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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

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第91話 悲しみの予兆

 城の中層で、討伐隊の一部と合流した。

 別のルートから来た騎士の部隊だ。ゼノたちが来た時、その部隊はすでに待機していた。怪我人が出ていたが、全員が来ていた。


「ゼノさん! 無事でよかった」

「こちらも問題ない。他のルートの状況は」

「一部隊は無事に着いたと連絡が来ています。ただし——」

「ただし?」

「連絡が取れない部隊があります」

「どの部隊だ」

「風属性を中心とした小部隊です。速度を活かして別ルートを担当していた。最後の連絡から、しばらく経っています」

「風属性を中心とした小部隊……」

「はい。若い冒険者が中心の部隊で——」

「ライナスもその中にいるのか」

「はい。そのライナスという方が率いていた部隊です」


 ライナスたちのグループが連絡を絶った。


「捜索に行く」

「待ってください! 罠の可能性が——」

「わかっている」

「わかってて——」

「それでも、行く」


 エリナが少し止まった。


「……一緒に行きます」

「二人で動いても問題ないか」


 ゼノは合流した部隊の騎士に確認した。


「この場所は安全を確保できています。あなたたちが動くことは可能です。ただし——」

「戻れない可能性がある、ということか」

「そうです」

「わかった。合流地点での再会を目指す。ライナスたちを見つけたら、一緒に向かう」

「了解しました。気をつけてください」

「ああ」


 二人が動いた。

 ライナスたちが担当していたルートの方向へ向かった。


「どうして即座に行くと言えたんですか」

「なぜそれを聞く」

「罠かもしれないって、ゼノさん自身がわかっていたのに」

「わかっていた。それでも、考える前に言葉が出た」

「考える前に」

「ライナスが来ないと聞いた瞬間に来た。計算の前に来た。捜索に行く、という言葉が先に出た」

「それが、ゼノさんがライナスさんのことを大切に思っている証拠だと思いますよ」

「……そうかもしれない」


 気配を確認しながら歩いた。魔物の反応があった。統率されている動きだった。


「乱れている」

「何が乱れているんですか」

「統率が、一部崩れている。この区画の魔物の動きが、城の奥の方向とは違う。戦闘があった可能性がある」

「戦闘の痕跡があるんですか」

「気配として残っている。このルートで最近、何かがあった」

「ライナスさんたちが戦ったんですか」

「可能性がある」


 歩きながら、ゼノは感覚を確認し続けていた。

 ライナスが来ない。

 その事実が頭にあった。処理しようとして、できなかった。

 処理できない、という状態が続いていた。情報として入力して、分析して、結論を出す。その流れが動かなかった。


 なぜ処理できないのか。

 ライナスが来ない。その事実が、なぜ処理できないのか。

 可能性として、ライナスが危険な状態にある。その可能性が、処理を止めていた。

 なぜ止まるのか。


「ゼノさん、大丈夫ですか?」

「問題ない」

「また問題ない、って言いましたね」

「言ったか」

「はい。でも顔が少し違います」

「どう違うんだ」

「いつもより、固い気がします。何かを処理しようとして、できていない顔です」

「……そうかもしれない」

「話せますか、今」

「今は進みながら確認中だ。止まれない」

「わかりました。進みながら、何かあれば言ってください」

「……ああ」


 ルートの分岐点に来た。

 左右に道が分かれていた。どちらにも気配があった。左の方に、最近の戦闘の痕跡が濃かった。魔力の残滓が多かった。


「左だ」

「わかりました」


 廊下を曲がった先に、崩れた壁があった。魔法で壊された痕跡だった。


「戦闘があった」

「最近ですか」

「数時間以内だと思われる。魔力の残滓がまだ新しい」

「ライナスさんたちですか?」

「可能性が高い。この規模の魔法は風属性が含まれている」


 さらに進んだ時、声が聞こえた気がした。

 かすかだったが、確かに聞こえた。


「ライナスさんたちですか?」

「確認する。気配を広げる」


 感知を広げた。

 前方に、複数の人間の気配があった。魔物の気配もあった。囲まれている状態だった。


「いた。囲まれている。急ぐぞ」


 走りながら、意識の端に円卓が見えた気がした。

 アクアがいた。

 ゼノの隣に座っていた。何も言わなかった。ただ、そこにいた。


「アクア」

「……はい」

「ライナスが来ない。これは——」

「今は、考えなくていい」


 アクアが静かに言った。


「ただ、行きましょう。」


 その言葉が来た瞬間、意識が戻った。

 走っていた。廊下を走っていた。

 考えなくていい。ただ、行く。

 それだけだった。


「前方に気配。魔物が四体。ライナスたちが中にいる」

「わかりました。どうしますか?」

「前から崩す。エリナは後方から回復の準備を」

「はい」


 廊下の先で、四体が固まっていた。その向こうに、人間の気配があった。

 ゼノが前に出た。

 土属性で進路を固定し、風属性で速度を上げた。複数属性を切り替えながら、四体の中心に入った。

 注意がゼノに集中した。

 その隙に、後ろから声が来た。


「みんな、今です!」


 エリナが叫んだ。

 壁の向こうから人間が動いた。

 ライナスだった。肩を押さえながら走っていて、後ろに数人が続いた。


「ゼノさん!!」

「こちらに来い。今すぐ」

「はい!」


 ライナスが走り、それに続いて後ろの数人も走った。

 ゼノが魔物を押し返した。エリナが合流した人間たちに即座に回復魔法をかけた。


 全員が廊下を抜けた。

 魔物が追いかけてきた。セレンがいれば展開できた水属性の制限がなかった。ゼノが土属性で壁を作り、時間を稼いだ。


「走れ!」


 廊下を全力で走った。

 安全な区画まで来た。魔物の追撃が止まった。

 ゼノはライナスを確認した。肩の傷があった。深くはなかった。


「エリナ」

「はい。今すぐ回復します」


 エリナがライナスの傷に回復魔法をかけた。


「ゼノさん、来てくれましたね」


 そう言ったライナスの声が震えていた。


「来ると言った」

「言ってましたっけ」

「言っていない。ただ、来た」


 ライナスが少し笑った。疲弊していたが、笑った。


 全員を確認した。

 ライナスのグループが全員いた。誰も欠けていなかった。

 その事実を確認した時に、何かが来た。

 昨日から処理できなかった何かが、今、少し動いた。


「ライナス」

「はい」

「無事で、よかった」

「……ありがとうございます。ゼノさんが来てくれたから、よかったです」


 意識が円卓に向いた。

 ゼノが入ると、アクアだけが来て座った。何も言わなかった。ただ、そこにいた。


「アクア」

「はい」

「ライナスが来ない、と聞いた時に処理できなかった。今も、何かが残っている。これが——」

「今夜は、答えなくていいです」

「なぜ」

「今来たものを、持ったままでいてください。整理する必要はない。ただ、来たことを確認しておいてください」

「来たことを確認する、か」

「はい。それだけで十分です。今は」

「……わかった」


 アクアが静かにそこにいた。

 何かが来たまま、戦いは続いた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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