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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第78話 旅の終わりの予感

 街に着いた。

 中に入ると市場が広がっていて、行商人と冒険者と一般市民が入り混じっていて、活気があった。


 ギルドに向かって中間地点の依頼完了の報告をした。

 ギルドマスターが報告書を確認して「よく動いてくれた。魔物の調査、眷属の確認、騎士団救援。それぞれ価値のある情報だ」と言った。


「次の依頼については、少し時間をくれ。情報を整理してから渡したい」

「わかりました。数日の休息を取る予定です」

「助かる」


 宿を取った。

 今回は全員に個室を用意した。人数分の部屋がある宿を選んだ。久しぶりに一人の空間がある。

 ゼノは荷物を置いて、今日の情報を整理した。ギルドから受け取ったデータ、移動中に確認した魔物の分布、次の目的地の候補。

 整理し終えた後、窓から街を見た。

 人が動いていた。普通の生活があった。旅に出てから、こういう光景をどのくらい見てきたか確認しようとして、やめた。

 数より、何かが変わってきているという感覚の方が大きかった。


 夕食の時間に全員が集まった。

 食堂で五人が席についた。ここしばらく野営が続いていたので、屋根のある場所で食事をとることが久しぶりだった。


「やっぱりちゃんとした食事はいいな」

「同意する。保存食は有用だが、種類が限られる」

「ゼノさんでも、ちゃんとした食事の方がいいんですね」

「感情的な好みかどうかは確認中だが、摂取できる栄養素の範囲が広がることは合理的にいいことだ」

「そういう言い方をするんですよね、ゼノさんって」

「……なんか、始まった時より全員強くなったな」


 レオンが言った。

 食事をとりながら言った。遠い目をしていた。回想しているような顔だった。


「強くなった根拠は何だ」

「感覚」

「感覚か」

「お前だって感覚で言えることが増えてきただろ。俺の感覚も信頼してくれ」

「……了解した」


 ライナスが「俺、最初は旅が不安でしたけど。今は楽しいって思えてます」と言った。


「楽しいと思えるようになったのか」

「はい。怖いこともあるし、大変なこともあるけど。でも、楽しい。不安と楽しいが両方ある状態です」

「矛盾しないと以前言ったな」

「ゼノさんが言ってくれたことです。覚えてました」


「わたしも」とセレンが静かに言った。


「楽しいと思えているのか」

「旅に出る前は、一人で練習することが多かったです。誰かと一緒に動くことに慣れていなくて。でも今は、みんなと一緒に動くことが自然になってきた。それが楽しいです」

「みんなと動くことが自然になった、か」

「はい。ゼノさんが全員の役割を把握してくれてるから、わたしはわたしのことだけ考えればいい。そういう状態が作れてるのが、ゼノさんのおかげだと思います」

「役割分担が機能している結果だ」

「ゼノさんのおかげで、みんな変わりましたよね」


 エリナが言った。


「俺が変えたわけではない。各自が変わった。俺はいただけだ」

「いただけじゃないですよ。ゼノさんがいたから、私たちは変われました」

「そう思いたいなら否定しないが、変わった原因はそれぞれの中にある」

「原因がどこにあっても、きっかけはゼノさんだと思います」

「きっかけ、か」

「お前がいたから変われたんだよ。素直に受け取れ!」

「受け取り方が——」

「今日は定義を求めずに受け取れ!!」

「……そうか。ありがとう。」


 全員が止まった。

 食堂の音が、一瞬遠くなった気がした。

 エリナが「ゼノさんが『ありがとう』って言った……!」と言った。


「おかしいか」

「おかしくない! すごい!!」

「すごいとはどういう意味だ」

「ゼノがありがとうって言ったら、本当のことだって全員わかるから。嘘をつかないから」

「本当のことだ。変えたわけではないが、お前たちが変わったことへの感謝は確かにある。その感謝の表明として適切な言葉を選んだ」

「合理的な説明付きのありがとうも、ゼノさんらしいですね」

「合理的な説明がなければ使えなかった。以前は使えなかった。今は使えた」

「それが変化ですよ」

「そうか」

「ゼノさんって、自分の変化に気づかないことが多いですよね。みんなが指摘すると初めて気づく」

「外から見える方が正確な場合がある、という認識は持っている」

「じゃあ、俺たちが見てきたゼノの変化を言ってもいいですか」

「有用な情報なら聞く」


 ライナスが「最初、ゼノさんに声をかけた時、気圧されて引きました。今は引きません。それが変わりました」と言った。


「ライナスが引いたのは俺の無表情のせいだ。今は変わっているのか」

「表情が出るようになりました。ちょっとだけですけど、変わります」

「そうか」


 レオンが「俺から見ると、言葉に色がついてきたな。前は機械みたいだったけど、今は何かが入ってる」と言った。


「色がついた、という表現は以前も聞いた」

「前にも言ったな。その時より、もっと色がついてきた気がする」

「それが変化か」

「そうだ」


 セレンが「水の流れが変わった時みたいに」と言った。


「以前も同じことを言っていた」

「はい。前に言った時から、さらに変わりました」

「流れの変化が続いているのか」

「そうです。止まっていない」

「止まっていない変化か」

「そうです。ゼノさんって、毎日少しずつ変わってる。止まった日がない気がします」

「毎日少しずつ」

「感覚です。でも、確かだと思います」


「エリナは何か言うか」とゼノは聞いた。


「言います。ゼノさんって、最初は見てる人でした。観察してる人。でも今は——いる人です」

「いる人、とはどういう意味だ」

「輪の中にいる、ということです。最初は輪の外から見ていた。でも今は輪の中にいる。それが一番大きい変化だと思います」

「輪の中にいる」

「はい。今夜もここで一緒に食事をとってる。それが当たり前になってる。最初は当たり前じゃなかった」

「当たり前。」


 ゼノは繰り返した。

 セレンが言っていた言葉が来た。役に立ちたいことが当たり前だ、と言った時の話。当たり前という感覚がどこから来るか、ゼノにはまだ腑に落ちていなかった。

 しかし今は、一緒に食事をとっていることが当たり前になっていると言われた。


「……当たり前になっているのか」

「なってると思います。ゼノさんもそう感じませんか?」

「……感じているかどうか、確認した」

「どうでしたか?」

「違和感がない状態だった。お前たちがいることへの違和感がない。それが当たり前と呼べるかどうかは——」

「当たり前ですよ」


「レオン」とゼノは読んだ。


「何だ」

「変わったという評価への感謝を受け取った。それだけではない」

「何が」

「旅に出てよかったと思う理由の一つに、お前たちがいる。それも、ありがとう、という言葉に含んでいた」


 レオンが少し止まった。


「……それが一番嬉しいな」

「なぜ」

「ゼノが旅に出てよかったと思ってくれたなら、俺たちもここにいる意味があるから」

「意味はある。確実に」


「ゼノさん」とエリナが言った。


「何だ」

「これからも、一緒に旅しますよね」

「ああ。依頼が続く限り」

「依頼がなくても」

「依頼がなくても、という状況の想定が——」

「一緒にいたいから一緒にいる、でいいじゃないですか」


 ゼノは少し間を置いた。


「……それが理由として成立するのか」

「成立します」

「……そうか」

「また声が違いますね」

「気づいているのか」

「気づいてますよ。最近、ゼノさんの声の違い、少しわかるようになってきました」

「……そうか。」


 また違った。エリナが笑い、全員が笑った。

 食堂の賑やかさが、五人の笑い声と混ざっていた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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