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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第65話 魔王の使者

 街を出たのは昼前だった。

 物資の補充が完了し、全員の体力も魔力も回復していた。次の目的地に向かって街道を進んだ。

 休息前に得た情報を整理していた。魔物の行動変化が報告されている地域の方向、眷属の目撃情報が増えている区域、魔力の異常反応が確認された場所。それらを地図と照合すると、一定の方向性があった。


 街道を一時間ほど進んだ頃だった。

 気配を感知し、ゼノが足を止めた。


「止まれ」


 全員が止まった。

「何ですか?」とライナスが小声で言った。


「前方の木の陰に何かいる。魔物の気配だが、人型だ」

「人型の魔物ですか」

「違う。人間の要素と魔物の要素が混在している。今まで感知したことのない種類だ」


 全員が警戒した。すると木の陰から、それが姿を現した。


 人型だ。ただ人間ではなかった。

 見た目は人間に近かった。二足歩行で、顔があり、手がある。でも目が違った。瞳が黄色く光っていた。肌の色が人間のものではなかった。そして何より、全身から漂う魔力の質が、人間のものでも通常の魔物のものでもない。

 非常に濃密な魔力。先日、森の中で発見した魔物の死骸に残っていた魔力の残滓と、同じ質だった。


「貴様がゼノ・アルディスだな。我が君より命を受けている。我が君は、六属性の魔法使いに興味を持っている。ついてきてもらおうか」


 抑揚が少なく、感情が乗っていない声だった。


「断る」


 ゼノは即答した。

 一瞬の間もなかった。計算した結果ではなかった。

 使者が少し動いた。表情が変わったのか、変わっていないのかが判別しにくかった。


「断るのか。我が君の招きを」

「用件の内容に関わらず、今の時点で行く理由がない。俺たちには俺たちの目的がある」

「貴様が来れば、争いを避けられる可能性があるが」

「脅しとして受け取った。ただし、脅しが判断を変える根拠にはならない」


 使者が少し間を置いた。


「貴様と我が君は似ている」

「どの点で」

「感情を持たない者同士だ」


 ゼノは一瞬止まった。

 処理した。感情を持たない者同士。魔王と俺が、同じだと言っている。


「俺は感情を持っていないのではない」

「どういう意味だ」

「持っていない状態を理解している途中だ。取り戻している途中だ。感情を持たないことと、感情を取り戻している最中であることは、外から見れば似ているかもしれないが、同じではない」


 使者が少し動いた。

 意外そうな顔だ。感情があるのかどうか判別しにくい顔だったが、何かが変わった。予想していなかった返答が来た、という反応だった。


「……それが答えか」

「そうだ」

「我が君に伝える価値がある答えだ」

「もう一つ付け加えてくれ。」

「何を」

「俺はいずれそこに行く」

「……いずれ行く、とはどういう意味だ。」

「魔王に会う必要がある。理由はまだ整理できていないが、行くことになると判断している。今ではない。ただいずれ行く」

「それは来る、という意味か?」

「違う。俺が行くという意味だ。招かれて行くのではなく、俺の判断で行く。それだけだ」


 使者がゼノを見ていた。

 長い沈黙があった。


「……面白い人間だ。我が君に伝えておこう」


 使者が向きを変えた。そのまま森の方向へ歩いた。気配が遠ざかっていった。


 全員が止まっていた。

 しばらく誰も動かなかった。

 使者の気配が完全に消えたことを確認してから、ゼノが「行こう」と言った。

 全員が動き始めた。

 歩きながら、後方でレオンが「……度胸あるな」と言った。


「度胸があるかどうかはわからない」

「魔王の使者に向かって、いずれ行くって宣言したんだぞ。普通怖くて言えないだろ」

「怖くないから言えたわけではない」

「どういう意味だ」

「感情がないから怖くない、ではなく——行く理由があるから、怖くない」

「行く理由って何だ?」

「まだ全部は整理できていない。ただ、行かなければならない理由があることは確認できている。魔王に関する情報を集める必要がある。学園の禁書区画の件から続いている流れがある。この旅の目的の一部がそこにある」

