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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第57話 あなたなら大丈夫

 街に一度戻って、準備を整えた。

 あの男から得た情報をギルドマスターに報告した。眷属の特性、複数属性が有効であること、再生力の高さ、長期戦を避ける必要があること。ギルドマスターが真剣な顔で聞いていた。


「眷属と接触するつもりか」

「可能性があります」

「止めたいが、止められない理由があるんだろうな」

「俺たちが行かなければ誰が行くか、という問いへの答えが出ません」

「......分かった。できる限りの情報を出す」


 ギルドマスターが持っていた眷属に関する報告書を共有してくれた。他の地域での目撃情報、接触した冒険者からの報告。断片的だったが、情報が増えた。


 パーティで作戦を確認した。

 長期戦を避ける。複数属性を組み合わせて弱点を突く。ゼノが前衛で時間を作り、その間に各属性での攻撃を集中させる。エリナの回復を最大限に活かす。全員の魔力管理を意識する。


「眷属の再生力が高い場合、継続的なダメージが必要だ。一撃で仕留めることを目指すのではなく、複数の攻撃で削っていく」

「俺の火魔法はどう使えばいい」

「再生が始まる前に追撃を入れることが重要だ。俺が前衛で動きを止めたタイミングで、連続して当ててくれ」

「分かった」

「セレンは水属性で動きを制限しながら、俺の攻撃の補助をしてくれ。複数属性の組み合わせが有効だという情報があった」

「はい」

「ライナスは速度を活かして撹乱を続けてくれ。ただ、今回は無理に前に出ないこと。眷属の攻撃力は上位魔物より上の可能性がある」

「分かりました」


 数日かけて準備をして、再び森に入った。

 今回は直接深部を目指した。外縁部と中層のルートは把握していたから、効率的に進めた。

 深部に近づくにつれて、空気が変わっていった。

 前回感じた方向性のある魔力の感触が、今日はより明確だった。特定の方向から来ていた。


「気配がある。前方深部」

「どのくらいの距離ですか?」

「五百メートルほど。接近している。こちらに向かっている可能性がある」

「向かってきてるのか」

「遭遇するまで待つより、こちらから状況を把握した方がいい。進む」


 三百メートルほど進んだ時、姿が見えた。

 上位魔物とは違う種類の大きさだった。体格の問題ではなく、存在感の問題だ。周囲の空気を圧迫していた。魔力が、目に見えない形で広がっていた。


「眷属、か」

「可能性が高い。普通の魔物との質の違いが確認できる。各自、作戦通りに」


 全員が散った。


 ゼノが前に出た。

 眷属が反応した。上位魔物の個体より速かった。最初の一撃が来たが、土属性で防いだ。衝撃が思ったより大きい。防御が完全には吸収できなかった。


「出力が高いな」


 次が来た。風属性で回避し、その間にレオンが火魔法を当てた。眷属が一瞬止まった。レオンが続けて二発目を当てた。

 傷が塞がり始めた。


「再生が速い。レオン、間隔を短くしてくれ」

「分かった!」


 セレンが水属性を展開した。動きを制限しようとしたが、眷属が力で押し通した。セレンが展開の方法を変えた。今度は足元ではなく、関節部分を狙った。動きが一瞬鈍くなった。


