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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第33話 怒りの覚醒

 翌朝、上級生グループが動いた。


 朝の授業の前、ライナスが「友人から、また上級生たちに声をかけられているって。今度は複数の生徒をまとめて狙おうとしてるかもって」と言いに来た。

 ゼノは授業の前に動くことにした。


 場所は北棟の外れだった。

 上級生グループが下級生を囲んでいた。今度は三人だった。ライナスの友人も含まれていた。

 ゼノが来た時、上級生たちはまだ気づいていなかった。

 状況を確認した。下級生三人、上級生グループ四人。下級生に逃げ場はない。上級生の一人が魔法を発動しようとしていた。


「やめろ」


 ゼノが言うと、全員が振り返った。

 上級生たちがゼノを見た。

 一瞬の沈黙の後、「またお前か」という声が来た。


「今日は先生を呼ぶ前にやることがある。邪魔するな」

「邪魔する」

「お前には関係ない」

「関係がある」

「なぜだ」


 ゼノは言葉を探した。合理的な説明ができる言葉を探した。しかし来なかった。代わりに、別の言葉が出た。


「お前たちは今後も同じことを繰り返す。それを止める必要がある」

「お前一人に止められるか」

「試してみればいい」


 上級生が「やるぞ」と仲間に言った。


 グループが散開した。

 連携して別方向に散ろうとしていたが、その動きは把握していた。

 ゼノが動いた。

 俺は間に合わなかった。

 その事実が、また頭に来た。渡り廊下に着いた時には終わっていた場面が来た。昨日のエリナへの魔法が来た。


 今日も繰り返されようとしていた。

 お前たちは今後も同じことを繰り返す。

 その言葉は予測として述べた。しかし今、それが単なる予測ではない何かとして、ゼノの中にあった。


 上級生の一人が魔法を放ちながら走った。

 ゼノが受け止めた。風属性で逸らした。上級生が方向を変え、別の一人が背後から来た。土属性で足元を固めた。二人が同時に来た。


 その瞬間、意識の端に円卓が見えた。イグニスが立ち上がっていた。


「ゼノ」


 イグニスの声がした。


「今、何か感じてるでしょ」


 ゼノは上級生の魔法を受け流しながら、答えた。


「......分からない」

「分からなくていい。ただ——今、どうしたい?」

「これ以上は、好き勝手にさせない」


 言葉が出た。考えていなかった。計算していなかった。ただ、出た。


「それだよ。それが——怒りだよ。守れなかった自分への怒り。もう傷つけさせない、っていう怒り。二つが一緒に来てる」

「怒りが、こういう形で来るのか」

「感情に合理的な形はない。来る時に来る。ゼノに来たのが今日だった。そして忘れないで。怒ることを。それが力の源になる」


 円卓の空間が赤い光に満たされ、イグニスの座っていた椅子が赤くなった。

 赤い瞳が光り、ポニーテールが揺れた。

 いつも腕を組んで横を向いていたイグニスが、ゼノを正面から見ていた。照れでも強がりでもない、真剣な目だった。


「——憤怒解放ラース・リリース!」


 天翔遊戯スカイ・ラプソディの時とは違う加速が起きた。思考の速度ではなく、出力の質が変わった。火属性が全身に広がった。熱が来た。ただ焼けるような熱ではなかった。力が集まる感覚だ。