「それだけか」

「……それだけではないかもしれない」

「どういう意味だ?」

「使者が言った。魔王は感情を持たない、と。俺と似ている、と。似ているとしたら、俺が経験してきたことが、魔王にも関係する可能性がある。感情を持たない状態がどこから来るのか、なぜそうなったのか。それを知りたいという気持ちが、行く理由の一部になっているかもしれない」


「気持ち、って言いましたね」とライナスが言った。


「行く理由の一部に気持ちが入ってるって言うことですか?」」

「……そうだな。言葉として出た」

「ゼノさんって、最近そういうことが増えましたよね。気持ちとか感覚とか、そういう言葉が自然に出てくる」

「自分では気づかない場合がある。お前たちが指摘してくれることで気づく」

「指摘し続けますよ」


「使者が言ってたな。魔王と似てるって」とレオンが歩きながら言った。


「そのことは気にならないのか?」

「気になっている」

「どんな風に?」

「似ている部分がある、という評価が正しいとしたら、俺が感情を封じた経緯と、魔王が感情を捨てた経緯に、共通する何かがある可能性がある。その何かが何なのかを知りたい」

「それが行く理由にもなってるのか」

「なっている可能性がある」


「ゼノさんって、自分のことを調べに行こうとしてるんですね、ある意味で」とエリナが言った。


「その表現は考えていなかったが、否定できない」

「なんか、それがゼノさんらしいですよ。合理的な理由と、個人的な理由が両方ある」

「セレン、何か感じたか」

「使者の水の気配が、通常と違いました。魔力の流れが、生き物として自然なものじゃなかった。作られたものというか」

「作られた存在、ということか」

「そう感じました。感覚なので確信はないですが」

「記録しておく。有用な情報だ」

「ゼノさんって、感覚による情報も受け取るようになりましたよね」

「否定できる根拠がなければ受け取る方が合理的だと判断した」

「それが変化ですよ」


 街道を進んでいる中、全員が静かだった。使者との遭遇を各自が処理していた。


「魔王が動いている。使者を出してくるほどに。本格的に近づいてきてるな」

「そうだ」

「怖いか? ゼノ」


 ゼノは少し考えた。


「怖いかどうかを確認すると——何かはある。使者の魔力の質が異常に濃密だった。あれと同等以上の存在がこの先にいる。その事実に対して何かが来た」

「何かって」

「処理できなかった。怖い、という感覚に近いかもしれない」

「それが怖いだよ」

「……そうかもしれない。ただ、行く理由がある。怖くても行く」

「それが度胸だよ」

「度胸と行く理由は別の話か」

「一緒だよ、お前の場合は」


 夜の円卓。

 ウェントス、イグニス、テラ、ルミナ。四人になっていた。

「使者に会ったんだね。見てたよ」とウェントスが話しかけてきた。


「見ていたのか」

「ゼノが処理してたから。あたしたちも一緒に感じてた」

「どう思ったんだ」

「怖かった。でもゼノが言った言葉がすごかった。行く理由があるから怖くない、って」

「怖さがあった上で言えたんですね」

「来ていたかもしれない。何かが」

「それでいいんです。怖さがある上で、それでも行くと言えた。それが今のゼノ君です」


 ルミナが「ゼノくん、怖かったのに言えたのね」と言った。


「まだ確信はない。ただ、行く理由は確かにある」

「それが全部よ。理由があれば、怖くても動ける。それを今日証明したの」


 イグニスが「……悪くない啖呵だった。」と言った。いつものように横を向きながら。


「褒めているのか」

「違う。評価した」


「ゼノの言い方みたいだ」とウェントスが笑った。

 イグニスが「うるさい!」と言った。


 四人の円卓がは賑やかだ。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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