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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第69話 救援要請

 街に着いたのは昼過ぎだった。

 次の情報収集と物資補充のために立ち寄る予定だった。ギルドに顔を出して、魔物の動向を確認する。それだけのつもりだった。


 ギルドの扉を開けた瞬間、中の空気が違うことがわかった。

 冒険者たちが集まって話していた。受付が慌ただしく動いて、掲示板の前に人だかりができていた。


「何かあったんですか」


 ゼノは受付に向かった。

 受付の担当者が「丁度よかった」と言った。


「どういう意味ですか」

「緊急の救援要請が入っています。王国の騎士団が包囲されています。腕のある冒険者を探していたところです」

「詳細を」


 担当者が地図と報告書を広げた。

 状況の概要が書かれていた。魔物の森の南端。王国騎士団が調査のために入ったところ、大規模な魔物の群れに遭遇した。現在、森の中で孤立している。数は騎士団が三十人程度。包囲している魔物の数は確認できていないが、多数。


「騎士団の現在位置は把握できていますか」

「最後の連絡から位置は特定できていす。ただし、今も動いている可能性があります」

「脱出ルートの候補は」

「そこまでは把握できていません。現地の地形は部分的にしか記録がなくて」


 ゼノは地図を確認した。

 騎士団の位置、森の南端の地形、魔物の出没情報があった区域。データが揃っている。


「行きます」

「え? 確認はいいんですか。報酬の額とか、危険度とか——」

「報酬は確認しなくていいです。危険度は許容範囲内だと判断しました。行く必要があります」


 後ろからレオンが「また即決した」と言った。


「異論があるか」

「ない。行くさ、当然」


 パーティ全員に状況を共有した。

 ライナスが「騎士団って、三十人ですよね。そんな人数が包囲されてるなら、魔物の数も相当では?」と言った。


「そうだ。ただし、騎士団が孤立しているということは、包囲を外から崩す形で動ける。内側からと外側から同時に動ければ、脱出の可能性が上がる」

「策はあるんですか?」

「移動しながら立てる。現地の情報が足りない」

「わかりました」

「セレン、水属性の広範囲展開は今日も使えるか」

「はい。昨日より感覚が安定しています」

「エリナ、複数人への同時回復はどのくらいまで対応できる」

「五人から七人程度なら、精度を保てます。騎士団全員は難しいですが、負傷者の優先順位を決めながらなら対応できます」

「わかった。移動しながら詳細を詰める」


 ギルドで得た地図を手に、最短ルートで移動した。

 ゼノは歩きながら情報を整理していた。騎士団の最後の連絡位置。森の南端の地形の特徴。魔物が集まりやすい区域と、そうでない区域の分布。脱出ルートとして使える可能性がある経路。


