第12話 眼鏡看守とおにぎり
昼休憩になると、
司はヨロヨロになりながらノームたちのところまで歩いてきた。
足取りはおぼつかず、少し進むたびに体が左右に揺れる。
すでに足はフラフラで、両腕は力なくぶら下がっている。
肩を大きく上下させながら、ゼェゼェと荒い息をついていた。
二人のそばまでたどり着いた瞬間、
司はそのままバタンと仰向けに倒れ込んだ。
「もう……無理……」
司は天を仰いだまま、ため息のように呟いた。
「おいおい、大丈夫か? 生きてるか?」
タカギがしゃがみ込み、司の顔を覗き込んだ。
「ずいぶんと、しごかれたようだな」
ノームは腕を組みながら、なぜか少し楽しそうに言った。
「このままじゃ殺されるよ。あの人は鬼だ」
司が仰向けのまま、恨めしそうに大きな声で言った。
疲れと悔しさが混ざって、つい声のボリュームが上がってしまう。
「おいおい、もっと声を落とせよ。聞こえるぞ」
タカギが慌てて手を振って制しながら、周りをキョロキョロ見渡した。
すると、一人の看守がこちらへ向かって歩いてきているのが見えた。
タカギは何事もなかったように顔を横に向け、口笛を吹く真似をしてごまかした。
看守は「ホッホッホ」と笑いながらさらに近づいてきて、
「大丈夫。悪口なんて聞こえていないよ」
にこにこと微笑みながら、楽しそうに言った。
「聞こえてるじゃないか」
タカギが即ツッコミを入れると、
「おお、そうかそうか」
看守はますます楽しげに笑って返した。
司は重たい体をなんとか起こし、看守の方を見た。
さっきまでの怒鳴り声の主とは違う。
声も表情も、どこかのんびりしている。
看守は黒い布製の服の上に、革製の大きめのショルダーバッグを右肩から斜めにかけていた。
顔にはサンタクロースみたいな、真っ白で立派なひげ。
目と同じくらい小さな丸メガネがちょこんと乗っていて、全体的にやたらと優しそうに見えた。
眼鏡看守はバッグに手を入れ、竹筒を一本取り出した。
「さあ、飲みなさい」
そう言って、司の前に差し出す。
司が両手で受け取ると、中には水が並々と入っていた。
「……水だ」
司は一口飲んでみる。
ひんやりしていて、すごく飲みやすい。
(生き返る……)
司は二口、三口と止まらなくなり、火照った体を冷やすみたいにゴクゴク飲み続けた。
気づけば、竹筒は空っぽになっていた。
「あ、ごめんなさい。全部飲んじゃった……」
司が申し訳なさそうに竹筒を返すと、
「なに、水ならいくらでもある。気にしない気にしない」
眼鏡看守は、にこっと笑って受け取ってくれた。
「さて、昼飯にしようじゃないか」
眼鏡看守がそう言うと、肩にかけたショルダーバッグに手を入れた。
中から取り出したのは、笹の葉でぎゅっと包まれた、丸い塊だった。
「ほら」
眼鏡看守とノームとタカギはその場に座り込み、
司も引き寄せられるように近くに座った。
眼鏡看守はその丸い塊を、
ノーム、タカギ、司の順に手渡していった。
司の手のひらに乗った笹の葉は、少しひんやりしている。
そっとめくると――
白い三角のおにぎりが現れた。
おにぎりは少し歪んでいて、海苔が一枚、帯みたいにくるりと巻かれている。
炊きたてみたいな米がつやっと光っていて、笹の香りがふわっと鼻に抜けた。
その瞬間。
ぐぅー……
司の腹が、びっくりするくらい正直に鳴った。
一拍おいて、ノームとタカギと眼鏡看守が、いっせいに笑い出した。
「おうおう、さっきまで全然動かないで文句言ってたのに、腹は素直だな」
タカギがにやにやしながら、意地悪そうに司に言った。
「ふっ、元気な証拠だ」
ノームはいつもの落ち着いた声で、少しだけ口元をゆるめた。
眼鏡看守も司の顔を見て、困ったように、でも優しく笑っている。
司は頬が熱くなるのを感じて、思わず視線を落とした。
耳まで赤くなっている気がして、余計に恥ずかしい。
「……えへへへ」
結局、司は笑ってごまかした。
司はおにぎりを食べ始めた。
ひと口かじると、ほどけた米がふわっと広がって、
ちょうどいい塩の味が舌に染みて、疲れた体に行きわたる気がした。
「……うまいなぁ」
司がしみじみ言うと、
「なんだよ、そのじいさんみてぇな言い方は」
タカギが笑いながら突っ込んだ。
「だって、おいしいんだもん」
司がむっとしながらも素直に返すと、
「だもんじゃねえよ。かわい子ぶってんじゃねぇ」
タカギは意地悪そうに言い、
司の頭を軽く小突く真似をした。
二人のやり取りを見ていた眼鏡看守が、満足そうに一度だけ小さく頷いた。
「さて、元気も出てきたようだね。私は他の組の所へ行くよ」
そう言って、バッグから新たに三個の竹筒を取り出して地面に並べると、
膝に手をつき、ゆっくりと腰を上げた。
白い髭がふわりと揺れ、
そのまま背中を向けて、のんびりとした足取りでその場を離れていく。
ノームは遠ざかる眼鏡看守の背中に、少し声を張って「ありがとう」と言った。
タカギと司も、それにつられるように、「ありがとう」と続けて感謝を伝える。
眼鏡看守は振り返らず、ただ片手をひらりと上げて応えた。