「セレン、その方法を続けてくれ」

「はい」


 戦闘が長引いた。

 再生の速度が予想より高く、ダメージを与えても次の攻撃に移る前に回復が始まった。

 ゼノが前衛で時間を作り続けた。複数の属性を切り替えながら対応した。土で防ぐ、風で回避する、火で打撃を入れる。その繰り返しだった。

 十分が経った。

 ゼノの防御の消耗が増えていた。眷属の攻撃パターンが変化していた。学習している。ゼノの防御の隙間を狙う動きになっていた。

 三度目の大きな攻撃が来た。土属性の防御を展開したが、突破された。

 腕に衝撃が来た。痛みがあった。

「ゼノさん!」エリナが声を上げた。


「問題ない。続けてくれ」


 言いながら、状況を確認した。

 防御が突破され始めている。このペースでは長くない。何かを変える必要がある。


「ゼノさん、俺が前に出ます!」


 ライナスの声が来た。

 ゼノが処理した。

 ライナスが前衛に出ることのリスク。眷属の攻撃力はライナスの耐久力を超える可能性が高い。速度で回避できるかもしれないが、一発でも当たれば重傷になる。


「危険だ。お前の耐久力では——」

「信頼してください!!」


 ライナスが言った。

 その言葉が来た瞬間、時間が止まった気がした。


 信頼してください。

 その言葉が頭の中で繰り返された。

 ライナスが信頼を求めていた。俺に任せてくれという言葉の形で。確信があるかどうかではなく、信じてほしいという形で。

 ライナスの速度は眷属の攻撃を何度か回避できる可能性がある。その間に俺が渾身の一撃を入れれば、局面が変わるかもしれない。リスクがある。だがこのままでも状況は悪化していく。

 しかし、それより先に何かが来た。

 ライナスが信頼してくれと言っている。俺がライナスを信頼するかどうか、が今の問いだ。


「......行け」


 ライナスが動いた。

 速い。これまで見てきた中で、最も速い動きだった。眷属の前方に出て、注意を引いた。右に回る。左に流れる。間欠的に動いた。眷属の攻撃が何度かライナスに向かった。

 ほぼ、回避している。

 ゼノはライナスが注意を引いている間に、全属性の魔力を右手に集めた。六属性すべてを組み合わせた。これだけの出力を一点に集中させたことは、学園時代にもなかった。

 眷属がライナスに大きく動き、その瞬間、側面が開いた。

 ゼノが放った。


 直撃し、眷属が大きく揺れた。地面に膝をついたが立ち上がろうとしていた。レオンが追撃を入れ、セレンが関節を固定した。

 完全な停止だった。動かなくなった。


 全員が止まった。

 誰も動かなかった。しばらく、誰も声を出さなかった。

 ライナスが立っていたが、肩から血が出ていた。最後の大きな動きで、かすったらしい。


「......やりましたよ」


 ライナスが笑った。疲れた顔だったが、笑っていた。

 エリナがすぐに駆け寄った。


「ライナスさん、今すぐ回復します!」

「ありがとうございます」


 ゼノはライナスを見ていた。

 信頼してください、という言葉が頭に残っていた。行け、と言った言葉が頭に残っていた。


「......信頼した」


 ゼノは言った。

 ライナスがエリナの回復を受けながら、ゼノを見た。


「それ、最高です」


 笑い声だった。痛みがある中での笑い声だった。それでも笑っていた。


「根拠は十分ではなかった。ライナスの速度が回避できるかどうか、確信がなかった。ただ、行けと言った」

「それが信頼じゃないですか」

「......そうかもしれない」


 夜の円卓で、テラが何も言わなかった。

 ゼノが今日のことを話し終えた後、テラが少し間を置いてから「よかったです」と言った。


「何がよかったんだ」

「ライナス君に任せたこと。確信がなくても、行けと言えたことです」

「正確に言えば、確信がない状況で判断した。合理的な根拠が十分でなかった」

「それが信頼です。根拠が十分でなくても、任せると決めること。ゼノ君が今日やったことが、そういうことです」

「覚醒の条件を満たしたか」


 テラが微笑んだ。


「もうすぐだと思います」

「もうすぐ、とはどういう意味だ」

「感じ方がもう少し深くなった時に、来ると思います。今日は、頭で決めた部分がまだありました。それが身体で来た時に」

「身体で来る、とはどういう意味だ」

「考える前に、背中を預けてしまう瞬間が来た時です」


 ゼノは少し黙った。


「......楽しみにしていていいのか」

「していていいです。あなたなら大丈夫ですよ」

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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