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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第24話 模擬試験と序列

 結果の掲示は、午前中に行われた。


 廊下の掲示板に、筆記と実技の合計点による順位表が貼り出された。Bクラス全員の名前と点数が上から順に並んでいる。

 掲示板の前に生徒たちが集まって、自分の名前を探した。見つけた瞬間の反応がそれぞれに違った。声を上げる者、黙ったまま離れる者、隣の生徒と比べ始める者。


 ゼノは端から全体を確認した。

 一位、ゼノ・アルディス。二位との差は五点だった。

 それ以上の感慨はなかった。筆記は全問正解の想定通り。実技は六属性の切り替え演習で満点に近い評価を得た。

 二位はエリナだった。三位はセレン。

 エリナの順位が上がっていた。前回から比較すると、実技の点数が特に上がっている。先日の練習での技術改善が、評価に反映された形だ。


 レオンが掲示板から離れてきた。

 見なくても分かる顔だった。眉が下がり、口が一文字になっていた。悔しさの反応だ。ゼノの横を通りながら「くそ、一位取ってみたかった」と言った。


「俺が一位を譲る合理的な理由がない」

「そういうことを言うなよー!!」


 レオンが立ち止まり、振り返ってゼノを見た。怒っているわけではなかった。ただ、言葉に力があった。


「お前に勝ちたいとか、そういう話をしてるんじゃなくて、俺が悔しいって言いたいだけなんだよ。聞いてくれればいいんだよ」


 悔しいという感情の表明に対して、俺が一位を譲る合理的な理由がない、という返答は、内容として対応していなかった。レオンが求めていたのは悔しさへの受け取りだった。


「......悔しかったのか」

「そうだよ」

「分かった」

「それだけか!」

「......それ以外に何を言えばいい」

「なんかこう、次も頑張るとか、そういうやり取りがあるだろ」

「お前は頑張るのか」

「頑張るよ!!」

「ならいい」


 レオンが「お前はほんとに......」と言いながら歩き始めた。完全に怒っているわけでもなく、諦めたわけでもない、毎回同じ結末になる顔だった。


 ライナスが掲示板の前から離れてきた。

 こちらはレオンとは違う種類の表情だった。悔しさというより、落ち込んでいる顔だった。足が少し重そうだ。


「また真ん中か......」


 独り言のような声だった。ゼノには届いていた。

 ゼノはライナスの順位を確認していた。中位、という評価は正確だった。ただし、数字はそれだけを示していない。


「前回より実技の点数が上がっている」

「え?」

「前回の実技点数と比較して、今回は十一点上がっている。筆記は変わっていないが、実技の改善が全体の順位を押し上げている」

「......そうですか。」

「フォームの修正と、出力の安定が評価されたと思われる。技術的な改善が数値に出た」


 ライナスが掲示板の方を見た。それから「十一点上がったんですか」と言った。今度は少し違う声だった。さっきより明るかった。


「ああ」

「ゼノさん、そこまで見てたんですね」

「全員の点数を確認した」

「全員の......」


 ライナスが少し笑った。まだ複雑な顔だったが、さっきより表情が上向いていた。


「ありがとうございます。なんか、少し気が楽になりました。」


 昼食の時間になった。

 いつもの席で昼食をとっていた。最近はエリナとセレンも混じって五人で食べることが増えた。

 レオンが「七位か。次は五位以内に入る」と続けた。悔しさが前向きに変換されている。

 ライナスが「俺は次は筆記も上げます。実技が上がったって、ゼノさんが教えてくれたので。筆記もやります」

 エリナが「私は二位でした」と言った。少し嬉しそうだった。


「一位との差は五点だ」

「そうなんですね。どこで差がついたんですか?」

「筆記の第七問。俺は満点だったが、エリナは部分点だった。実技は差が小さい」

「そこまで把握してるんですか」

「掲示に点数の内訳があった」

「......ゼノさんって、ちゃんと見てるんですね、みんなのこと」

「確かに。お前、さっきライナスの点数も教えてたじゃないか」

「観察は基本だ。」

「......観察って言うところが、ゼノさんらしいですね」


 その言い方が、責めているわけでも、からかっているわけでもなかった。ただゼノという人間を観察した結果として述べている声だった。ゼノが人を観察するように、エリナもゼノを観察している、という気がした。


「ゼノさんらしい、というのはどういう意味だ」

「ゼノさんは見ていることを観察って言う。他の人が気にしてるとか、心配してる、って言うようなことを」

「観察の方が正確だ」

「そうなんですけど。でも観察って言いながら、ちゃんと意味のある部分を見てるじゃないですか。ライナスさんに点数のことを教えたのも、それが必要だと思ったからですよね」


 ゼノは少し止まった。


「......そうだ」

「それって、ただのデータ収集じゃないですよね」

「......判断している部分はある。何を伝えるべきかを」

「それを私は見てる、って言うんだと思います」


 レオンが「なんか深い話になってるな」と言った。

 ライナスが「ゼノさん、みんなのことちゃんと気にしてるんですよね」と照れているような声だった。


「気にしている、という感覚があるかどうかは分からない。データとして把握している」

「でも把握してるのはゼノさんだけですよ? 俺の点数が上がってること、他に言ってくれた人いないですから」


 ライナスの点数が上がっていることを伝えた理由を自分で考えた。データとして確認した。伝えることが有用だと判断した。判断の根拠は何だったか。

 ライナスが落ち込んでいた、ということが判断に影響していた気がする。落ち込んでいる状態を修正できるデータがあるなら、伝えることが合理的だという計算。だがその計算の起点に、ライナスの状態への何らかの反応があった。


「......伝える理由があったから伝えた」

「その理由って何ですか」

「ライナスが落ち込んでいた。そこに関係する情報があった」


 ライナスが少し黙った。それから「ありがとうございます」と言った。今日二度目の言葉だった。


 食事が終わって、午後の授業に向かう時間になった。

 エリナが席を立ちながら「今日は点数のこと、ありがとうございました」とゼノに言った。


「俺は何もしていない。エリナが上がったのはエリナの努力だ」

「でも、練習を見てくれたじゃないですか」

「技術的な問題を指摘しただけだ」

「それが助けてもらったことだと、私は思っています」


 ゼノは返答しなかった。

 エリナが先に歩き始め、レオンとライナスとセレンも続いた。


 ゼノは最後に席を立った。

 観察は基本だ、という言葉が頭の中に残っていた。エリナに「それがゼノさんらしい」と言われた。ゼノらしい、という評価が何を意味するのか、まだ完全には理解できていなかった。


 ただ、観察していることが、誰かに届いている、ということは、今日初めてはっきりと認識した。

 それが何に繋がるのかは、まだ分からない。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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