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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第36話 旅への話

 進路について考える時期になった、とクルス先生が言ったのはある朝のホームルームだった。


「卒業まで残り少なくなってきた。各自、卒業後の方向性を考えておくことだ。希望があれば俺に相談してくれ」


 クルス先生が言い終わると、教室がざわついた。

 卒業後の選択肢は複数あった。冒険者として各地を旅する者、王宮魔法士として国に仕える者、魔法の研究職に進む者、実家の仕事を継ぐ者。生徒たちが口々に話し始めた。「俺は王宮魔法士かな」「冒険者は大変そう」「研究もいいな」という声があちこちで上がった。


 ゼノは聞きながら、すでに判断していた。


 昼食の時間、いつもの四人で食堂の席についた。

 レオンが「みんなはどうするんだ、卒業後」と話を切り出した。


「俺は冒険者かな。でも、一人でいきなり旅に出るのは不安でもある」

「俺も冒険者にしたいけど、まだ迷ってる部分があって......強くならないといけない気がしてて」

「わたしは......少し考え中です」


 セレンが静かに言った。

 全員がゼノを見た。


「旅に出る。魔物の森を探索する」

「理由は?」

「学園で得られる情報量が頭打ちになっている。授業で学べることは学んだ。外に出る方が合理的だ。それと——」


 少し間を置いた。


「魔王に関する情報を、実地で収集する必要がある」


 四人が少し静かになった。


「魔王って、まだ気にしてたのか」

「気にしている、という感覚の定義が——いや、ただ情報が不足している。図書室の禁書区画の件から、動いている何かがある可能性が高い。実地で確認する必要がある」

「一人で行くつもりか」

「当初はそのつもりだった」


 その日の放課後、エリナが「少し話せますか」と言いに来た。

 訓練場の外の、壁際に並んで立った。


「進路のことです」

「何か決まったのか」

「決めようとしています。私も、旅に出ようかと思っています」

「なぜだ」

「家にいるより、外に出た方が強くなれる気がして。回復魔法の実力をもっと上げたいなら、実戦に近い経験が必要だと思って。ソーレル家の基準には、数字だけじゃなくて実際の経験も関係するので」

「合理的な理由だ」

「それと――一緒に行ってもいいですか?」


 ゼノは少し止まった。

 一緒に行く、という言葉。エリナが旅に出ることは、理由が明確で合理的だ。一緒に行く、という部分の処理が止まった。


「俺と行動することのメリットはなんだ」

「もう、そういうことじゃなくて!」

「じゃあ何が問題だ」

「問題じゃないです。一緒に行きたいって言ってるんです。メリットとかそういう話じゃなくて」

「一緒に行きたいという動機の根拠は何だ」

「......ゼノさんと一緒にいたいから。それだけです」


 エリナが少し照れた顔で言った。

 それだけ、という言葉だった。根拠を求めたが、動機だけが返ってきた。テラが言っていた話が浮かんだ。根拠がなくても信じることが信頼だ、という話。動機だけがある、という構造が、以前より理解できる気がした。


「......検討する」

「いつもより前向きな返し方ですね」

「メリットは明確だ。エリナの回復魔法はパーティの生存率に直結する。実戦経験を積む理由もある。デメリットは危険度の上昇だが、対処できる範囲で行動する前提なら許容範囲内だ」

「ゼノさんって、そういう言い方するんですね。でも、断らなかった」

「断る合理的な理由がなかった」

「じゃあ、一緒に行けるんですか」

「......ああ」


 翌日の昼食、また四人が揃った時、エリナが「私、ゼノさんと旅に出ます」と言った。


「え、もう決まったのか?」

「いきなりですね。俺も旅に出たいと思ってたんですが」

「ライナスも来ればいい」

「え、いいんですか?」

「ライナスの風属性は有用だ。速度と撹乱が機能する。パーティの構成として問題ない」

「俺も行きます! 行きたかったんです、旅! 一人では不安で。でも、ゼノさんたちと一緒なら」


 レオンが「じゃあ俺も。」と言った。


「一人じゃ不安だしな。それに、お前たちだけで旅されたら、俺が知らない間にいろいろ起きそうで嫌だ」

「感情的な理由だ」

「感情的でいいだろ! 友達と一緒に旅したいんだよ!」


 友達、という言葉が出た。ゼノは処理した。以前はその言葉の定義を整理しようとした。今は、少しだけ違う処理になった気がした。


 全員がゼノを見た。

 セレンがまだ何も言っていなかった。少し迷っている様子だった。


「セレン」

「......わたしも、もし良ければ」


 静かな声だった。


「みんなと一緒の方が、わたしには向いている気がして。一人で動くより、誰かのそばにいた方が、水魔法も活きると思うから」

「水属性の広範囲支援は有用だ。合理的な判断だ」

「合理的かどうかより、一緒に行きたいです」

「......そうか」


 ゼノは全員を見回した。

 エリナ、ライナス、レオン、セレン。四人がゼノを見ていた。それぞれに理由があった。合理的な理由の者もいた。感情的な理由の者もいた。どちらでもある者もいた。


「......合理的な集団構成だ」

「そこかよ!!」

「合理的な部分だけ評価した」

「もっとこう、嬉しいとか、一緒に行こうとか、そういうことを言えよ!」

「嬉しいかどうかは——」

「もういい! ゼノが断らなかった時点で十分だ!!」


 ライナスもエリナも笑っていた。セレンが静かに微笑んでいた。


 夜の円卓。

 三人に今日のことを話した。


「パーティが決まりそうだ。エリナ、ライナス、レオン、セレン」

「やった!! みんなと旅に出るじゃん! よかった!!」


 ウェントスが飛び上がって喜んだ。


「合理的な判断の結果だ」

「そうじゃないでしょ。一緒に行きたかったんでしょ」

「......否定できない部分がある。」


 ウェントスが「それが答えだよ!!」と言った。

 イグニスが「……まあ悪くない。」と言った。横を向いていたが、口元が動いていた気がした。

 テラが「あなたなら大丈夫ですよ。」と言った。


「また根拠なしに言っているな」

「これからも言い続けます」


 ゼノは処理しようとして、やめた。

 合理的な集団構成だ、という評価は本当だった。ただ、それだけではなかった可能性も今夜は否定しなかった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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