第42話 森の探索
森の中を進んで三十分ほど経った頃、気配が変わった。
ゼノが「止まれ。」と言い、全員が動きを止めた。
前方の木の陰に、何かがいた。視覚ではなく、魔力の感知で確認した。小さいが複数。動きが散発的だった。群れているが統率がない。
「前方二十メートル付近に魔物。小型、複数。五から七体と思われる。統率なし、散発的に動いている」
「見える。草むらが動いてる」
「各自、役割通りに動いてくれ。ライナス、右から回り込んで注意を引け。俺が前に出る」
「分かりました」
動き始めた瞬間、魔物が反応した。
草むらから飛び出してきたのは、毛に覆われた四足の小型の魔物だった。動きが速く、牙があった。単体では脅威度が低いが、複数で来ると連携が崩れる可能性がある。
一匹が真っ直ぐライナスに向かった。
ライナスが横に跳んだ。魔物の突進を回避した。着地と同時に風属性の牽制を横に放った。魔物の動きが一瞬止まった。
「学園の練習が活きてる!」
ライナスが言った。声に驚きが混じっていた。演習で繰り返してきた動作が、実戦で出た瞬間の声だ。
ゼノは全体を見ながら前に出た。
二匹が自分に向かってきた。右手に土属性を展開して足元を固め、一匹の動きを止めた。もう一匹を風属性で弾いた。
レオンも動いた。
「行くぞ!」
火魔法を放った。動きを止めた一匹に直撃し、仕留めることができた。出力の制御が正確だった。周囲への延焼を避けながら、対象だけに当てた。火魔法の精度が高くなっている。
セレンが後方から水属性を展開した。
広範囲に薄く水の膜を張った。残っている魔物の足元に水が流れた。動きが重くなった。方向転換が遅くなった。
「遅くなってる。レンさん、すごい」
「足元を制限しています。動きやすいと思います」
ゼノは全体を把握していた。
ライナスが牽制して注意を引いている。レオンが一匹仕留めた。セレンが動きを制限している。残り四匹の位置を確認した。三匹はセレンの制限で動きが重くなっている。一匹がエリナ方向に向かおうとしていた。
「レオン、左の一匹」
「見えた」
レオンが即座に対応した。火魔法が一匹を直撃した。
ゼノは残り三匹の中心に入った。土属性で足元を固定し、風属性で上から圧した。動けなくなった三匹にレオンが追撃を入れた。
全体の戦闘が三分もかからずに終わった。
静かになった。
ライナスが着地して、少し手を押さえていた。
「ライナス、怪我か」
「かすった程度です。逃げ切れなかった分が少し」
エリナがすでに動いていた。ライナスの手を確認して、回復魔法を当てた。光が出て、傷が塞がった。タイミングが速い。状況の変化を把握して、すぐに動けていた。
「痛くなくなりました。ありがとうございます」
「気をつけてくださいね」
ゼノは戦闘の流れを振り返った。
全員が役割通りに動いた。状況への判断が速かった。介入が必要だったのは、エリナ方向への一匹への指示だけだった。それ以外は各自が自分で判断して動けていた。
「連携の精度は想定より高い。各自の判断が適切だった。指示なしで動けた場面が多かった」
「ゼノに褒められた!」とレオンが言った。
「褒めていない。評価した」
「なんか褒められた気分になるんだよな、ゼノに評価されると!」
「気分の問題だ。ただ、実際に適切だったのは事実だ」
「じゃあ褒め言葉だろ!!」
ライナスが「ゼノさん、俺の牽制はどうでしたか。」と聞いてきた。
「速度の使い方が適切だった。回避しながら牽制を入れる動作が実戦で出せた。ただ、逃げ切れなかった部分がある。回避の幅をもう少し大きくした方がいい」
「改善点もちゃんと言ってくれる。ありがとうございます」
「セレンの水属性の動き制限が効果的だった。足元への展開は想定していなかった」
「川の流れを応用しました。低い方に流れるので、自然と足元に集まります」
「有用だ。次の戦闘でも使えるか」
「できます」
「エリナの回復タイミングが速かった」
「ライナスさんが動いた瞬間から、万が一の場合に備えて準備していました」
「それが正しい判断だ」
調査を継続した。
森の中をさらに進んだ。二度目の遭遇があった。今度は単体の中型魔物だった。
ゼノが「単体、中型、前方三十メートル。」と言った。
今度は指示を出す前に全員が動き始めた。
ライナスが右に回った。レオンが魔力を集め始め、セレンが水の展開準備をした。エリナが後方に距離を取った。
ゼノは動きを見ながら、介入せずに状況を把握した。
ライナスの回り込みで魔物の注意が分散した。レオンが攻撃のタイミングを待った。セレンが魔物の足元に水を流した。動きが鈍ったところにレオンが火魔法を当てた。
ゼノは介入しなかった。
必要がなかった。
戦闘が終わった後、ゼノは何も言わなかった。
「今回はゼノさん、ほとんど動かなかったですね」
「必要がなかった」
「それって、全員でできたってことですよね?」
「そうだ」
レオンが「いいじゃないか。」と言った。
「俺たちだけで戦えた。」
「ゼノさんがいる安心感があったから、動けた部分もあると思います。全部見てくれてるって、分かってるから」
「全部見ていた。ただ、介入の必要がなかった」
「それが一番いいんじゃないですか」
調査を終えて、依頼の範囲内での魔物の確認と間引きが完了した。
街に戻る前に、森の入口で全員が一度止まった。
「今日の結果を整理する。目撃情報の魔物を確認した。種類は二種類。小型群れ型と中型単体型。個体数は把握した範囲で十二体。間引きは七体。残りは深部に退いたと思われる。依頼の内容は達成できた」
「完璧じゃないか」とレオンが言った。
「初回としては適切な結果だ。次の依頼に繋がる経験が得られた」
「ゼノさんって、常に次のことを考えてますね」
「今だけを見ても、情報として不十分だ」
「それもゼノさんらしい」
夜の円卓。
ウェントスが「みんな、よかったね!」と言った。元気な声だった。
「初回の実戦として適切な結果だった」
「そうじゃなくて! みんなで戦えて、みんな無事で、よかったねって言ってるの!」
「......そうだな」
「ゼノが介入しなくても成立してたじゃん。いいパーティだ」
「二回目の戦闘で、指示なしで動けていた」
「それって、ゼノが信頼されてるからでしょ? 全部見てるって分かってるから、みんなが動けるんだよ」
「......そうかもしれない」
「いいパーティだよ、ほんとに」
イグニスが繰り返した。珍しく同じことを二度言った。
ゼノは少し間を置いてから「......そうだな」と言った。
ウェントスが「おお!! ゼノが素直に同意した!!」と声を上げた。
「事実だから同意した」
「それでいい!!」
テラが穏やかに笑っていた。
ゼノは円卓を見た。三つの椅子に三人がいた。六つの席のうち三つはまだ薄暗かった。
今夜はそれを見ながら、悪くないという感覚がそこにあること
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
次の更新をお楽しみに!
ではまた。




