第七話 あなたのそばにいるために
それから、私は有透さんのもとで働くため、やれることをやった。
大学の授業はもちろんのこと、これまで通りのバイト、さらには有透さんとカフェで面接の猛特訓。
きっと、普通の就活よりもハードだったことだろう。
だって、あの黒宮フューチャーカンパニーに挑戦するのだから。
実家に連絡をしたときも、驚かれた。
「あんね、大学を卒業したあとのことなんだけど……。実は、東京に残って、黒宮フューチャーカンパニーに入ろうと思ってる」
『え⁉︎』
『甘音もとうとう社会人か〜』
「何言ってるの、まだまだだよ」
今は、大学三年生の秋。
面接は、四年生になった年の梅雨頃だろう。
『甘音。いいんじゃない? 自分のやりたいことをやりな』
「お姉ちゃん……」
久しぶりに聞く姉の声が、すとんと胸に落ちた。
『甘音がワガママ言うなんて、珍しいし。自由な道を行っていいんだよ』
……私の、選んだ道。
私が初めて、レールを踏み外した瞬間だった。
そんな姉の言葉にも励まされ、見えない敵と戦い続けた。
月日は流れ、私たちは大学四年生に。
そして、運命の日がやってきた。
「今までありがとうございました、有透さん」
「気にするな。私はただ、甘音と働きたいだけだ」
面接会場で、私たちは最後の会話をする。
スーツに身を包んだ私と、いつものように黒いスカートを履いた彼女。
今日戦うのは、私だけ。
気を引き締めるために、軽く呼吸を繰り返す。
そして。
「行ってきます」
有透さんに背を向け、私は一人で歩み始めた。
心の中には、有透さんと練習した面接がある。
それが消えない限り、私は大丈夫だ。
不思議と、震えてはいなかった。
自信を持って、面接へと挑んだ。
―――
面接が終わり、私と有透さんはさっきと同じ場所で合流した。
「有透さん! できましたよ、私!」
「その様子は……。手応えが、あったみたいだな」
「はい……!」
自信は、これ以上ないくらいにあった。
はっきりと、自分をアピールできた。
「有透さんのおかげです。ありがとうございました」
頭を下げると、上から冷たい声が聞こえた。
「まだ、採用かは決まっていないだろう? そういうことは、採用してから言うんだぞ」
「あ、あはは……。すみません」
私が苦笑すると、有透さんは微笑んだ。
まるで、雪解けのように。
有透さんも、喜んでくれた。
胸の奥に、じわりと何かが広がっていく。
この人の笑顔のためなら、なんだってできる気がする。
有透さんの笑顔には、そんなパワーがあった。
このときは、自信に満ち溢れていた。
のだが……。
一週間後。
スマートフォンが、一通のメールを受信した。
件名:【選考結果のご連絡】黒宮フューチャーカンパニー
烏野 甘音様
視線が、画面の上を滑っていく。
そのたびに、心臓の鼓動が激しくなっていった。
そんな、こんなことって。
烏野様の今後ますますのご活躍をお祈り申し上げます。
薄っぺらいお祈りが、絶望に拍車をかける。
きっと、体は震えていたことだろう。
有透さんと夢見た、二人で働く道。
家族も、応援してくれたのに。
こんなにもあっさりと、逃してしまったのか……。
「ごめん、なさい……」
両の瞳から、涙が溢れ落ちた。
その涙は、悔しさとすまなさが同居した、変な味をしていた。




