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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第71話 騎士団救援・後半

 騎士団が動き始めた。

 ライナスの誘導で、北東方向への移動が始まっていた。エリナが最も消耗の激しい騎士に回復魔法をかけながら、一緒に動いていた。セレンが騎士団の後方の魔物の動きを制限していた。


 ゼノは前を押し続けていた。

 消耗が増えていた。六属性の切り替えを長時間続けることの負荷が蓄積していた。だが騎士団の脱出ルートを維持することが今の役割だった。

 前方の個体を火属性で押し返す。右から来た個体を風属性で弾く。足元を制限しようとした個体に土属性で対応する。


 状況が変わったのは、騎士団が半分ほど動いた頃だった。

 南側から新しい魔物の気配が来た。


「増えているな」

「南から来てるのか」

「包囲の外から増援が来た可能性がある。南側の密度が上がっている。騎士団の速度を上げてくれ」

「わかった」


 レオンが騎士団の方向に声をかけた。急ぐよう伝えた。騎士団の動きが速くなった。だが疲弊していた分、速度に限界があった。


 南からの気配が近づいていた。

 ゼノは南方向を確認しながら、北東の前衛を維持しようとした。二方向への対応が必要になった。

 片方に集中すると、もう片方から来る。回避しながら対応を続けた。


 すると右腕に衝撃が来た。

 魔物の爪だった。完全には避けられなかった。ゆっくりと血が出てきた。深くはない。ただし消耗した状態での追加の負荷だった。

 それでも動けた。動き続けた。


 しかし、南からの増援が思ったより多かった。

 前方と後方、そして南側。三方向からの圧力が増した。

 後退した。意図した後退ではなかった。押し返されていた。

 一歩、また一歩と後退した。周囲の魔物が増えていた。前方が遮られ始めた。左側面からも個体が来た。

 包囲されかけていた。


「ゼノさん!!」


 エリナの声が来た。

 距離があったが騎士団の近くにいるエリナの声が、ここまで届いていた。

 その声を聞いた瞬間、何かが来た。処理より先に来た。心配させている、という感覚が来た。

 打開策を探した。

 左に抜けられるかを確認した。個体が多い。右は別の個体が来ていた。前方は詰まっていた。


「俺が行きます!」


 ライナスの声がした。

 見ると、ライナスが騎士団の方から走っていた。


「俺も行く!」

「援護します!」


 レオンとセレンの声がした。

 三人が同時に動いていた。指示ではなかった。ゼノが包囲されかけているのを見て、各自の判断で動いていた。


 ライナスが速度を活かして左側面に割り込み、魔物の注意が分散した。

 レオンが火魔法を放ち、前方の密集していた個体が後退した。

 セレンが右側面に水属性を展開し、動きが制限された。

 一瞬、隙間ができた。


「ゼノ、今だ!」


 ゼノが動いた。

 隙間に向かって走った。風属性で速度を上げた。魔物が反応しようとした瞬間に通り抜けた。


 全員が合流し、騎士団とパーティ五人が一箇所に集まった。


「脱出する。北東、全力で」

「騎士団の負傷者は俺たちが支えます!」


 ライナスが騎士団に向かって言った。動けない騎士の腕を肩に担いだ。他の騎士も同じことをした。


「走れる人間は全速力で。走れない人間は俺たちが支える。行くぞ!」


 レオンが言い、全員が動いた。


 走りながら、エリナが全員に回復魔法をかけ続けていた。

 動きながらかけていた。前を見ながら、後ろを確認しながら、隣の人間の状態を確認しながら、回復魔法を入れ続けていた。


「エリナ、自分の消耗を確認してくれ」

「大丈夫です。まだ動けます」

「限界の手前で言ってくれ」

「はい」


 魔物が追ってきていた。しかし速度が違った。全力で走る人間たちの速度に、統率されていない魔物は追いつけなかった。

 セレンが後方に水属性を展開した。追ってくる個体の動きを制限した。距離が広がった。


 森の端が見えた。

 外の光だった。


「もうすぐです!」

「止まるな! 出るまで全力で!」


