えてくれ」


「看守長! はっきり答えろ」


 などとキムに濁流のごとく詰問した。


 すると、キムが顔を真っ赤にして興奮気味で答える。


「私にわかるはずがないだろう。いちいち聞くな」


 怒鳴り声の奥に、焦りが滲んでいる。


「なんて無責任な」


 組長たちから更に暴言が飛び交うなか、キムが続ける。


 その様子を部屋の後ろで見守っていた看守たちは、様々な反応を見せている。


 ひそひそと隣と話す者。

 呆れて顔をしかめる者。

 隠れて笑っている者もいる。


 しかし、助け船を出す者は一人もいないようだ。


「諸君らの言い分はよくわかる」


 キムが焦った様子で両手を前に出して言った。


「だがこれは異例中の異例だと言うことはよくわかるだろう?」


「なぜ? と聞かれてもこれ以上のことは聞かされていない」


「我々の上官である『小隊長』からの指示であるとしか言えないのだ。わかってくれ」


 キムの、懇願するような困った表情を見て、組長たちは察したように口をつぐんだ。


 キムをこれ以上追い詰めても、何も出てこない。


 返ってくる答えは、いつも通り「わからない」。


 異人には、何も知らされない。

 それは今回が初めてではない。

 いつものことだった。


 だから、ここで騒いでも意味がない。


 諦めと、拭いきれない憤りを胸に押し込み、組長たちはしぶしぶ同意した。

 

 そして話題は淡々と、次の内容へと移っていった。

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