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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第27話 ライナスの夢

 昼食の後、少し時間が余った。


 レオンは午後の授業の準備があると言って先に教室に戻った。エリナとセレンは図書室に向かった。ゼノとライナスだけが食堂に残った形になった。


 ライナスが「もう少しここにいていいですか?」と言った。急いでいる様子ではない。何かを考えている顔だった。


「構わない」


 二人で食堂の端の席に座ったまま、しばらく沈黙が続いた。ライナスが水を飲んだ。外の光が少し傾いていた。


「ゼノさんって、卒業したらどうするつもりですか?」

「まだ決めていない。情報が足りない」

「そうなんですね」


 ライナスが少し意外そうな顔をした。


「何でも決まってそうなのに」

「先の計画は現在の情報量に依存する。一年後の状況が不確定な今、決定できる内容が限られる」

「合理的ですね。俺は逆で、決まってないから不安なんですよ」

「何が不安なんだ」

「それを、少し話してもいいですか?」

「話したいなら話せばいい」


 ライナスが少し間を置いた。

 何から話すかを整理しているのか、話すかどうかを迷っているのか、ゼノには判別できなかった。水のコップを両手で持って、少し下を向いた。


「……卒業したら、旅に出たいんです」

「旅か」

「冒険者になって、魔物の森を探索したい。いろんな場所に行って、いろんなものを見たい。ずっとそう思っていて」

「具体的な計画はあるのか」

「それが……あんまりなくて。なんとなく、そうしたいっていう気持ちだけで」


 少し止まった。


「でも、俺みたいな凡人には無理かなって。最近また思い始めてて」

「凡人の定義が曖昧だ」 

「え?」

「凡人、という言葉を使ったが、何と比較して凡人なのかが不明だ。評価対象と比較基準を明確にしてくれ」


 ライナスが少し固まった。それから「ゼノさんと比較してってことです」と言った。


「俺と比較する必要がない」

「でも、六属性の……」

「俺と比較することに何の意味がある。目的地が同じなら比較に意味があるかもしれない。だが俺の目標とライナスの目標が同じかどうかも、まだわかっていない」

「目標が違う、か」

「俺が何を目指しているかも今の時点では確定していない。ただ、ライナスが目指しているものはわかった。その目標に対して、俺の能力との比較は参照基準として不適切だ」


 ライナスが少し考えていた。


「じゃあ、何と比較すればいいんですか?」

「その目標を達成した人間と、その人間が持っていた能力を比較するのが合理的だ。魔物の森を探索した冒険者がどういう能力を持っていたか。ライナスの現在の能力がそれに対してどの位置にあるか。そこから判断する」

「……そういう考え方をするんですね」

「俺と比較することは参照基準として意味をなさない。ライナスはライナスの最適解を目指せばいい」


 ライナスがしばらく黙った。

 食堂に他の生徒が入ってきた。別のクラスの生徒が数人、奥の席に向かった。ここまでは声が届かない距離だった。


「ゼノさんって……変なところで励ましますよね」

「励ましているつもりはない。事実を述べた」

「そうなんですけど。でも、なんか励まされた気分になるんです」

「なぜそうなるのかのメカニズムがわからないな」

「俺もわからないですよ」


 ライナスが少し笑った。本物の笑いだった。


「ただゼノさんが言うと、ちゃんと聞こえる感じがして」

「ちゃんと聞こえる、とはどういう意味だ」

「うーん。ゼノさんって、嘘をつかないじゃないですか。励ますために言ってるんじゃなくて、本当にそう思ってることを言ってる感じがするから。だから入ってくるのかもしれないです」


 嘘をつかないから伝わる。レオンも似たようなことを言っていた。お前は正直だから話しやすいと。感情的な言葉ではなく、事実としての言葉が、感情的な反応を生む場合がある。


「事実の提示が感情的な反応を生む」


 内心で処理していたが、声に出ていた。


「え?」

「ライナスの反応を観察していた。事実を述べることが、励ますという感情的な行為と同じ効果を生む場合がある」

「観察されてたんですか。でも、それでいいですよ。ゼノさんに観察されてるなら」

「なぜそれがいいんだ」

「ゼノさんが観察してくれてるってことは、ちゃんと見てくれてるってことだから……それでも、嬉しいんですよ」


 ライナスが言った。


「何がだ」

「励ましじゃないって言っても、ゼノさんが言ってくれたこと。俺と比較する必要がない、お前の最適解を目指せばいい。そういうこと、他の人には言ってもらったことなくて」

「言ってもらえなかった理由があるのか。」

「比較しないでいいって言われると、なんかゼノさんにはゼノさんの戦い方があって、俺には俺のがあるって認めてもらえた気がして」


 認めてもらえた、という感覚。俺と比較することが無意味だと述べたことが、ライナスにとって認められたという感覚に繋がった。

 否定ではなく、別の方向を示したことで、ライナスの自己評価の基準が変化した可能性がある。


「……俺は事実を述べただけだが」

「わかってます。それでも、嬉しいんです。そういうもんじゃないですか」


 そういうもんじゃないですか、という言い方が、最近よく聞く気がする。ウェントスも使う言い方だった。


「旅の計画、立てるか」

「え?」

「今はまだ漠然としている。具体化すれば判断できることが増える。どの地域を探索したいのか、どういう魔物に関わりたいのか、必要な能力は何か。整理する価値がある」

「……ゼノさんが手伝ってくれるんですか?」

「俺も情報収集の観点から有用だ」


 ライナスが「そういう理由ですか」と笑った。


「そうだ」

「俺としては、一緒に旅したいなみたいな意味で受け取りますよ」


 ゼノは少し止まった。

 一緒に旅したい。パーティを組んで行動する、という選択肢は考えていなかったわけではない。ライナスの能力は、旅における有用性として評価できる。ただ、一緒にという感覚的な言い方への返答が出てこなかった。


「……一緒に行くかどうかは、今の時点では不確定だ」

「それ、否定じゃないですよね」

「否定していない」

「じゃあ、可能性はありますね」

「可能性は排除していない」


 ライナスが「それで十分です」と言って、立ち上がった。午後の授業の時間が近づいていた。


「話せてよかったです。なんか、整理できた気がします!」

「整理できたなら有用だった」

「あと、一個だけ。旅に出る時、ゼノさんが一緒なら、怖くないと思います!」


 ゼノは返答せず、ライナスが先に食堂を出た。


 一緒なら怖くない、という言葉が頭の中に残った。

 それがどういう意味を持つのか、処理しようとして、完全にはできなかった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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