第48話 上位魔物との遭遇
中層に入ってしばらく経った。
これまでの探索で、中型捕食型の個体と数回の戦闘を経験していた。連携も安定してきて、各自が自分の役割を理解して指示なしで動ける場面が増えていた。
今日は少し奥まで進む予定だ。
ゼノが周囲の気配を確認しながら先頭を歩いていた。昨日までと同じ手順だった。ただ、今日は何かが違う気がしていた。
「前方、何かいる」
「いつもの魔物ですか?」
「いや、魔力の質が違う」
木の間から現れたものは、これまで見てきた中型個体の倍近い体格があった。四足で、背中に鱗のような甲羅がある。捕食型だったが、今まで見た個体より明らかに密度の高い魔力を持っていた。
動きが止まり、こちらを見ていた。
「上位魔物だ。これまでの個体とは別の格だ。全員、位置についてくれ」
いつもの配置にパーティが動いた。
「レオン、先に一発試してくれ。威力の確認がしたい」
「分かった」
レオンが火魔法を放った。
甲羅の部分に直撃したが、魔物はほとんど動じなかった。
「......通りが悪い。あの甲羅、相当固いな」
「確認した。甲羅のない部分を狙う必要がある」
戦闘が始まった。
ライナスが速度を活かして翻弄しようとした。右から、左から、速度を変えて回り込んだ。魔物が対応し、速さに追いつけていないわけではなかった。何かで位置を把握していた。
「視覚以外で俺の位置がわかってる!?」
「振動か嗅覚だ。速度で翻弄するより、間欠的に動いてくれ。常に動き続けると振動で位置が分かる」
「分かりました!」
セレンが水魔法を展開した。足元に水を流して動きを制限しようとした。
魔物が地面を踏み込んだ。力で押し通し、水の制限が崩れた。
「セレン、突破された」
「分かっています。あの重さには対応できなかったです。別の方法を探します」
ゼノが前に出た。
複数属性を組み合わせて対応した。土属性で足元を固め、動きが一瞬鈍った。その瞬間に風属性で速度を上げ、側面に回り、火属性で甲羅のない腹部を狙った。
魔法が当たり、魔物がわずかに反応した。ダメージが入ったが小さい。
「腹部に通るが、接近しないと届かない。リスクが高い」
魔物が尻尾を振った。ゼノが跳んで回避した。着地と同時に土属性で足元を固定し直した。
レオンが側面から攻撃を続けていた。甲羅に当たるたびに弾かれていた。
「くそ、固い」
「甲羅の継ぎ目を狙えるか」
「どこだ」
「背中の中央部、鱗の重なりが薄い部分がある。俺が正面で注意を引く間に試してくれ」
「ああ、分かった」
三十分の戦闘が続いた。
有効打は入っていたが決め手がない。魔物は傷を受けながらも動き続けていた。
ライナスが牽制の途中で足を取られた。転びかけた。エリナがすぐに回復魔法を当てた。
「ゼノさん、何か策は!」
エリナが後方から言った。余裕のある声ではなかった。全員の回復を維持しながら、それでも限界が近づいている声だった。
ゼノは状況を整理した。
甲羅が防御として機能している。腹部は脆弱だが接近が困難。背中の継ぎ目にはレオンの火魔法が部分的に通っているが、仕留めるには出力が足りない。セレンの水属性は重量に対して制限が弱い。
水属性と風属性。
水属性は制限として使うのではなく、別の方法がある。
「水と風を同時に使うことで、この魔物の弱点部位を狙える」
「どういうことだ?」
「甲羅の継ぎ目に水を流し込んで、その部分を風属性で高速の打撃にする。水が継ぎ目の隙間に入ることで、風が内側から力を加えられる。外側から当てるより浸透する」
「できるのか? そんな技」
「理論上は可能だ。ただ、二人の魔法のタイミングを合わせる必要がある。セレン、俺の動きに合わせてくれ」
「分かりました」
セレンが即答した。
迷いのない声だ。どういう動きをすればいいかを確認する前に答えた。ゼノの動きに合わせる、という判断だけを先に出した。
「俺が正面で注意を引く。その間に継ぎ目の位置を水で濡らしてくれ。タイミングは俺が合図する」
「はい」
「レオン、俺とセレンが動く間は離れてくれ。巻き込む可能性がある」
「分かった」
「ライナス、魔物の後方に回ってくれ。逃げ道を塞ぐだけでいい」
「はい!」
ゼノが土属性と風属性を組み合わせて動きを制限しながら、正面から圧力をかけた。魔物の注意が集中した。
セレンが魔物の背後に回り込んだ。水属性を細く絞った。継ぎ目の位置を正確に濡らした。水が隙間に入っていく。継ぎ目が一本、線のように湿った。
「ゼノさん、合図を待っています」
ゼノが魔物の動きを確認した。土属性で足元を固定した。動きが止まった一瞬。
「今!」
セレンが水属性を維持したまま、ゼノが風属性を放った。
水の濡れた継ぎ目に風が集中した。水が媒体になって、風の力が継ぎ目の内側に入り込んだ。
甲羅の継ぎ目が一箇所、広がった。
レオンが「今だ!」と言って火魔法を継ぎ目に直撃させた。
魔物が大きく動いた。後退した。ライナスがいた方向に向きを変えようとしたが、ライナスが間欠的な動きで撹乱した。
もう一度、同じ手順で。二度目の連携で、魔物が地面に伏した。
戦闘が終わった。
全員が止まった。レオンが大きく息を吐いた。ライナスが膝に手をついた。エリナが全員に回復魔法をかけ始めた。セレンが展開を収めた。
ゼノは倒れた魔物を確認したが動いていなかった。
「......これが上位魔物か」
声に出ていた。
全員がゼノを見た。
「奥に進むほど強度が上がる。情報の修正が必要だ」
「情報の修正って、どういう意味ですか?」
「これまでの判断では、この規模の個体を想定に入れていなかった。今後の行動方針を見直す必要がある」
「つまり、もっと強いのが来るかもしれないってことか?」
「ああ」
「......それを冷静に言えるのか、お前は」
「感情的に言うより、冷静に述べた方が対処できる」
「連携がうまくいきました。ゼノさんの合図に合わせられました」
「タイミングが正確だった。継ぎ目への水の誘導が的確だった。即答してくれたのが助かった。」
「ゼノさんが言うなら、合わせれると思ったので」
「......合わせられるかどうかを確認したかったか?」
「確認する時間がなかったですし。合わせればいいと思ったので」
確認なしに合わせると判断した。それはゼノへの信頼から来ている。根拠がある信頼か、根拠がない信頼か、今のセレンの返答だけでは判断できなかった。
「なぜ合わせられると判断したんだ」
「ゼノさんが言う時は、できる時だから。今まで見ていてそう思いました」
観察から来た信頼だった。
レオンが「飯にしよう。今日は戦いすぎた。」と言った。
「同意する。休息と情報の整理が必要だ」
「珍しく俺の意見に同意したな」
「合理的な提案には同意する」
「そういうことにしとこう」
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
次の更新をお楽しみに!
ではまた。




