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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第二章

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第45話 魔物の森の入口

 依頼の調査を終えて、ギルドに報告した翌日。


 街を出て街道を進むと、徐々に木が変わっていった。手入れされた森とは違う、管理されていない木が増えた。道が細くなり、人の往来の痕跡が薄くなった。


 魔物の森の外縁部が近づいていた。

 ゼノは歩きながら周囲の変化を観察していた。植生の種類。地面の硬さ。空気の湿度。魔力の密度が、街道沿いより上がっていた。


「ここから先、雰囲気が変わりましたね」

「外縁部に入った。ここからは依頼の範囲外になる」

「依頼外って、どういうことですか」

「ギルドから受けた依頼の対象地区は、街の近くの森だ。外縁部より奥は依頼の範囲ではない。ここから先に進むかどうかは、パーティの判断になる」


 外縁部の境界となる場所に出た。

 木が密になっていた。先に進む道はあったが、明らかに人の手が入っていない道だった。奥から何かの気配が漂ってきて、空気が変わっている。

 全員が止まり、しばらく誰も話さなかった。

 レオンが「行くだろ」と言った。


「せっかくここまで来たんだし」

「感情的な理由だ」

「認める。でも行きたい。折角旅に出て、森の入口まで来て、引き返すのはもったいない」

「もったいない、という概念は合理的な判断の基準にはならない」

「分かってる。それでも行きたい」


「魔物の密度が上がりますよ。」とライナスが言った。


「昨日より多い可能性があって」

「その通りだ」

「でも、行きたい気持ちはあります。最初から、魔物の森を探索したかったって言ってたので」

「覚えている」

「臆病なのは分かってるんですけど。行けるなら行きたくて」

「臆病と慎重は別の話だ。ライナスの発言は慎重さからきている。それは有用だ」

「......ありがとうございます」


 セレンが「わたしは皆さんに従います。」と言った。


「どちらでも対応できます。ただ、行く場合は水源の確認が必要になりますね」

「既に確認している。水の補給は可能だ」

「準備がいいですね」

「ゼノさんは?」


 エリナが聞き、全員がゼノを見た。

 ゼノは少し間を置いた。


「魔王に関する情報が、この森の奥にある可能性がある」


 全員の空気が変わった。


「学園の図書室の禁書区画に、誰かが侵入した痕跡があった。参照されていたのは魔王の覚醒に関する記録だ。それらの記録の中に、この森の方向を示唆する内容があった。奥に何かがある可能性を排除できない。それと、今の戦力で対処できる範囲を確認しておくことは、将来的な判断の根拠になる。進む合理的な理由がある」


「魔王」という言葉が落ちた瞬間、全員の表情が変わった。

 レオンが「魔王、か。」と言った声のトーンが変わっていた。先ほどの「行きたい」という声とは違う重さがあった。


「学園の時に言ってた話か。禁書区画の件」

「そうだ」

「じゃあ、俺たちの旅と繋がってるのか」

「可能性がある。ただし確信はない。調べる必要がある」


 ライナスが「魔王って、本当にいるんですか?」と言った。


「少なくとも、誰かが魔王の覚醒を調べていた形跡がある。魔王の覚醒に関する記録を参照した痕跡が残っていた。それだけは事実だ」

「それって......危ないんじゃないですか?」

「危険の可能性はある。ただし、今すぐ直接的な危険があるかどうかはわからない。情報が足りない。だから調べる必要がある」


 全員が沈黙した。

 木の間から風が来た。奥の方から、微かに何かの気配がした。魔力が濃く、街道沿いとは明らかに違う質感の空気だった。


「危険度は上がる。外縁部の内側は、昨日までの範囲より魔物の密度が高い。中型以上の個体が増える可能性がある。ただ、今の戦力で対処可能な範囲は把握できる。限界に近づいたと俺が判断した時は、引き返す判断をする」

「俺が言うなら、というのは?」

「各自が個別に判断するより、全体を把握している一人が引き際を決める方が、統一的な判断ができる。感情的に進みたい気持ちが出た時でも、俺の判断を優先してくれ」

「......感情的に進みたくなることを、既に想定してるのか」

「俺以外の四人の傾向を観察した結果だ。全員が今、進みたいという気持ちを持っている。それは把握した上での提案だ」


 またしばらく沈黙があった。


「......分かった」


 レオンが言った。

 先ほどまでの軽い声ではなく、何かを決めた声だった。


「お前が言うなら信頼する。引き際はお前が決めろ。俺は従う」

「ライナスはどうする」

「行きます。ゼノさんが判断するなら、信頼できます」

「セレン」

「わたしも」

「エリナ」


 エリナが少し間を置いた。


「ゼノさんが引き際を決めるなら、行けます」

「昨日の疲労が残っている可能性がある。今日は深くは入らない。偵察程度にする。それでも問題ないか」

「はい」


 ゼノは全員を見回すと、四人が頷いていた。

 信頼する、という言葉をレオンが使った。ライナスも使った。全員がゼノの判断に委ねることを選んだ。

 テラが言っていた言葉が頭に浮かんだ。


 ――信頼は根拠から来るものじゃない、根拠がなくても信じること。


 今のレオンたちは、ゼノが合理的に判断できるという根拠を持っている。根拠があって信頼している。テラが言っていた信頼とは少し違うかもしれなかった。

 しかし、四人がゼノを信頼して進む、という状況が成立した。


 五人が森の中へ入った。

 木の間が暗くなり、外の光が届きにくくなった。

 ゼノは先頭を歩きながら、周囲の気配を常に確認した。

 後ろに四人がいて、全員の動きを把握しながら進んだ。


 信頼する、という言葉が、まだ頭に残っていた。

 根拠があって信頼されている。その根拠に応えることが今の俺にできることだ。

 ゼノはそう処理して、歩き続けた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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