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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第49話 信頼の言葉

 上位魔物との戦闘から引き返した後、野営地を設営した。


 全員が疲れていた。いつもなら食事の準備をしながらレオンが話しかけてくるが、今日は黙ってやっていた。ライナスが水を汲んで、セレンが水質を確認して、エリナが食材を並べた。ゼノが周囲の警戒を確認した。


 焚き火の前に全員が座った。

 食事をとっっている中、誰も話さなかった。


 上位魔物との戦闘で、全員が何かを消費していた。体力だけではない。判断を続けることの疲れが、各自の顔に出ていた。

 ゼノは食事をとりながら全員の状態を確認した。

 レオンが珍しく背中を丸めていた。いつもより姿勢が崩れている。エリナが少し遠い目をしていた。セレンが自分の手を見て、展開した水属性の感覚を確認しているのかもしれなかった。

 ライナスが食事の手を止めた。


「俺、足手まといじゃないかって思ってきました」


 ライナスが言った。

 声が小さかった。誰かに話しかけているというより、出てしまった言、という感じだ。

 全員がライナスを見た。


「あの戦闘、俺だけついていけてなくて。速度で翻弄しようとしたけど、すぐに対応されて。足を取られそうになって、ゼノさんに『間欠的に動け』って言われて。俺一人では何もできなかったなって......」


「そんなことないだろ」レオンが即座に言った。

「ライナスさん、いてくれてよかったですよ」エリナが言った。

「わたしも」セレンが静かに続けた。


「みんながそう言ってくれるのは分かるんですけど。でも、実際に何ができたかって考えると......」

「ライナスの速度と撹乱がなければ、俺とセレンの連携に時間がかかった」


 ライナスが顔を上げた。


「後方に回り込んで逃げ道を塞いでいた。あれがなければ、魔物が連携のタイミングで動いていた可能性がある。ライナスがいたから、俺は連携の準備に集中できた。必要な要素だった」

「......でも、指示通りにやっただけで――」

「指示通りに動けることが実力だ。判断して動ける。それを持っている」

「でも、ゼノさんやレオンさんのように攻撃で貢献できなかった」

「攻撃だけが貢献ではない。ライナスの役割はパーティ全体の動きを支えることだ。今日もそれができていた。足手まといの定義が間違っている」


 ライナスが少し黙った。

 焚き火が静かに燃えていた。


「......ゼノさんって、ちゃんと見てるんですね。いつも」

「全員を把握することは基本だ」

「戦闘中に、そこまで見えてるんですか。全員の動きを」

「見えている。状況判断に必要だから」

「それって――信頼してるってことじゃないですか?」


 ゼノは少し止まった。

 信頼、という言葉が来た。


「把握していることと、信頼していることは同じではない」

「でも、ゼノさんが全員を把握してるのって全員に役割があると思ってるからですよね? 俺に間欠的に動けって言ったのも、俺がそれをできると思ったからですよね?」

「できると判断したから言った」

「それって、俺のことを信頼してるってことだと思います。できると思って任せるのが信頼だから」


 できる、と判断して任せる。それが信頼か。能力評価から来る判断と、感情的な信頼は別物だと思っていた。

 だが、ライナスが言っているのはその区別の話ではなかった。結果として任せることが、信頼だという話だった。


「......整理が必要だ」

「俺は、ゼノさんに信頼されてると思っています。それだけで、今日の戦闘がそんなに悪くなかった気がしてきました」


 レオンが「俺も信頼されてるか?」と聞いてきた。


「甲羅の継ぎ目への攻撃タイミングを任せた」

「じゃあ信頼されてるな! ゼノに任せてもらえるのは嬉しいな」

「エリナは全員の回復管理を任せていた。セレンは連携の即断を任せた。全員に任せた部分がある」

「ゼノさんって、全員に任せてたんですね。一人でやろうとしてたわけじゃなくて」

「俺一人では今日の戦闘を短時間で終えることはできなかった。全員が必要だった」

「......なんか、それが一番嬉しいかも。必要だったって言ってもらえると」


 食事が終わった。

 ライナスの表情が少し変わっていた。まだ疲れていたが、さっきより顔が上がっている。


「ゼノさん、ありがとうございました」

「礼は不要だ。事実を述べた」

「でも言いたいんです!」

「......そうか」


 レオンが「やっぱりゼノに感謝されると嬉しいよな」とライナスに言った。


「毎回それだけしか言わないのに」

「それだけで十分だと思います。ちゃんと聞いてくれますから」


 夜の円卓。

 テラが「ねえゼノ君、今日のライナス君の言葉、どう思いましたか?」と聞いてきた。


「どの言葉だ」

「信頼してるってことじゃないですか、という言葉です」

「......信頼の定義を、また整理する必要がある。」

「どういう部分がですか?」

「能力を評価して任せることが信頼かどうか、という部分だ。ライナスは信頼だと言った。俺は能力判断だと思っていた。どちらが正確か分からない」

「どちらが正確でも、信頼しているということは変わらないんじゃないですか?」 「根拠があって任せることと、根拠なく信じることが、同じものなのかが分からない」

「同じじゃないかもしれません。でも、どちらも信頼の一種だと思いますよ。根拠があってもなくても、任せると決めることが信頼ですから」

「根拠があっても任せると決めることが必要、ということか」

「そうです。根拠があるだけでは信頼じゃなくて、任せると決めた時に信頼になる。――あなたなら大丈夫ですよ」


 イグニスが「またそれか。」と言った。


「毎回言うな、それ」

「毎回言います」

「根拠は」

「ありません」

「それが信頼か」

「そうです。わたしがゼノ君を信頼しているということです。根拠なしに」


 根拠なしに信頼されている。テラが言い続けてきたことが、今日のライナスの言葉と繋がった。どちらも任せると決めた状態だった。ライナスは根拠があって。テラは根拠なしに。


「......両方を信頼と呼ぶのか」

「そうです」

「片方は理解できる。もう片方はまだ分からない」

「分かる日がいつか来ますよ。あなたなら大丈夫」


 イグニスが「本当に毎回それだな。」と呟いた。


 信頼の定義の整理は、まだ終わっていない。

 ただ、今日一日で信頼という言葉が持つ意味の範囲が少し広がった気がする。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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