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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第46話 森の深部

 パーティは中層へ進むことを決めた。


 外縁部の偵察で得られた情報が判断の根拠になった。魔物の分布、移動パターン、個体の種類と規模。データが蓄積したことで、中層へ進む際のリスクの見積もりができた。


 ゼノが「中層への移行を提案する。外縁部の情報から、現時点の戦力で対処可能な範囲と判断した。ただし、外縁部より判断の速度が求められる。各自、連携への準備を上げてくれ」と言い、全員が頷いた。


 中層に入ると、最初から分かった。

 魔力の密度が上がっただけでなく、密度の種類が変わった。外縁部は散漫な気配が広がっていたが、中層は何かが集まっている感覚があった。


「何かいますね」とセレンが小声で言った。


「感じているのか」

「水の流れが変わってる気がします。魔力の流れが、外縁部と違う。何かが動いてる」

「俺も同じ判断だ。前方と右側面に何かがいる。外縁部の個体より魔力の密度が高い」


「強いですか?」とライナスが聞いた。

「不明だ。ただ、外縁部の個体より対処に時間がかかる可能性がある」


 最初の遭遇は、森の中層に入って三十分後だった。

 木の間から現れた魔物は、外縁部で見た個体とは種類が違った。四足だったが、体格が大きい。目が正面を向いていた。外縁部の個体は目が横についていて、視野が広い代わりに正面の認識が弱かった。


「肉食の捕食型だ。群れではなく、単体行動の可能性がある」

「どう対処しますか?」

「俺が注意を引く。レオンが側面から攻撃を入れる。セレンが動きを制限する。ライナスは俺の反対側に回って、逃げ道を塞いでくれ」

「分かりました」


 戦闘が始まった。

 ゼノが前に出ると魔物が反応した。予想通り、俊敏な動き方だ。前に出た捕食型の動きは、群れ型と違って個体単位での判断が速かった。

 レオンが側面から火魔法を当てた。魔物が向きを変えた。


 その瞬間、ゼノが気づいた。

 背後の木の陰に、もう一体いた。


「レオン、後ろ」


 レオンが跳んで回避した。二体目が飛び出してきた。単体行動ではなかった。もう一体が隠れていた。


「二体だ。連携している」


 一体がこちらの注意を引いている間に、もう一体が回り込む。単純な群れではなく、役割分担がある動き方だった。


「この魔物は統率されている。上位個体がいる可能性があるから周囲を確認してくれ」

「どこを確認すればいいですか?」

「高い場所を優先してくれ。上位個体は高い位置から状況を見ることが多い」


 二体を相手に動きながら、ゼノは全体の把握を続けていた。レオンが火魔法を当てて一体の動きを鈍らせた。セレンの水属性展開が地面を制限していた。

 ライナスが周囲を確認していた。右に動いて、左に動いて、木の位置を確認していた。

 一体の動きが大きく変わった。

 ゼノが処理した。パターンが変わった。誰かへの指示が来た。上位個体からの指示か。


「ライナス、止まれ」


 言った瞬間だった。

 ライナスが気配に気づいて前に動いていた。上位個体を見つけようとして、一歩前に出ていた。ゼノの「止まれ」より、ライナスの動きが先だった。

 二体の魔物の動きが変わり、ライナスの方向に向いた。孤立した個体を狙う動きだった。


「ライナス、戻れ」


 今度は端的に言った。距離があったが、はっきりと届く声量で言った。

 ライナスが即座に動き、前に出ていた足を戻した。

 ゼノが二体の動きを変えるために前に出た。注意をライナスから自分に引き付け、レオンが側面から連続で火魔法を当てた。セレンが展開を広げた。

 二体が動けなくなった。レオンが仕留めた。


 戦闘が終わり、全員が無事だった。ライナスが戻ってきたが、少し息が乱れていた。


「すみません、前に出すぎました」

「判断が感情に引っ張られていた。修正してくれ」

「はい。上位個体を見つけたくて、焦って動いてしまいました」

「焦りが行動を先行させた。感情が判断より速く動いた。今後は、動く前に一度確認を入れてくれ」

「分かりました」


 ライナスが少し間を置いてから「でも、ゼノさんって戦闘中は怖いですね」と言った。


「怖い?」

「なんか、全部見えてるみたいで......俺が前に出た瞬間に、ゼノさんが止まれって言った。俺が動くより速かった気がして」

「動こうとした気配があった。把握していたから言えた」

「それが怖いんですよ」

「怖い、という評価の意味がわからない。俺がライナスを見ていることが、なぜ怖いんだ」

「見られてるって分かるからです。戦闘中なのに、ゼノさんは全員の動きを把握してる。そういう人が後ろにいると、なんか安心するより先にすごいなって思って、それが怖い感じになるんです」


 安心するより先に、すごいと感じる。それが怖い、という感覚に変わる。感情の経路が複数重なっている。


「見えているからこそ、言っている」

「え?」

「全員を把握しているから、ライナスが孤立しかけた時に言えた。怖いかどうかではなく、見えているから言っている。見えていなければ言えなかった」

「......それって、ゼノさんが俺たちのことを全部把握してくれてるってことですよね」

「戦闘中の全員の状態を把握することは基本だ」

「でも、ゼノさんしかやってないですよ、それ」

「......俺が最前線にいながら後方も把握できるのは、六属性の感知を使っているからだ。特別なことではない」

「特別ですよ。俺には全部見えない。ゼノさんが見てくれてるから、俺は前に動けた。動きすぎましたけど」

「次は修正してくれ」

「します。でも、ゼノさんが見てくれてるなら、また動けると思います」


 全員が集まって、状況を確認した。


「上位個体の位置は特定できなかった。ただ、存在は確認できた。統率された行動が見られた。この先にいる可能性がある」

「どうしますか?」

「今日はここで一度引く。上位個体がいる状況での戦闘は、追加の準備が必要だ」

「上位個体って、どのくらい強いんだ?」

「今日見た個体の統率を見ると、少なくとも複数の個体を動かせる知性がある。単純な力比べではない相手だ」

「厄介だな」

「ただし、統率型には弱点がある。統率者を排除すれば群れの連携が崩れる。魔物学の授業で話した通りだ」

「あの時の分析、ここで使えるのか」

「情報は使う場面に来た時に価値が出る」


 引き返しながら、ゼノは今日の情報を整理した。

 中型捕食型、連携行動、上位個体の存在。把握できた情報として記録した。

 ライナスが隣に並んできた。


「ゼノさん、さっきはありがとうございました」

「指示しただけだ」

「でも、戻れって言ってくれなかったら、二体に囲まれてました」

「把握していたから言えた」

「......ゼノさんに見てもらえてると、安心します。怖いって言いましたけど、本当は安心の方が大きかったです」

「矛盾しているが」

「しないと思います。すごいと思う相手に守ってもらえると、安心するので」


 すごいと思う相手に守ってもらえると安心する。その感情の経路を、今まで意識したことがなかった。ライナスが怖いと言いながら安心している、という状態の説明がそこにあった。


「......分かった」

「何が分かりましたか?」

「怖い、という評価が、否定的なものではない可能性があるということだ」


 ライナスが「そうです」と言って笑った。

 ゼノはその返答を処理しながら、引き返す道を歩いた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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