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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第37話 フォート校長の言葉

 卒業式まで一週間を切った頃、フォート校長から呼び出しがあった。


 クルス先生が「校長が話したいことがあるそうだ」と伝えてきた。理由は聞かなかった。入学直後の面談以来、フォート校長と直接話す機会はほとんどなかった。特別に呼ばれる理由として考えられるものがいくつかあったが、予測の精度が低いため保留にした。

 放課後、校長室の扉をノックした。


「どうぞ」


 いつもと変わらない、落ち着いた声だった。


 校長室は入学直後に来た時と同じだった。壁の本棚、窓から差し込む光、応接の椅子。変わっていない。フォート校長が机の奥から立ち上がり、応接の椅子を示した。


「座りなさい」

 向かい合って座った。フォート校長はしばらくゼノを見ていた。値踏みするような目ではなかった。確認するような目だった。


「卒業が近いね」

「あと一週間です」

「その間にやり残したことはあるか」

「今のところはありません。必要なことは終えました」

「そうか。一つ聞いてもいいか。君は学園で何を学んだ」


 何を学んだか。技術的な内容か、それとも別の何かを聞いているのか。フォート校長の質問の意図を判断できなかったので、正直に答えることにした。


「魔法の理論・実技、魔物の生態、人間の感情の多様性です」


 フォート校長が少し目を細めた。


「最後のが興味深いな。人間の感情の多様性、か」

「授業外での観察が中心でしたが、得られた情報量は多かったです。感情という現象の種類と、それが行動に与える影響について、当初の予測より多くのことが分かりました」

「予測より多く、というのは?」

「入学前は、感情は判断を鈍らせるものだという認識がありました。今は、感情が判断の前に来て、行動の力になることがあるという認識に変わりました。完全に理解したわけではありませんが、最初とは違います」


 フォート校長がしばらく黙った。

 窓の外を見ると光が傾いていた。夕方だ。


「君が変わった、ということを何人かの先生から聞いた。ガード君もクルス君も、同じことを言っていた。」

「変わっているという評価は受けていました。自分ではまだ完全には把握できていません」

「それが正直なところだろうね」


 フォート校長が視線を戻した。


「一つ、昔話をしてもいいかな」

「はい」

「数十年前の話だ。俺がまだ若い頃、一人の魔法使いがいた。そいつも君と同じ六属性の魔法使いだった」


 ゼノは聞いていた。


「その人物は強かった。誰も追いつけないほど強かった。ただ、感情がなかった。正確には——感情を持とうとしなかった、と俺には見えた」

「なぜ感情を持とうとしなかったんですか」

「それは後で話す。その人物は一人で戦い続けた。仲間を作らなかった。誰かを信頼しようとしなかった。強さだけで全てを解決しようとした」


 フォート校長が少し間を置いた。


「だが最後は、大切なものを守れなかった」

「具体的には何を守れなかったんですか」

「それは言えない。その人物のことだから。ただ守れなかった理由が、感情を持っていなかったことにあると俺は思っている。」

「クルス先生にも似た話を聞きました。感情を捨てたから、守るべき理由が分からなくなったという話です」

「クルス君から聞いたか。あいつも、それに近い経験をしていたな。俺の話を聞いて、自分に重ねた部分があったのかもしれない」

「フォート校長が話した人物と、クルス先生の経験は別の話ですか」

「別の話だが、構造が似ている。感情を失った、あるいは捨てた者が守るべき理由を失う、という構造。君はその人物とは違う道を歩んでいるように見える」

「理由は何ですか」

「君の周りに人がいる。学園で友人と呼べる存在ができた。卒業後は一緒に旅に出ると聞いた。それだけで十分だ。孤独に戦い続けたその人物とは、明らかに違う」

「俺が感情を持っているかどうかについては、まだ完全には確認できていません」

「全部持っている必要はない。今持っているものがある、それだけでいい」

「......その人物はなぜ感情を持たなかったのですか」


 ゼノは聞いた。先ほど保留にしていた問いだった。

 フォートが少し考えた。


「......選んだのか失ったのか、今となっては分からない」

「どちらか判断できないということですか」

「本人と話したことがあるが、はっきりとした答えは得られなかった。自分でも分からなかったのかもしれない。選んで捨てたのか、気づかないうちに失ったのか。外から見ても、内から見ても、判断が難しかった」


 選んで捨てた、と気づかないうちに失った。その違いが何を意味するのかを考えた。


「選んで捨てたなら、取り戻す意志が必要になります。気づかないうちに失ったなら、取り戻す方向への歩みが必要になります」

「そうだな。どちらにしても、取り戻すことができたかもしれなかった。ただその人物は取り戻そうとしなかった。最後まで」


 フォート校長が「君には、両方の可能性がある」と言った。


「両方、とは」

「感情を持ち続ける可能性と、手放す可能性の両方だ。今は持ち続ける方向に向かっているように見える。ただそれが続くかどうかは、君が決めることだ」

「俺が選ぶことになるのか」

「全てそうだ。感情を持つか持たないか、守るために動くか動かないか、誰かを信頼するかしないか。全部、最終的には君が決める」

「......その人物について、もう一つ聞いていいですか」

「何を」

「その人物は今、どこにいるんですか」


 フォート校長が少し止まった。

 窓の外を見た。それから「それは答えられない」と言った。


「答えられない理由があるんですか」

「ある。ただ君が旅に出れば、いつか分かることかもしれない」


 面談が終わり、ゼノが立ち上がろうとした時、フォート校長が「一つだけ」と言った。


「何ですか」

「君が変わってきているのは、周りの人間のおかげだと思う。エリナ君、ライナス君、レオン君、セレン君。あの子たちが、君に何かをもたらした」

「俺も、彼らに何かをもたらしたとすれば、相互的な関係です」

「そうだな。ただ、君が何かをもたらされたことをちゃんと知っておいてほしい。旅に出ると、一人で全部抱えたくなる場面が来る。その時に、今学んだことを忘れないでくれ」

「人間の感情の多様性を忘れるな、ということですか」

「それも含めて。感情を持つことが、強さになることがあるということを」


 廊下を歩きながら、フォートの話を処理した。

 数十年前の六属性の魔法使い。感情を持たなかった。選んで捨てたのか、気づかないうちに失ったのか分からない。

 大切なものを守れなかった。


 最後の言葉が引っかかった。

 旅に出れば、いつか分かる。その人物が今どこにいるか。


 また今夜の円卓で話すことがまた一つ増えた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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