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星喰いの王と灰色の魔法使い  作者: くるみ


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3/10

第3話:嘘つきの剣士

 星市の中は,外から見た以上に奇妙な場所だった.


 通りには笑い声があふれているのに,どこか空虚だった.

 人々の表情は明るい.だが,目だけが妙に軽い.

 何かが抜け落ちているような顔.


「……変な感じ」


 灰がつぶやくと,隣を歩くレオンが肩をすくめた.


「そりゃそうだろ.大事な記憶を売ってるんだからな」


「でも,みんな楽しそう」


「忘れてるからな」


 その言葉はあまりにもあっさりしていた.

 灰は思わず足を止めた.


「忘れたら……それでいいの?」


 レオンは一瞬だけこちらを見たが,すぐに前を向いた.


「いいかどうかは,そいつが決めることだ」


 それ以上は何も言わなかった.


 やがて,二人は人だかりの前にたどり着いた.

 騒がしい声が聞こえる.


「盗まれたんだよ!」

「嘘だろ,星をか?」

「いや,確かにあったんだ!」


 灰は背伸びして中をのぞいた.


 一人の男が地面に座り込んでいる.

 その手には,割れたガラス瓶.


「ここに……入れてたんだ……」


 男は震える声で言った.


「娘の記憶なんだ……!売らずに,残しておいたのに……!」


 その言葉に,周囲がざわつく.


「盗まれたのか?」

「そんなことあるのか……?」


 レオンが小さく舌打ちした.


「始まったな」


「何が?」


「星泥棒だ」


 灰は驚いてレオンを見た.


「星って,盗めるの?」


「物だからな.瓶ごと持っていけば終わりだ」


 レオンはそう言いながら,周囲を鋭く見回した.

 その視線は,先ほどまでの気だるさとはまるで違う.

 獲物を探すような目だった.


「……お前,ちょっとここにいろ」


「え?」


「すぐ戻る」


 そう言うと,レオンは人混みの中へ消えた.

 あまりにも自然に.

 まるで最初からそこにいなかったかのように.


「……速い」


 灰は思わずつぶやいた.

 そのときだった.

 胸の奥が,微かにざわついた.


 ――近くにある.


 何かが.

 灰は無意識に歩き出していた.


 路地へと入る.

 人の気配が少ない細い道.

 その奥で,小さな影が動いた.


「……誰?」


 問いかけると,影がびくりと止まった.

 そこにいたのは,まだ幼い少年だった.

 腕に瓶を抱えている.

 中には,淡く光る星が揺れていた.


「返して」


 灰は静かに言った.

 少年は首を振った.


「これは……僕のだ」


「違うよ」


 灰は一歩近づく.


「それ,悲しい記憶でしょ」


 少年の顔がゆがんだ.


「……なんで分かるんだよ」


 灰自身にも分からなかった.

 ただ,見れば分かる.


 その星は,強く揺れていた.

 不安定で,痛みを含んだ光.


「それ,持っててもつらいだけだよ」


「だからだよ!」


 少年は叫んだ.


「これがないと……僕,何もなくなる!」


 その言葉に,灰は動きを止めた.

 胸が強く締め付けられる.


 ――知っている.


 その感覚を.

 失えば,自分が消えてしまうような恐怖.


「……」


 灰はしばらく黙っていた.

 やがて,小さく息を吐く.


「少しだけ,貸して」


「は?」


 少年が戸惑った瞬間,灰は手を伸ばした.

 星に触れる.

 光が弾けた.

 次の瞬間,映像が流れ込んでくる.


 泣いている少年.

 倒れた誰か.

 呼んでも返事がない.


 強い痛み.


 そして――


 消えない後悔.


「……っ」


 灰はよろめいた.

 だが,手は離さない.

 代わりに,もう一方の手に灰色の光を集める.


 それを,そっと星に触れさせた.

 すると,不思議なことが起きた.

 荒れていた光が,少しずつ落ち着いていく.

 痛みが,静まっていくように.


 やがて,星の色が変わった.

 淡い,やわらかな光へと.


 灰はゆっくりと手を離した.


「……はい」


 瓶を返す.

 少年は呆然とそれを見つめた.


「……軽い」


 ぽつりとつぶやく.


「まだ覚えてるのに……苦しくない」


 そのときだった.


「やっぱりな」


 後ろから声がした.

 振り返ると,レオンが立っていた.

 腕を組み,じっとこちらを見ている.


「お前,ただの魔法使いじゃないな」


 その目は,どこか確信を帯びていた.


「……何者だ?」


 灰は答えられなかった.

 ただ,自分の手を見つめる.

 灰色の光が,静かに揺れていた.

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