 攻撃速度が上がった。

 上級生の魔法が来たのを一瞬で判断した。受け流すのではなく、先に上回る。火属性を前に出し、上級生の魔法が散った。

 別の一人が後方から来た。振り返るより先に判断できた。土属性で足元を封じた。

 残り二人が逃げようとした。風属性で周囲に気流を作り、その場に留まらせた。逃げ場を塞いだが、傷はつけなかった。


 制圧した。

 四人全員が動けなくなっていた。怪我はない。ただ止める。その判断は最初からあった。

 覚醒が収まっていくのを感じた。熱が引いていく。出力が通常に戻っていく。それなりの消耗だったが、先日の喜びの覚醒ほどではなかった。


 廊下が静かだった。

 下級生三人が壁際に立っていた。動けなくなっている上級生グループを、呆然と見ていた。

 ゼノは右手を見た。怒りの覚醒の余韻がまだそこにあった。熱が残っている。


「......これが、怒りか」


 声が出ていた。

 誰かに言ったわけではなかった。ただ確認していた。

 覚醒の前に、円卓でイグニスと話した内容が頭にあった。守れなかった自分への怒り。もう傷つけさせないという怒り。二つが一緒に来た。

 来たということが、今は理解できる気がした。完全ではなかった。来たということだけは分かった。


 ガード先生とクルス先生が同時に来た。

 状況を確認し、ゼノが説明した。上級生たちが下級生を狙っていた。止めた。全員の無事を確認した。

 クルス先生が上級生グループを連れて行った。ガード先生がゼノに「後で話を聞く」と言った。

 下級生の一人が「ありがとうございます!」と言った。ライナスの友人だ。今度は怪我をしていなかった。


「次は間に合った」


 下級生が少し首を傾けた。意味がわからなかったかもしれない。


 夜の円卓。

 広間に入った瞬間、ウェントスが泣きそうな顔で笑っていた。泣いてはいなかったが、目が赤かった。


「......ゼノ」

「ああ」

「覚醒した」

「した」


 ウェントスがまた泣きそうな顔になった。笑い続けながら、目から何かが溢れそうになってこらえていた。

 イグニスが赤い椅子に座っていた。

 今日は腕を組んでいなかった。横を向かず、膝の上に手を置いて、ゼノを見ていた。

 イグニスが少し黙ってから、言った。


「......うん。よく頑張った」


 それだけだった。

 いつもの尖った声ではなかった。素直な声だった。今まで聞いたことのない、イグニスの声だ。


「怒りが来た。守れなかった自分への怒りと、もう傷つけさせないという怒りが、同時に来た。そういうことだったのか」

「そういうことだよ。ゼノに来てよかった。」

「来てよかった、という評価の根拠は」

「......うるさい」


 言ったが、怒ってはいなかった。少し笑っていた気がした。ゼノには判別が難しかったが、口元が動いていた。


「イグニス」

「......何」

「覚醒したが、傷つけなかった。止めることだけを目的にした。それは怒りと矛盾しないか」


 イグニスが少し考えた。


「矛盾しない。怒りって、破壊したくなる感情じゃなくて、止めたくなる感情でもある。今日のゼノの怒りは、傷つけさせたくないという怒りだったから、傷つけることに向かなかった。怒りの向き先がそこにあった」

「怒りの向き先、か」

「燃料は同じでも、どこに向けるかで変わる。ゼノは正しいところに向けた」


 ウェントスがまだ笑っていた。


「ゼノ、どんな気持ちだった? 覚醒した時」

「熱かった。火属性の出力が上がった。ただ——熱の種類が、技術的な出力の熱とは違った。何かが乗っていた」

「それが怒りが乗った魔法だよ。ガード先生が言ってた魂って、そういうことだと思う」

「魂が乗った魔法、か」

「感じた?」

「......感じた、と言える気がする。完全ではないが。」


 ウェントスが「それで十分!!」と言った。こらえていたものが出てきたのか、今度は涙が少し零れた。急いで拭いていた。


「泣いているのか」

「泣いてない! 目が乾燥してただけ!」

「そうか」

「絶対信じてないでしょ!!」


 イグニスが「うるさい」と言った。ただし今日はその言葉に刺がなかった。


「ウェントス、泣いていい」

「泣いてないって言ってる!」


 ゼノは二人を見ていた。

 いつもの円卓と少し違った賑やかさだった。

 右手を見たが、覚醒の熱はもう残っていなかった。だが今日のことは、頭の中に明確に残っていた。


 ――これ以上は、好き勝手にさせない


 今日出た言葉を、ゼノは繰り返した。


「それが怒りだったのか」

「そう。怒りがゼノに来た言葉だよ」

「......思ったより、合理的だった」

「え?」

「怒りが来た時に、傷つけることに向かなかった。止めることに向かった。怒りは非合理的だと思っていた。ただ今日の怒りは、何かに向かっていた。方向があった」

「そういう怒りもある。全部の怒りが同じじゃない。ゼノに来たのは、守りたいという気持ちから来た怒りだったから」


 守りたいという気持ち。

 その気持ちが今日初めて、あったかもしれないという感覚があった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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