徒然ない旅 鶴岡編②
朝に家を出て、たっぷり4時間強。
ようやく鶴岡へやってきた。
私はちょっと疲れたが、最近筋トレを始めた60近い母はテンションも高く、元気だった。
予定としては、ここからバスで湯の浜温泉に向かって、そこで終了である。
しかしそこは、我が家の旅。
目的地にだけ行く旅など、ハナからする気はない。
予定は未定なのである。
鉄道と違って、土地勘の無い場所でのバス利用は、なかなかにハードルが高い。
一口に同じ行き先といっても、経由が違ったり似た地名があったり運航会社が異なるなんてこともザラだ。
鶴岡駅からは湯の浜温泉に行くバスは2系統あるようだが、幸いにも今日泊まる宿には、どちらのバスも近くを通る。
しかし、肝心のバスがない。
行ったのは平日だが、1日5往復ずつ。
休日に至っては、3往復ずつぐらいしかない。
ちょうどお昼時だったので、鶴岡駅で朝に買った駅弁を食べたが、バスの時間まではまだまだ時間がある。
このまま鶴岡駅に飾られたポスターを眺めるだけというのも勿体ないので、母と私は少し歩くことに決めた。
目的地は、鶴が岡城址公園。
以前、社内旅行で加茂水族館に行ったときに、最初にツアーバスが立ち寄ったのがここだった。
駅からそう遠くなさそうだったので、ブラブラ歩きつつ、バスの待ち時間をつぶすことにした。
途中、鶴岡にいながら元東京の路線バスに巡り合うというレアな体験をしつつ、快晴の下に鶴岡公園に到着する。
親子の手には、先ほど鶴岡駅で手に入れた観光パンフレットが握られていた。
その中の古っぽい建物の写真に、2人は魅了されてしまっていた。
『致道館』
今から200年ほど前に建てられた藩校で、私のなじみ深さで例えるなら会津の『日新館』のようなものだったらしい。
その建物が保存され、今も残っているというのである。
地図を片手に、「多分あっちだ!」と何の疑問もリサーチもなく、一心不乱に突撃して我々親子は、目的地である『致道博物館』へと入場した。
入って気が付いた。
ここじゃない。
なんか2文字多い。
どうやら鶴岡城址を挟んだ反対側に、致道館はあったらしい。
なんて紛らわしい!
でもそれはそれとして、致道博物館には明治期などに建てられたであろう、擬洋風建築の建物などが保存されており、どちらかというと私はこっちの方が好みだった。
というか、前回バスからチラッとしか見れなくて心のこりになっていたのが、まさにここらしかった。
中でも旧西田川郡役所の1階には、ドールハウスが所狭しと展示されており、模型好きの私は食い入るようにそれらを見た。
致道博物館を出た後、私たちは鶴岡城址へと入っていった。
どうやら母が目ざとく『藤沢周平記念館』なるものを地図に見つけ、ぜひ行きたいと申し出たのだ。
興味はなかったが、異論もなかったので、意気揚々と先導を切る母に私はついていった。
途中、神社があったので、パパっとお参りして、今回の旅の無事を祈願していく。
ついでに鯛みくじなるものがあったので、それも引いてみた。
…いや、釣ってみた。
フツーにお布施して、かごの中にある鯛を選ぼうとしたら、母に呼び止められ手を止めた。
よく見ると、鯛の詰まった籠の横に竿の入った筒があった。
これで、おみくじの入った鯛を釣る仕様らしい。
面白い!
鯛といえば赤色、水色や金色には目もくれず私は赤の鯛に竿を延ばした。
ちなみに欲丸出しの母は、金色を釣った。
結果は、そろって『吉』
可もなく不可もなくとったところか、正月三が日に凶を引いた事を思えば、そう悪い結果でもない。
母は結んでいったが、私は持ち帰り、たまに神棚にあげ凶のおみくじと共にてセルフ祈祷する事に決めた。
平日という事もあって、どこも人はまばらで、ゆっくりと鑑賞する事ができた。
目的だった記念館や致道館へも行き、近くのお茶屋で笹餅を食べながら、いよいよ湯の浜温泉行のバスがくるのを待った。
バスは夕方という事もあり、帰宅する高校生や買い物帰りの地元客でそこそこの乗車率だった。
かつてはここを電車が走り、湯の浜温泉とここ鶴岡を結んでいた。
もう、その面影はあまり残されていない。
そう思っていたのだが、バスが『三宝寺』という場所に到着した時、驚きの光景を目にした。
電車がいる!!
正確には、電車だったもの。
車体はさびでボロボロで、屋根は抜け落ち周りは柵でおおわれている。
かつては駅舎も残り、記念館として開放されていたようだが、最近になって駅舎は解体され、電車も荒廃が進んでいるという。
建物や列車の保存というのは、そう簡単なものではないのだと実感させられるが、このまま朽ちていくことを思うと、残念でならない。
最新型のバスは老兵を横目に坂を上り、海が見え始めたところで湯の浜温泉へと到着した。
我々が止まるのは、テトラポッドみたいな名前をしたホテル。
とりあえず荷物を降ろし、母は早速に温泉へ入りに行った。
もうじき日没、水平線に落ちる夕日を眺めながら露天風呂に入りたかったようだ。
実にエレガントだ。
しかし私はエレガントより、その美しい光景を写真に収めたかったので、荷物を置いて砂浜へと出た。
まさに絶景。
人もまばらで、まるで夕日の沈む日本海を独り占めしているような錯覚さえ覚えた。
明日もきっと、いい日になるだろう。
帰り道、少しわき道をそれると、何やら風情のある公衆トイレを見つけた。
そのトイレは、電車の色をしていた!
看板も何もないが、どうやら昔、先ほど三宝寺で見た電車の終点が、ここにあったようだった。
今は鉄道跡がサイクリングロードとして整備され、かつての面影を今に残している。
しばらく歩いてみたが日没後は街頭はあっても暗く、途中『クマ出没注意』の看板を見かけたところでやめた。
無理することはない。
来た道を降り、ホテルに戻って旅の汗を流しこの日の締めくくりとした。
…と思ったが、部屋に戻ると鬼の形相の母が待ち構えていた。
どうやらウッカリ部屋に忘れたスマホのせいで私に連絡がつかず、心配をかけてしまったらしい。
つい荷物になるからと、置いていったのがアダになったようだ。(2キロのカメラは持って行った)
今後はスマホは持っていこう、そう固く誓った。




