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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

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第87話 仲間との別れ・前半

 魔王城が見えた。

 木の間から、建物の形が確認できた。遠かったが、そこにあった。

 討伐隊全体が一度止まった。見えた、という事実が全員に伝わった。誰も声を上げず、ただ見ていた。


 ゼノは魔王城の方向を確認した。

 魔力の密度が高かった。これまでの場所とは比べものにならなかった。城の方向から、一方的に圧力が来ていた。


「重いな」

「魔力の密度だ。魔王がいる場所だから当然だ」

「当然って言えるんだな」

「事実だから言える。ただ、実際に近づけばどうなるかはまだわからない」


 隊長が前に出た。

 討伐隊全体を率いてきた騎士の隊長だ。進軍の間、適切な判断を続けてきた人物だった。


「全員、聞いてくれ」


 隊が静かになった。


「魔王城の入口に、強力な結界があることが確認できた。先行した斥候せっこうが確認してきた。通常の魔法では突破できない規模だ」

「どのくらいの規模ですか?」

「過去の記録にある魔王城の結界と同等か、それ以上だ。六属性の組み合わせでも、正面から突破しようとすれば相当の消耗が伴う。消耗した状態で城内に入ることは、戦力の低下に直結する」


「突破方法は」とゼノが聞いた。


「それを今から話す。一つの方法として——囮を使う」

「囮とはどういう意味だ」

「結界は、強い魔力が向かってくるとそちらに注意が集中する性質を持っている。斥候の調査から、そういう特性があることがわかった。囮役が正面から結界に圧力をかけ続ける。その間に、別の経路から城内に入る者たちが動く」

「囮役の安全は」

「保証できない。結界の圧力を一身に受け続ける役割だ。相当の消耗が伴う。生還の保証はできない」


 広間が静かになった。

 全員がその言葉を受け取っていた。


「囮役は誰がやるんだ」

「志願者を求めるつもりだった。ただ、全員がわかっている通り、囮役として最も機能できる戦力に限られる」

「俺が囮になる」


 ゼノは即答した。


「だめだ!」


 複数の声が同時に上がった。


「なんでお前が一人で!」

「俺が最も長く生き延びられる。六属性の切り替えで、結界への対応を続けながら存続できる時間が一番長い。合理的だ」

「合理的じゃないです!!」


 エリナが言った。

 いつもより強い声だった。


「ゼノさんが一人で結界を受け続けるなんて、合理的じゃないです!」

「感情的な反論か」

「感情的でいいです! 感情的でも、だめなものはだめです。ゼノさんが一人で残ることは、だめです」

「……エリナ」

「なんですか」

「俺が合理的だと判断した。それを変える根拠を述べてくれ」

「根拠は——ゼノさんがいないと、意味がない。それが根拠です」

「意味がない、とはどういう意味だ」

「全員で行くってゼノさんが言いました。一人で残ることと、全員で行くことは矛盾します」

「誰かが囮になることが必要なら、全員で行くことはできない。その矛盾は状況によって解消できない」

「解消できなくても——」

「……全員で行きたい」


 ゼノは言った。

 声が止まった。


「全員で行きたい。ただ、誰かが必要だ。俺が適任だ。それだけだ」

「適任かどうかじゃない。お前が残ることを、俺たちが受け入れられない。それが問題だ」

「受け入れられない、という感情的な問題と作戦として適切かどうかという判断は別の問題だ」

「分けられない場合もある」

「今がそうか」

「そうだ」


「ゼノさん」とライナスが言った。


「何だ」

「一つだけ聞いていいですか。ゼノさんが囮になった場合、俺たちは城内に入って、ゼノさんなしで戦うことになりますよね」

「そうなる」

「そういう状況になっても、全員生きて帰れると思いますか」

「……確率は下がる」

「それが俺の根拠です。ゼノさんがいないと、生きて帰る確率が下がる。だから俺たちはだめだと言っています。感情じゃなくて、計算として」


 ライナスの言っていることは正しい。ゼノが城内にいることで、判断の質が上がる。全体を把握する者がいることで、各自の行動の精度が上がる。ゼノが囮に残れば、その部分が欠ける。

 全員生きて帰る、という条件と、囮になることが矛盾していた。


「……矛盾が解消できない」

「そうです」

「俺が囮になることと、全員生きて帰ることは両立しない可能性がある」

「高い可能性で両立しない」

「……わかった。別の方法を探す必要がある」


 隊長が「実は、もう一つ案がある」と言い出した。

 全員が隊長を向いた。


「先ほどは囮の方法を話したが、別の可能性を考えていた。ただし、こちらもリスクがある」

「話してくれ」

「結界を突破する別の方法だ。囮で時間を稼ぎながら結界を突破する方法ではなく、結界そのものに直接働きかける方法がある。ただし、それには——」

「条件はなんだ」

「複数属性を特定の方法で同時に組み合わせる必要がある。理論上は六属性すべてを持つ者がいれば、結界を解除できる可能性がある」

「六属性を使って、結界を解除するのか」

「理論上は、だ。試したことがないから確証はない。ただし、この方法なら囮は必要ない。全員が城内に入れる可能性がある」

「リスクは何だ」

「解除に失敗した場合、その者に相当の反動が来る。結界の魔力が逆流する」

「消耗が大きくなる、ということか」

「消耗だけで済まない可能性がある。最悪の場合——その者が動けなくなる可能性がある」

「それは囮と結果が変わらないな」

「変わる部分がある。囮は確実に城内に入れない。こちらの方法は、成功すれば全員が城内に入れる。失敗した場合のリスクが高いが、成功した場合の全員での進軍が可能になる」


「成功の確率は」とゼノは聞いた。


「わからない。試したことがないからな」

「わからない、か」

「ただし、六属性を持つ者がいること自体が、数千年に一度のことだ。理論が正しければ、できる可能性はある」


 ゼノは全員を見た。


「意見を聞く」


「一つ質問してもいいですか」とエリナが隊長に言った。


「どうぞ」

「この方法を試す時、ゼノさんは一人でやるんですか? それとも誰かが一緒にできますか」

「理論上は六属性の者が一人でやる必要がある。ただし、周囲が支援することは可能だ」

「支援できるなら、一人じゃないですね」


 二つの方法がある。囮と、結界の直接解除。どちらもリスクがある。ただ、後者は全員での進軍が可能になる。


「隊長」

「何だ」

「もう少し詳細を聞かせてくれ。結界の直接解除の理論について。それを確認してから判断する」

「わかった」

「全員も聞いてくれ。一緒に判断したい」


 全員が頷き、隊長が詳細を話し始めた。

 ゼノは聞きながら、全員の顔を確認した。

 全員で判断する。それが今の形だった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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