表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/115

第96話 記憶の鍵

 戦闘が続いていた。

 魔王の力が段階的に上がっている。最初の段階より出力が増していた。感情のない魔法の精度が、さらに上がっていた。

 ゼノが対応し続けた。

 六属性を切り替えながら、攻防を繰り返した。押す。押し返される。また押す。拮抗が続いていた。


 いくらゼノと言えど消耗が来ていた。

 魔王は消耗している様子がなかった。感情がない分、無駄な力が一切出ていなかった。必要な時に必要な量だけ使っていた。完全な効率だった。

 ゼノは感情が来るたびに力が上がった。だが、感情が揺れるたびに判断が乱れた。それが積み重なって、消耗が増えていた。


 すると後方で音がした。

 大きな音だった。ゼノは前を向いたまま、気配を確認した。

 眷属の一体が、ライナスの防御を突破していた。

 ライナスが壁に当たった音だった。


「ライナスさん!」とエリナの声がした。

 重傷ではなかった。ただし、立ち上がれる状態ではなかった。

 次の瞬間、別の音がした。


 セレンだった。

 眷属の攻撃にセレンが水属性で対応しようとしたが、間に合わなかった。

 セレンが倒れ、動かなかった。


 ゼノが見た瞬間——何かが崩れた。

 崩れる、という感覚があった。内側の何かが崩れた気がした。

 処理しようとしたが、できなかった。

 処理を開始する前に、何かが来た。

 来た、という言葉も追いつかなかった。ただ、何かが崩れた。


 意識の端に円卓が見えた。

 一瞬だった。

 アクアが立ち上がっていた。

 今まで静かに座っていたアクアが、立っていた。顔がゼノを見ていた。水色の瞳が、いつもより開いていた。

 来る。そう感じた。まだ来ていなかった。ただし、来ようとしていた。

 意識が戻った。


「セレンさん!

 」

 エリナが駆け寄った。

 ゼノは魔王から目を離さなかった。目を離せなかった。


「ゼノ。俺が前に出る。少し下がれ」

「大丈夫か」

「大丈夫だ。お前が崩れてる」

「崩れている、か」

「今、顔が違う。下がれ。セレンを確認してこい」


 ゼノは下がり、代わりにレオンが前に出た。

 セレンの傍に来た。エリナが回復魔法をかけていた。


「どうだ」

「意識はあります。重傷ですが、動けなくなるほどでは。今、止血しています」

「続けてくれ」


 セレンが目を開けた。かすれた声で「ゼノさん」と言った。


「動くな」

「……続けてください。わたしは大丈夫です」

「大丈夫ではない。エリナに任せろ」

「はい」


 その時だった。

 記憶が蘇った。突然だった。来ようとしていた気配がなかった。


 冬の夜道だった。

 悠斗と詩織が前にいた。ゼノはその場に立っていた。

 ナイフを持った男が走って来た。

 詩織に向かったが、悠斗がそれを庇った。刃が届く前に、悠斗が間に入った。

 悠斗が倒れた。後退した衝撃で詩織が倒れた。

 ゼノ――蓮は立っていた。無傷で。何もできなかった。一歩も動けなかった。


「……あの時、俺は——何を感じていたのか」


 魔法の音が遠くなった。広間の中で、ゼノは一人で立っていた。

 レオンが前にいた。戦闘が続いていた。だが一瞬、別の場所にいた。


 円卓が見えた。

 今度は一瞬ではなかった。

 アクアが立っていた。ゼノの前に来ていた。水色の瞳がゼノを見ていた。


「ゼノさん」

「アクア」

「今だけ、思い出してください」

「何を」

「あの時、感じていたことを」

「思い出せない」

「思い出せます。封じていたけど、消えてはいない。さっき来たでしょう。あの日の記憶が」

「……来た」

「来たということは、準備ができています。今だけ、向き合ってください。あの時、何を感じていたか」

「封じた。感じていたかどうかすらわからない」

「わかります。感じていたから封じた。感じていなければ、封じる必要がなかった」


 あの日の記憶が来た。詩織が刺されそうになったのを悠斗が庇った。自分は何もできずに立っていた。

 あの時、何があったのか。

 感じていたはずだった。感じていたから、封じた。何かが来たから、それを止めた。


「……来ていた」

「何が来ていたんですか」

「何かが来ていた。だから止めた。何かが来て、それを受け取れなかった。受け取ったら、俺は動けなくなると思った。だから止めた。だから封じた」

「その何かが、何だったか」

「……わからない。来た瞬間に、止めた。だから何だったかが、わからない」

「今、思い出せますか?」


 戦闘の音が遠くから来た。

 レオンが戦っていた。エリナがセレンを回復していた。ライナスが立ち上がろうとしていた。

 それが見えた。

 今日もそれと同じことが起きた。セレンが倒れた瞬間に、崩れる感覚が来た。

 あの時と同じ種類の何かだった。


「……同じだ」

「何が同じですか」

「今日、セレンが倒れた時に来たものと、あの時に来たものが——同じ種類だった気がする」

「そう思いますか?」

「同じ崩れる感覚が来た」

「その崩れる感覚が何か、わかりますか」


 崩れる感覚。内側の何かが壊れる感覚。守れなかった時に来るもの。


「守れなかった時に来るものだ」

「そうです。それが悲しみです、ゼノさん。守れなかった時に来るもの。失った時に来るもの。間に合わなかった時に来るもの」

「悲しみか」

「はい。あの時も来ていた。二人が傷ついて、自分が無傷で立っていた。その時に来たものが、悲しみだった。それを受け取れなかったから、封じた」

「受け取れなかった」

「受け取ったら壊れると思ったんだと思います。だから止めたんです」

「壊れなかったか」

「今、壊れていないじゃないですか」

「今日、崩れる感覚が来た」

「崩れる感覚が来ても、立っています。セレンを確認して、エリナに指示して、レオンに任せた。崩れながらも動けた」

「……動けた」

「受け取っても、壊れない。今日それがわかった。あの時に受け取れなかったものを、今日は受け取れた。その違いが、ここまでの変化です」

「……アクア」

「はい」

「あの時に来たものを、今受け取ることはできるか」

「できます。今がその時だと思います。戦闘の中でも、向き合えています。それが準備ができた、ということだと思います」

「向き合う方法を教えてくれ」

「方法はないです。ただ、来たものを来たままにしておくこと。それだけです」

「ルミナと同じことを言っているのか」

「感情はどれも同じです。来たものを来たままにしておく。それが受け取ること」


 意識が戻った。

 戦闘が続いていて、レオンが踏みとどまっていた。

 セレンが起き上がろうとしていた。エリナが「まだ動かないでください」と言っていた。

 ライナスが立ち上がっていた。


 全員がいた。

 セレンが倒れた時に来た崩れる感覚が、まだそこにあった。

 来たままにした。処理せずに受け取った。

 意識の端で、アクアが立っていた。

 まだ来ていなかった。だが来ようとしていた。


「ゼノさん」


 アクアの声が来た。


「わかっている」

「もうすぐです」

「ああ」


 ゼノは前を向いた。

 今この瞬間に、向き合う準備が出来た気がした。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