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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第28話 レオンの炎

 最初に気づいたのは、授業中だった。


 魔法実技の演習で、各自が自分の属性の練習をしている時間だった。ゼノは風属性の制御調整をしながら、習慣的に周囲を把握していた。


 レオンの火魔法が、いつもと違った。

 出力が低い。レオンの火魔法は感情との連動が強く、演習のたびに出力が変化する傾向があったが、今日はその変化の幅が違った。上下するのではなく、全体的に下がっていた。


 発動のたびに小さくなっていく。

 レオンがそれに気づいて、眉を寄せていた。もう一度試す。また小さい。腕を下ろして、少し考える。また試す。変わらない。


 演習が終わって移動する時間に、ゼノはレオンの隣に並んだ。


「火魔法の出力が落ちている」

「……気づいてたのか」

「観察していた。発動のたびに変化せず、全体的に下がっている」

「……そんなに下がってたか」

「原因を確認したいが、時間があるか」


 レオンが「ある」と言った。声に覇気がなかった。普段のレオンではなかった。


 放課後の訓練場に来た。

 レオンが火属性を発動した。ゼノは魔力の流れを観察した。出力の低さを確認した。技術的なフォームに問題はない。制御も崩れていない。ただ出力だけが下がっている。


「もう一度。今度は出力を意識して上げようとしてくれ」


 レオンが試した。少し上がったが、以前の水準には戻らなかった。


「もう一度。今度は何も考えずに、反射で出してくれ」


 試したが、ほぼ変わらなかった。

 技術的な問題ではない。意識して上げようとしても、反射で出そうとしても、結果が変わらない。これはフォームの問題でも制御の問題でもなく、出力の源になっているものの問題だ。


「感情状態と魔法出力が連動している。お前の場合、火属性は感情依存度が高い」

「知ってる。ガード先生にも言われた」

「今日の出力低下は、技術的な原因ではない。感情状態が影響している可能性が高い」

「感情依存って……じゃあ、今俺が落ち込んでるのが原因ってこと?」

「可能性が高い。何かあったのか」


 レオンが手元を見た。

 火魔法を収めて、両手を下ろした。少し間があった。話すかどうかを決めている間だ。


「家のことで、ちょっとな……言いたくない」

「わかった」


 ゼノはそれ以上聞かなかった。

 レオンが少し止まった。それからゼノを見た。


「お前って、無理に聞かないよな」

「不要な情報収集はしない」

「不要、か」

「問題の解決に直接必要でない情報を求めることは、レオンに余計な負荷をかける可能性がある。それは効率的でない」


 レオンが少し笑った。笑いというより、力が抜けた時の表情に近かった。


「……なんか、それが逆に楽だな」

「楽、とはどういう意味か」

「聞かれると、答えなきゃって思うじゃないか。聞かれないと、答えなくていいんだって思える。それだけで少し、マシになる」


 情報を求めないことが、相手の負荷を下げる。それは有用な知見だった。聞かないことが、場合によっては聞くことより相手に対して適切な作用をもたらす。


「レオンが火属性の魔法を使える状態に戻ることが目標だ」

「目標、ね。」

「感情の問題は俺には解決できない。家のことが何であれ、その感情をゼノが処理する手段がない。ただ、技術的なアプローチなら手伝える」

「技術的なアプローチって、今の状態で何ができるんだ」

「感情が出力に影響するなら、感情の影響を受けにくい発動の方法を探ることができる。感情に依存する部分を一時的に別の要素で補う方法があるかもしれない。試してみる価値はある」

「できるのか、そんなこと」

「分からない。ただ、技術的なアプローチから試してみることはできる。感情状態が改善するまで魔法を使わないより、今できることを探す方が合理的だ」

「……やってみるか」

「ああ。まず、発動の時に感情を介在させない意識で出してみてくれ。感情について考えないのではなく、発動の動作だけに集中すること」

「感情について考えないってどうやるんだ」

「考えないようにしようとすると、逆に意識する。動作だけを追うことで、感情を介在させる余地を減らす。フォームの確認、魔力の集め方、放出の方向。動作の手順だけを意識して発動する」


 レオンが試した。

 先ほどより少し上がった。完全には戻らなかったが、変化があった。


「出力が上がった。少しだが」

「動作への集中が、感情の影響を部分的に切り離せた可能性がある。完全な解決ではないが、一定の効果がある」

「完全じゃないけど、できるんだな。」

「感情が落ち着けば、出力も戻るはずだ。それまでの間、この方法で対応できる部分がある」


 レオンが何度か繰り返した。

 毎回、動作に集中することで出力が安定してきた。完全な水準には戻らなかったが、演習で使える程度には維持できるようになってきている。


 しばらくして、レオンが「休憩するか」と言った。

 訓練場の壁際に並んで座った。夕方の光が斜めに入っていた。


「……家のことって言っても、大したことじゃないんだよ」

「兄貴が帰省してたらしくて。手紙が来て。俺の魔法の話が少し書いてあってな。比べるような内容じゃなかったんだけど、なんか読んだら気持ちが落ちて」

「兄と比較することが、以前から続いているのか」

「ずっとそうだったな。兄貴は優秀で、俺は凡人で。学園に入る前からそういう感じだった。別に兄貴が悪いわけじゃないんだけど、なんか手紙を読むだけでそっちに引っ張られる」

「それが今日の出力低下に繋がったのか」

「たぶん。自分でも気づいてなかったけど、お前に言われて、あ、そうかって」



 気づいていなかった、という部分が引っかかった。感情と魔法が連動していることを、レオン自身は認識していなかった。ゼノが外部から観察して指摘することで、レオンが気づいた。


 セレンに言われた言葉が浮かんだ。セレンが川の流れを見て何かを感じるように、レオンも人を見て何かを感じているのかもしれない、という話ではなかったが似た構造があった気がした。


「……ゼノ」

「何だ」

「ありがとな」


 いつもの声と少し違った。軽い感謝ではなく、何かが含まれていた。魔法の指導に対する礼だけではない、という重さがあった。


「礼は不要だ」

「聞かなかったことへのありがとうも含まれてるぞ」

「……不要な情報収集をしなかっただけだ」

「それが俺には助かったから、ありがとうって言いたいんだよ。受け取れ」

「……わかった」

「それだけか」

「礼を受け取った」


 レオンが笑った。少し疲れた笑いだったが、本物だった。


「お前と話してると、なんか余計なことを考えなくていいんだよな。変だけど、楽なんだよ」

「変だが楽、という評価は矛盾しているな」

「しない。そういうもんだよ」


 夕方の光が、また少し傾いた。

 家のことが何かは分からなかった。兄との比較が何年続いているのかも、手紙に何が書いてあったのかも、聞かなかった。


 ただ、今日のレオンの笑いが、少し前のものと違うことはわかった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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