 全員が走り続け、森の端を抜けた。

 外に出た。森の中とは別の、開けた空間の光だった。

 全員が止まった。

 追ってくる魔物の気配が薄くなっていた。森の外まで追ってくる個体は少なかった。完全に消えたわけではなかったが、距離ができた。


 騎士団のリーダーが前に出た。

 四十代と思われる男性だった。甲冑に傷があった。顔に疲労が出ていたが、目は澄んでいた。


「助かった」


 そう言って、頭を下げた。


「感謝する。お前たちが来なければ、全員が森の中で終わっていた」

「ギルドからの要請がありました。それに応えただけです」

「それだけではないだろう。お前たちの動きを見ていた。計算だけではない何かがあった」

「……そうかもしれません」


 ゼノは全員を見た。

 騎士団のリーダー。騎士団の騎士たち。そしてパーティ。

 レオン。ライナス。セレン。エリナ。

 一人一人を確認したが、誰も欠けていなかった。


「……全員、無事だ」


 声に出た。

 報告ではなかった。誰かに向けた言葉でもなかった。確認した、という言葉だった。

 その言葉を聞いていたレオンが、ゼノを見た。


「お前、心配してたろ」


 レオンが言った。

 静かな声だった。からかっているわけでも、責めているわけでもなかった。ただ、確認した声だった。

 ゼノは少し間を置いた。


「…………否定しない」


 間が長かった。

 否定する言葉を探した。見つからなかった。

 包囲されかけた時に、エリナの声が来た。エリナの声を聞いた瞬間に、何かが来た。心配させているという感覚が来た。

 全員が動いてくれた時に、何かが来た。任せてよかったという感覚が来た。

 全員を確認した今、何かが来ていた。それが何かを今は言語化できなかった。ただ、心配していたことを否定できなかった。


「心配してたんだな」

「……そうかもしれない」

「俺も心配してたよ。ゼノが包囲されかけた時」

「俺が心配されることは想定していなかった」

「想定しておけ。お前がいなくなったら俺たちが困る。それが心配ってことだから」

「お前たちがいなくなっても、俺が困る可能性がある」

「知ってる。だから言ってるんだよ。お互い様だ」


「ゼノさん、腕、怪我してます」とエリナが駆け寄ってきた。


「軽傷だ」

「見せてください」

「問題ない」

「見せてください」


 もう一度言われた。ゼノは腕を差し出した。エリナが回復魔法をかけた。傷が塞がった。


「ありがとうございます」

「怪我してるのに全員を確認して回ってましたよね」

「全員の無事を確認することが優先だった」

「ゼノさんの無事も大切です」

「……そうか」

「そうです」


 騎士団のリーダーが近づいてきた。


「改めて礼を言う。名前を教えてくれ。今後、ギルドへの報告に含めたい」

「ゼノ・アルディス」

「覚えておく。お前たちは、ただの冒険者ではないな」

「ただの冒険者です」

「そうは見えなかった。目的がある者の動き方をしていた」

「……目的はあります。ただ、今日の目的は救援だった。それだけです」

「その目的に、俺たちの命がかかっていた。感謝する」


 全員が森の外で一休みした。

 騎士団の重傷者にエリナが回復魔法をかけた。軽傷者は自分たちで処置した。全員が生き延びた。

 夕方の光が出ていた。


「今日はここで野営するか?」

「騎士団の状態が回復するまで動けない。ここで野営する。明日の朝に次の動きを決める」

「了解。俺、薪集めてくる」

「頼む」


 ゼノは少し離れた場所に立って、森の方向を確認した。

 気配がまだあったが、こちらに向かってくる動きはなかった。


 ――全員、無事だ。


 さっき出た言葉が頭に残っていた。

 心配していた。否定できなかった。

 心配していた、ということは誰かが傷つくことへの何かが来ていたということだった。


 来ていた。確かに。

 それが何という名前の感情かは、まだ確認中だった。

 ただ、否定しなかった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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