第88話 仲間との別れ・後半
結界の直接解除の理論を聞いた後、隊長がもう一つの案を説明した。
「複数の小部隊に分かれて、それぞれ別のルートで城内に侵入する」
「別のルート、とはどういう意味だ」
「魔王城には複数の入口がある。正面だけが入口ではない。斥候が確認した限り、城壁に複数の弱点がある。それぞれを別の部隊が担当して、同時に侵入する。分散した方が、一箇所に戦力が集中しない」
「城内での合流地点は」
「城の中枢だ。そこを目標として、別のルートから向かう。どのルートを通っても、最終的に中枢で合流する」
「ゼノのパーティはどのルートを担当するんだ?」とレオンが聞いた。
「それが問題だ。パーティ全員で一つのルートを進む形でもいいし、分かれて複数のルートを担当する形でもいい。どちらにするかは、お前たちの判断に任せたい」
「分かれることで、各ルートの成功確率が上がる可能性があるのか」
「ある。一箇所に五人が集中するより、複数のルートにそれぞれ対応できる者がいた方が、全体として城内に到達できる確率が上がる」
「ただ、分かれることで各自へのリスクも上がると」
「そうだ。一人あるいは少人数での行動は、全体の支援が受けられない」
ゼノは全員を見た。
「意見を聞く。分かれることについて、各自の考えを言ってくれ」
「俺、別ルートを担当します」
ライナスが言った。
「速度があれば一人でも動けます。障害を回避しながら進むことが俺の動き方だから、単独でも機能できると思います」
「リスクは把握しているのか」
「把握してます。それでも、俺が一つのルートを担当することで、ゼノさんたちが中枢に向かいやすくなるなら、意味があると思います」
「俺も行けるルートがある」
レオンが言った。
「どのルートだ」
「火属性が使える場所を選べれば、俺の出力で壁を突破できる部分がある。斥候の情報に、城壁の一部が脆い場所があった。そこを火属性で破れれば、別の侵入口になる」
「単独での行動になるが」
「わかってる。でも、俺が別から入ることで、城内での敵の注意が分散する。陽動になる部分もある」
「合理的な判断だ」
「ゼノに合理的って言われると、やっぱり認められた感じがするな」
「認めている」
「わたしは……」
セレンが少し間を置いた。
「騎士団と合流して、支援に回ります」
「支援とはどういう意味だ」
「水属性の広範囲展開は、複数の部隊が動く状況で有用です。一箇所で戦闘するより、複数の部隊が動く外側で支援することで、全体の動きがよくなる。わたしは騎士団と一緒に、各部隊の補助をします」
「城内には入らないのか」
「合流地点に向かうルートを作る役割として、外側から動きます。状況によっては城内に入る可能性もありますが、最初は外側の支援を担当します」
「セレンの判断を尊重する。水属性の広範囲展開が、外側での支援に最も機能する」
「ありがとうございます」
「エリナはどうする」
「ゼノさんと一緒に行きます」
「なぜ」
「回復役が城内の中枢を目指すルートにいることが、合流地点での戦力維持に繋がります。合理的な理由があります」
「合理的な理由を述べてくれたな」
「ゼノさんと一緒に行きたいという理由もあります。両方あります」
「両方受け取った。分かれる、ということで確定でいいか」
ゼノは全員に確認した。
「いいぞ」
「はい」
「わかりました」
「はい」
「わかった。隊長、この編成で動く。各ルートの詳細を共有してくれ」
「了解した。すぐに地図を持ってくる」
出発前の準備が始まった。
各自が装備を確認した。それぞれが向かうルートの情報を確認した。
ゼノは全員の準備が整ったことを確認してから、一人一人に声をかけることにした。
「レオン」
「何だ?」
レオンが振り返った。装備の確認を終えていた。いつも通りの顔をしようとしていたが、少し違った。
「行ってくるぞ」
「ああ。生きて戻れ」
「当然だ。約束しろ、ゼノも」
「約束する」
「よし、合流地点で会おう」
レオンが少し笑った。普段より力が抜けた笑いだったが、本物だった。
「ああ」
レオンが動いた。
「ライナス」
「ゼノさん」
ライナスが来た。ゼノの前に立った。
「行く前に、一つ聞いていいですか?」
「何だ」
「俺、ちゃんとやれますよね?」
「やれる」
「根拠は」
「旅の間、お前が前に出てきた場面を全部確認している。臆病だと言っていたお前が、信頼してくださいと言って前に出た。今回も、同じことができるはずだ」
「……ゼノさんが言うと、本当のことみたいで」
「本当のことだ」
「わかりました。頑張ります!」
「頑張るという言葉より、お前は大丈夫だ、の方が正確だ」
「……はい!」
「セレン」
「はい」
静かな顔をしていた。いつもと変わらない顔に見えたが、ゼノには少し違うものが見えた。
「またいつもの感覚で動いてくれ」
「はい。言語化できなくても、感覚で動いていいですか?」
「それがお前の強さだ」
「……ありがとうございます。合流地点で待っています。ゼノさんたちが来るのを」
「必ず来い」
「はい。ゼノさん、また合流地点で」
「ああ」
三人が、それぞれのルートへ向かった。
ゼノはその背中を見た。
全員に伝えたいことを伝えた。全員が自分の判断で動いている。
それでいい、という感覚が来た。
「行きましょうか」
「ああ」
二人で動き始めた。
割り当てられたルートへ向かった。他のルートより城の中枢に近い経路だ。ただ、防衛が厚い可能性がある。
「ゼノさん」
「何だ」
「三人に言葉をかけてましたよね。一人一人に」
「必要だと判断した」
「ライナスさんに、お前は大丈夫だって言ってましたよね」
「そう言った」
「それって、ゼノさんがライナスさんのことを信頼してるってことですよね」
「そうだ」
「レオンさんには生きて戻れって言って、セレンさんには必ず来いって言って。みんなへの言葉が、みんなのことをわかって言ってましたね」
「観察してきたことが言葉になった」
「観察じゃないと思います。気にかけてきたことが言葉になった」
「……そうかもしれない」
ルートが細くなってきた。
木が密になったが、城壁が見えてきた。ゼノは気配を確認した。前方に魔物の反応がある。
「戦闘になる」
「わかりました。ゼノさん、前を任せます。後ろは私が支えます」
「頼む」
「任せてください」
歩きながら、ゼノは確認した。
三人が別のルートで動いている。エリナがそばにいる。全員が魔王城に向かっている。
全員生きて帰る。
その条件を、全員に伝えて分かれた。
合流地点で会う、とレオンが言った。待っています、とセレンが言った。
その言葉を、ゼノは持ったまま進んだ。
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