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徒然ない旅 鶴岡編①

 唐突だが忘れっぽいので、この辺で私自身の日記を書こうと思う。


 ただし、毎日書くのとかしんどいし、どうせ朝に仕事に行って夕方帰ってきて風呂に入って寝るだけの退屈な日常なんか、書き記すこともないだろう。

現に今、この一文で私の一日の大半の出来事を書き終えてしまった。

 日記と書いたが、ウソだ。

そのうち気が向いたら、日常のことなんかも書くことがあるかもしれないが、それは当分先かもしれない。

 

 作品タイトルに備忘録(びぼうろく)と書いたのは、うそではない。

私は旅が好きだ。

あと、なにか興味があれば、それに手を出して面白ければ続けるし、そうでなさそうならやめる。

それはさておき、今回の旅は3日前ぐらいに終えたばかりなので、忘れないうちに旅の模様をある程度書き記しておきたいと思い、筆を取った。

 

 あくまで、自分用の備忘録だ。

誰かを楽しませる気なぞさらさらないし特段、話の最後にオチがつくようなこともない。

他人の日記を覗き見るのが好きな、悪趣味な皆様が寝る前にぼーっと読むなり、帰りの電車に揺られながら明日も仕事だという憂鬱を、ひと時でも忘れられる一助になるなら、それも良いかもしれないが。


 

 話を戻そう。

先にも言ったが、私は旅が好きだ。

しかしツアーに申し込んで皆と団体行動をしたり、誰かがモデルコースを設定した工程をなぞるような旅は正直、好きくない。

興味が出たところがあったら都度、時刻表とガイドブックと地図を開いて、どう効率的に回れば満足に回れるか。

仕事中にさえ、そんな事を考えている事も多い。

なんなら私は、小学生のころには1人で片道5時間かけて鈍行で東京に行ったり、新幹線で函館に行くようなアグレッシブな1匹狼であった。

私の旅の9割以上は、自分で思い立って計画を立て、勝手に行くというルーチンである。


 だが今回の旅は、同居する母親のこんな言葉から始まった。

「クラゲが見たい」

くらげ。

あの海にいる海洋生物のことか。

昔長崎に住んでいた時、橋の上から覗いたらウジャ~っと川面に大量発生して浮いていた印象しかない。

なんて言うものの、私自身も海洋生物は好きだ。

どっちかというとサメとか、深海生物が好きだが、それはひとまず置いておこう。

母の要望を聞いた瞬間、すでに心当たりがあった。


世界一のクラゲ水族館 として名高い『加茂水族館』である。


 心当たりというか、去年の社員旅行の目的地がここだった。

「入社以来初参加だね!」と、上司にジョーダンなのか皮肉なのかわからないことを言われながらも参加した思い出の場所である。

団体旅行が嫌いな私だったが、なかなか行けない水族館に連れて行ってくれるというので、参加に〇をつけたのだった。

とても良い場所だった。

何より、クラゲを前面に押し出してくるだけあり、館内のクラゲに対する熱意がすさまじかった。

帰りのビンゴ大会で社長の買ったクラゲマグカップを引き当てるくらい、皆のクラゲに対する熱意もひとしおになった。

有田焼の宇宙人みたいなクラゲが書かれたマグカップは、今も戸棚でひっそり出番を待っている。

あのとき、デッカいクラゲのぬいぐるみを当てた課長の嬉しそう(?)な顔は、今思い出してもケッサクである。

 余談はさておき、加茂水族館は場所だけは私の住む隣県に立地するのだが、交通の便が悪く、結構行きにくい場所にある。

日帰りするのだとして、朝に家を出てもつくのはオヤツ時前くらい。

そうして夕方には帰り、家に帰りつくのは、日もとっぷり暮れた真夜中。

なかなかの弾丸ツアーだ。

目的地で遊ぶ時間より移動時間の方が長すぎる。

私みたいな移動自体を楽しむ人種はさておき、母親はフツウの人類だ。

 しかしそんな懸念は、杞憂に終わった。

もとより母は、1泊2日で湯の浜温泉に泊まってから行くつもりだったのだ。

それなら、大したことはない。

最寄りの駅まで行く列車だって2時間に1本はあるし、バスも日中3往復もある。


 我が家は、行きたければ勝手に行けというルールがある。

家族旅行なんか数えるほどしか行ったことがない。

各々が旅行好きなのだが、楽しみ方や時間の使い方などに断崖絶壁のような隔たりがあり、よくケンカになるのでそれぞれが、思い思いに行こうという暗黙の了解が出来たのだ。

この間も母は出雲に行くとか言っていたし、父も九州に行くとかなんとか言ってたし、私も秋には青森に行こうかと思っているので、今回は行ってらっしゃいして、良い子にお留守番しているつもりだった。

