第39話 学園の終わりと旅の始まり
卒業式は午前中に行われた。
入学式と同じ場所だった。三年前、ゼノは式典の演出を非効率な儀式だと内心で処理していた。今日も同じ場所に立って、同じ構造の式典を受けている。
変わったことがあるとすれば、隣にいる人間が誰かを把握していることだった。
右にレオン。左にエリナ。少し前にライナスとセレンがいた。
来賓の挨拶があった。先生の紹介があった。卒業証書の授与があった。一人ずつ名前を呼ばれて、フォート校長から証書を受け取った。
「ゼノ・アルディス」
フォート校長から証書を受け取った。フォート校長がゼノを見て、何かを言おうとした様子があったが、式典の中だったので何も言わなかった。ただ、目が少し笑っていた。
ゼノは頷いて席に戻った。
式辞がフォート校長によって読まれた。
「諸君がこの学園で学んだことは、魔法の技術だけではないはずだ。人と関わること、信じること、守ること。それぞれが、ここで何かを持ち帰ることになる――諸君の未来に、魔法の光が届かんことを」
拍手が起き、ゼノも手を合わせた。
式典が終わって、生徒たちが動き始めた。
各自が荷物を取りに寮に戻った。今日で寮を出る者が多かった。廊下に荷物を持った生徒が溢れていた。再会を約束する声、泣いている声、笑い声が混在していた。
ゼノは荷物をまとめながら、部屋を見回した。
三年間いた部屋だ。ベッドと机と棚。特に感情的な反応は来なかった。ただ、情報として記録した。ここで何度も円卓に入った。ここで今まで処理できなかったことを処理しようとした。ここで、少しずつ何かが変わっていった。
荷物を持って部屋を出た。
冒険者ギルドへの登録は昨日のうちに済ませていた。
王都の先にある街のギルドで、パーティとして正式に登録する手続きも終わっていた。ゼノ・エリナ・ライナス・レオン・セレン、五名のパーティ。名前は決めていなかった。
レオンが「名前いるか?」と言って、全員が「別に今は決めなくていい」という意見で一致した。
出発は翌朝にした。今日は街に一泊して、準備を最終確認する時間にした。
翌朝の学園前。
日が昇り始めたばかりの時間だった。学園の正門の前に五人が集まった。荷物を持って、旅装で。
レオンが「よし、行くか!」と言った。
朝から声が大きかった。緊張しているのか、はしゃいでいるのか、その両方が混じっている声だ。
「はい!」とライナスが返事をした。昨夜はほとんど眠れなかったと言っていたが、それでも表情が明るかった。
「よろしくお願いします。」とセレンが静かに言った。いつもと変わらない落ち着いた声だった。
エリナがゼノを見た。
「ゼノさん、準備はいいですか?」
「問題ない」
「じゃあ、行きましょうか」
四人が門の外に向かって歩き始めたが、ゼノは一歩踏み出そうとして止まった。
後ろを振り返った。
学園の建物があった。石造りの正門。その奥に校舎が見えた。大広間の窓が朝の光を反射していた。訓練場の方向が見えた。図書室のある棟が見えた。
三年間いた場所だ。
感慨深い、という感覚がくるかどうかを確認しようとした。来るのかどうか、まだ分からない。ただ、三年前にここを初めて通った時とは、何かが違う気がした。
入学の朝、ゼノは何も期待しないまま門をくぐった。
今日、何かを持って門を出ようとしている気がした。何かが何なのかは、まだ言語化できていなかった。
「ゼノさん?」
「......行くか。」
ゼノは前を向いた。
歩き始めた。
「どっちの方向に行く?」
「まず最初の街まで。そこで情報を集める」
「それだけか!」
「最初の方針だ。変わる可能性がある」
「もっとロマンのあること言えよ!」
ライナスが「ゼノさんらしいですよ。」と言った。
エリナが「でも、最初の街で情報収集っていうのは正しいですよね」と言った。
セレンが「水源の確認も必要ですね」と静かに言った。
それぞれが話しながら歩いていた。
意識の端で、円卓が見えた気がした。
ウェントスが椅子の上で立ち上がっていた。両手を上げていた。
「旅だね!!」
声が来た。嬉しさが全部出ている声だった。
「ふん、面白くなってきた」
イグニスの声が来た。横を向いているのが目に見えるようだったが、声のトーンが悪くなかった。
「あなたなら大丈夫ですよ」
テラの声が来た。変わらない穏やかな声だった。根拠なしに言い続ける声だった。
「ああ」
ゼノは答えた。
声に出ていたか出ていなかったかわからなかったが、答えた。
「今何か言いましたか?」
「......独り言だ」
「また独り言ですね。何て言ったんですか?」
「......ああ、と言った」
「ああ? 何に対してのああですか?」
「問題ないということを確認した」
「何が問題ないんですか?」
「今から旅に出ることが」
街道を五人が進んだ。
学園が遠くなっていき、振り返らず前を向いていた。
右にエリナがいた。左にセレンがいた。前にライナスとレオンがいた。
失いたくないと思ったもの。昨夜の中庭で初めて来た感覚。それが今、隣にあった。前にあった。
その感覚が何なのかは、まだ分からなかった。
それでも旅が始まっていた。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
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ではまた。