 頭の中に地図が広がっていた。

 騎士団の位置、魔物の分布、脱出ルート。最適解は——

 いくつかの経路を確認した。地形的に使いやすい方向がある。ただ、騎士団が今どこにいるかによって変わる。現地に着いてから再判断が必要だった。


「ゼノさん」とエリナが呼んだ。


「何だ」

「大丈夫ですか?」

「問題ない」

「そうじゃなくて。今日は少し、急いでる感じがします。いつもと違います」

「移動速度は平均的だ。急いでいるとは言えない」

「速度じゃなくて、なんか、気持ちが急いてる感じです。ゼノさんって、判断が速い時と、もう少し確認してから動く時があります。今日は珍しく、即断でしたよね」

「即断した理由は説明した。行く必要があった」

「それが何で必要だったんですか」


 歩きながら処理した。行く必要があるという判断がどこから来たのか。

 報酬より合理性より先に、行くという判断が来ていた。騎士団が孤立している。危険な状態にある。それを聞いた瞬間に、行くという判断が来た。


「……誰かが危険な状態にある。それを放置する理由がない」

「それって、心配してるってことですよね」

「……そうかもしれない」

「そうかもしれない、って言いましたね。否定しなかった」

「否定できる根拠がなかった」

「騎士団のことを心配してる。知らない人たちなのに」

「危険な状態にある人間がいる。それへの反応が来た。心配と呼ぶかどうかは確認中だが、何かが来たことは確かだ」

「それが心配だと思います」

「以前なら来なかったかもしれない」

「そうですね。以前のゼノさんなら、行く合理的な理由があるから行くという言い方をしてたと思います。今日は、理由より先に行くという判断が来た」

「……観察が正確だ」

「ゼノさんをよく見てるので」


 歩き続けた。

 レオンが「ゼノ、騎士団に騎士が三十人いるんだよな。それだけいても包囲されてるってことは、相当な数の魔物か」と言った。


「可能性がある。魔物が統率されている場合、数が多くても組織的に動く。個別に対応するより難しい」

「俺たちで大丈夫か」

「現時点での戦力で対応できる範囲かどうかは、現地を見てから判断する。引き際の判断は俺がする」

「わかった。信頼してる」


 その言葉が来た時、ゼノは処理した。

 信頼してる、という言葉が今日のレオンにとって自然に出た。以前は確認が必要だったことが、今は言葉として当たり前に出ている。


「ゼノさん、もう一つ聞いていいですか?」

「何だ」

「心配って感覚が来た時、どんな感じでしたか」

「どんな感じ、か。報告書を見た時に、何かが来た。読み続けるより先に、行くという判断が来た。その順序が、いつもと違った」

「判断より先に、行くという気持ちが来た、ということですよね」

「……そうなる」

「それって、以前のゼノさんには想像できなかった感覚だと思います」

「学園の頃は来なかっただろう」

「来てなかったと思います。でも今は来ました。それが変化ですよね」

「変化している、という評価を全員がする」

「みんながそう思ってるということは、本当にそうなんですよ」

「感覚による判断か」

「そうです。でも、信頼できる感覚です」

「信頼できる感覚、という概念が面白い。感覚への信頼、ということか」

「そうです。感覚でも信頼できるものがあると思います」

「セレンが言っていたことと繋がる。感覚で習得したものが最適化されている場合がある。感覚への信頼も、積み重ねから来るものかもしれない」

「ゼノさんって、そうやっていろんなことを繋げていきますよね」

「整合性を確認することが必要だ」

「好きですよ、そういうゼノさん」


 エリナの言葉が来た。

 好きです、という言葉だった。

 ゼノは処理しようとして、止まった。

 昨夜の話が頭に来た。エリナの寝顔を見た時に処理が止まった。ルミナが言っていた。処理が止まることが感じている、ということだと。


「どうしました?」

「……処理が止まった」

「また止まりましたね。最近、多いですよね」

「多いな」

「何を処理しようとしてたんですか」

「エリナが言った言葉を」

「どれですか?」

「好きです、という言葉を」


 エリナが少し頬が赤くなった。


「独り言みたいに言ってしまいました。聞こえてたんですね」

「聞こえた」

「あの、そんなに深い意味じゃないですよ。ゼノさんのそういう部分が好きってことで」

「深い意味かどうか、という判断が俺にはできていない。ただ、処理が止まった」

「処理が止まるんですね。私のことについては」

「今日で二度目だ。昨夜も止まった」

「昨夜も?」

「寝顔を見た時」


 エリナが少し止まった。


「私の寝顔を見てたんですか。」

「見張りの時間に全員を確認する。その時だ」

「……見てくれてたんですね」

「見張りの確認として」

「わかってます。でも——なんか、嬉しいです。処理が止まってたって」

「なぜ嬉しいんだ」

「ゼノさんが、私のことで処理が止まるってことが」

「処理が止まることは俺にとって不完全な状態だが」

「不完全でいいんですよ、そういうのは」


 森の入口が視界に入った。南端の方向だった。


「現地に近づいてきた。ここからは戦闘の可能性がある。各自、準備してくれ」

「「「「はい」」」」

「エリナ」

「はい」

「心配している、という判断が正しいとしたら——俺は今日、騎士団を心配している。それと同じ質の何かが、お前たちに向かっているかもしれない」

「かもしれない、ですか」

「確信がない。ただ、来ている気がする」

「十分ですよ。心配してくれてるだけで、十分です」


 森の南端が目の前に来た。

 魔物の気配が複数あり、数が多かった。


「行くぞ」

「はい!」


 騎士団が孤立している。助けに行く。

 その判断が来た理由を、まだ完全には言語化できていなかった。

 ただ、行くという判断は変わらなかった。

 行く理由があった。それで十分だった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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