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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第21話 怒りの気配

 魔法実技の今日の課題は属性別の出力演習だった。


 ガード先生が「自分の属性を使って、制御しながら最大出力に近い状態を出す練習だ。力任せではなく、精度を保ったまま出力を上げることを意識しろ」と説明した。


 火属性の生徒から順番に行うことになった。

 レオンが最初に前に出た。

 両手を構えて、魔力を集める。少し時間をかけて、それから放った。炎が訓練場の前方に向かって伸びた。しっかりと制御されている。方向が定まっており、広がりすぎずに一定の幅を保っていた。


「レオン、先週より安定している。感情と出力のバランスが取れてきた」とガード先生が言った。

 レオンが「やった」と言いながら戻ってきた。ゼノの横を通る時に「どうだ」と聞いてきた。


「制御の精度が上がっている。先週の演習と比較して出力の揺れが減っていた」

「そっちじゃなくてもっとこう、すごいとか」

「すごいという評価基準が——」

「もういい行ってくる」


 別の火属性の生徒が続いた。それぞれが前に出て、それぞれの出力を見せた。強い者、精度が高い者、出力は低いが安定している者。ガード先生がそれぞれに短い評価を返した。


 ゼノの番が来た。

 火属性を使う時の感覚を確認した。六属性の中で、火属性だけが他と少し違う感覚がある。出力は出る。制御もできる。だが何かが他の属性と比べて安定しない部分があった。


 右手に魔力を集めた。熱が集まり、放つ。

 威力は高かった。他の生徒と比較しても、出力は上回っていた。ただ、炎の形が、レオンのものと質が違った。レオンの炎には方向性があり、意志のようなものがあった。ゼノの炎は出力はあるが、均一だった。制御されているが、それだけだった。

 ガード先生が「止め」と言った。


「ゼノ、威力は問題ない」

「ですが何かが足りないと言うことですか」


 ガード先生が少し目を細めた。


「またその話だな」

「以前に同じことを言われました。今日も同じ評価ですか」

「火属性については特にそれが出る。火属性は感情の燃料が必要だ。他の属性に比べて、感情との連動が強い。特に怒りと連動しやすい。レオンの炎に方向性があったのはそのせいだ。怒りというより、悔しさが混じっていたかもしれないが」


 後ろからレオンが「ばれてた」と言った。


「ゼノの炎には感情が乗っていない。だから威力はあるが、何かが欠けている」

「感情が乗った炎と乗っていない炎の違いは、出力以外にどこに現れますか」

「受けた相手の感じ方が違う。技術的な指標じゃない。だから具体的には言えないが、確かに違う」

「......分かりました」


 怒り、か。

 火属性が怒りと連動しやすい。ウェントスは覚醒の順番として喜びの次に何かが来ると言っていた。

 今日の演習で、火属性だけが他と違う感覚があるということを改めて確認した。

 怒りが燃料になるという表現が気になった。感情が魔法に乗る、いうことの具体的な形として、怒りが火属性に影響を与えているということか。他の属性も、それぞれ対応する感情があるのかもしれない。

 喜びが風属性に対応していた。それが覚醒に繋がった。


 では怒りは?

 ゼノは赤くなった椅子を思い浮かべた。薄暗い輪郭。一度だけ揺れた気がした夜。ウェントスが「来たがってる」と言いかけて止めた時のこと。

 怒りをまだゼノは体験していなかった。少なくとも、自分がそう認識できる形では。


 夜の円卓。

 ウェントスがいつもの席に座っていた。ゼノが来ると「今日の演習、見てたよ」と言った。


「見ていたのか」

「なんとなく。火属性の話、してたでしょ」

「ああ。火属性の出力が他の属性と比較して安定しない理由を考えている」

「それはね——」


 ウェントスが言いかけた、その瞬間だった。

 隣の椅子が動いた。今までとは違う動き方だ。かすかに揺れるという程度ではなかった。椅子全体が、はっきりと振動した。テーブルの上の空気が変わった気がした。何かがそこに近づいているという圧力があった。


 二人が同時に視線を向けた。

 椅子の表面に、輪郭が現れていた。

 人の形をした、薄い影のようなもので完全な形ではなかった。輪郭だけがそこにあって、中身はまだない。ただ、何かがいるという気配は確かにあった。


 ゼノは見ていた。

 輪郭がわずかに動いた気がした。こちらを向いたという感覚があった。

 それから、一瞬で消えた。赤い椅子がまた薄暗い影に戻った。


 円卓が静かになった。

 ウェントスが椅子を見ていた。視線が動かなかった。いつものウェントスより、少し表情が固かった。


「ウェントス」

「......うん」

「今のは何だ」


 ウェントスが少し間を置いた。それから「来たがってる、のかも」と言った。


「誰が」

「.......」


 ウェントスがゼノを見た。言おうかどうか考えている目だった。何かを知っていて、どこまで言うかを決めようとしている目だった。


「もう少ししたら分かるよ」

「それだけか」

「それだけ」

「来たがっているという表現を使ったが、来たくても来られない何かがあるのか」

「......条件があるのかもしれない。あの椅子の子が来るためには、何かが必要で。それがまだ揃っていないのかも」

「条件は何だ」

「それは——ゼノが自分で感じることだから、あたしが言うのは違う気がする」

「感じること、か」

「うん」


 来たがっているが来られない。条件が揃っていない。その条件がゼノの感情と関係している。そしてその人格は怒りと関係している可能性がある。


「一つだけ聞く。今日、火属性について話していた。それと関係があるか」

「......関係あるかもね」


 答えになっていないが、否定もしなかった。

 二人でしばらく赤くなった椅子を見ていた。何も起きず、静かなままだった。


「ウェントス」

「何?」

「あの輪郭、こっちを向いた気がした」

「......うん。向いてたと思う」

「何を見ていたんだ」

「ゼノを見てたんじゃないかな。あの子はずっと、ゼノのことを気にしてると思うから」

「なぜ」

「それは——来た時に聞いてみて」


 またその答えだった。

 来たがっている。輪郭だけがあって、まだ実体を持てない存在がそこにいる。ゼノに何かが起きるのを待っている。


 怒りという感情が、まだゼノには分からなかった。

 ただ、さっきの輪郭が頭に残った。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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