だがどうしてか、今回ばかりは母は私と一緒に行くのが前提だったらしく、湯の浜温泉に宿まで取ってしまったという。

ちなみにその日は、ガッツリ仕事の日だった。


 「実は急用が来てしまいまして…」

理解ある会社なので、半月前にこう切り出せば、あっさり休みの快諾が得られた。

切符も手配し、時間や道なんかの事前リサーチも怠らない。

最近はグーグルアースなんかで、現地に行かなくても現地の景色や目印なんかを俯瞰で見ることができるので、便利な世の中である。


 そうして準備万端で、出発当日の朝を迎えた。

母のテンションは、何日か前から高かったが、この日はもう、このままどっかに飛んでいきそうなぐらいのはしゃぎようだった。

このままクラゲ水族館に行ったら、宇宙のかなたに飛んで行ってしまうのではないかと不安になる。

最寄りの新幹線の駅に着くと、私はまず少し窓口に寄った。

今の切符でも問題ないのだが、後日(・・)の計画に対して布石を打っておくのだ。

幸い窓口は私のほかに客はおらず、スムーズに改札を抜ける。

今日の予定は、山形新幹線で新庄まで行って、在来線を乗り継いで鶴岡へ。

そこからバスで、今日の宿がある湯の浜温泉へむかうという旅程である。

昼ごはんの時間は、ちょうど列車の移動中に当たる。

駅のコンビニで、駅弁でも買おうかと物色していると、おにぎりの棚に駅弁みたいなおにぎりを見つける。


駅弁みたいな、おにぎり だと?


 郡山駅名物『海苔のり弁』風のおにぎりらしい。

公認のようだ。

これを食わない手はない!

ついでに隣のソースカツ丼風おにぎりというものも買って、今日の夜ご飯という事にした。

(昼には、牛肉ど真ん中を買った)

さて、もうじき乗る予定のつばさが到着するという放送が流れたので、ホームへ上がる。

なすみたいな色をした、少しズングリした新幹線が入ってくる。

E8系つばさである。

一昨年に、先任のE3系を置き換えるべくJR東日本が導入した新しい新幹線車両である。

デビューの日に新庄まで写真を撮りに行って、デビュー1か月後に1日中乗り回したのが、今となっては懐かしい。

今回は、完全に移動手段だ。

母は山形から先にはほとんど行ったことが無いらしく、謹んで窓側は譲った。

さっきまで薄曇りだったのだが、新幹線が出発すると徐々に晴れ、安達太良や吾妻連峰がキレイに車窓に映った。

わりとよく見る景色ではあるので、母のテンションは別に変らない。

私がいつも乗っている鈍行と違い、つばさはスピードを上げ、あっという間に力餅の売っている峠駅も通過し、山々を抜け山形県に入った。

母は、車内販売があることに、驚きを見せていた。

うんうん、いつも乗ってる やまびこ には、もう乗ってないもんね。

全席指定のJR東日本の列車で、まだ続いているんだよと軽く教えておく。

そんな車内販売のお兄さんを山形駅で降ろし、つばさはいよいよローカル線に入っていく。

 母にとっては未知の国だ。

テンションも、まるでエンジンでもかけたように唸りをあげて高まっていく。

あの城? 山形城だよ。

あの山? 月山かな?

あの家? ちょっとよく分からないや。

つばさは、新庄駅に定刻で到着した。

 新庄駅での乗り換え時間は、おおよそ20分。

すこし時間があったので、改札を出て土産物屋なんかを物色する。

残念ながら、オヤツに買おうと思っていた笹餅は売っていなかった。

その先にある鉄道ギャラリーを少しの間眺めている間に、乗り換え列車の時間になった。

ホームに入ってきたのは、窓下が黄色に塗られた2両編成のディーゼルカー。

これで余目というところへ行く。

母のテンションに発破をかけるようにエンジンがうなり声をあげ、仄かに軽油のにおいを漂わせながらゆっくりと新庄を後にした。

 走り出して暫くして、ディーゼルカーの走る陸羽西線は最上川を右手に走る。

良い景色だ。

途中で川下りの船も見えた。

列車はトンネルを抜け、川沿いを右へ左へ曲がりくねりながら、ゆっくりとした足取りで庄内平野へ出た。

大きな風力発電が乱立した、長閑な風景の中にどっしりと鳥海山がすそ野を広げる。

列車はグッと右に大きく曲がり、羽越本線と合流した。

 実に10数年ぶりの日本海縦貫線である。

だが感慨にふけっている時間はない、ここ余目駅での乗り換え時間は数分。

到着と同時に階段をのぼり、こ線橋を超えた向こう側に止まる鶴岡行きの列車に乗り込む。

これで一安心だ、この列車の終点まで乗れば、目指す鶴岡である。


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