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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第15話 エリナの秘密

 訓練場に向かったのは、別の目的があった。


 個別評価テストで自分の魔法に何かが足りないという評価を受けて、ゼノは各属性の出力と精度を改めて確認したかった。技術的な問題がないとしても、何かを見落としている可能性があった。


 訓練場の入口に近づいた時、中に人がいることに気づいた。

 声は聞こえず、魔法の発動音だけ聞こえてきた。聖属性の光が、夕方の訓練場に散っていた。


 エリナだった。

 ゼノが入口の影から見ていると、エリナは中央に立って回復魔法を繰り返していた。


 その顔には笑顔がなかった。

 それが最初に目が入った。いつも作られた笑顔を維持しているエリナが、今は無表情だった。

 正確には、無表情というより別の表情だった。眉が寄っていて、口が一文字になっていた。


 必死な顔だった。

 魔法を発動する。確認する。また発動する。その繰り返し。うまくいかない部分があるのか、同じことを何度も試していた。独り言のように「違う、もう一回」と言う声が聞こえた。


 ゼノは観察を続けた。

 エリナの回復魔法は安定していた。ただ何かを基準にして、その基準に届いていないと判断しているらしい。自分で設定した目標か、あるいは外部から与えられた基準か。繰り返しの頻度と、届かない時の表情の変化から、後者の可能性が高い。

 外部から与えられた基準。ソーレルという家名が頭に浮かんだ。

 ゼノは訓練場に入った。足音を立てて入ったつもりだったが、エリナは気づかなかった。集中していた。


「エリナ」


 声をかけると、エリナが跳び上がるように振り返った。反射的に、一瞬で笑顔を作った。口角が上がり、目が細くなる。完璧な速度だった。


「ゼ、ゼノさん。いつからいたんですか」

「今来た」

「そうですか、びっくりした。えっと、何か用ですか?」

「また作っている」


 エリナが固まった。

 笑顔が止まった。止まったというより、維持するための力が抜けた。口角が下がり、目の細め方が消えた。残ったのは、さっきまでの必死な顔だった。

 それから、息を吐いた。諦めたような、でも少し楽になったような息の吐き方だった。


「......見てたんですね」

「入る前から少しだけ。魔法の発動音がしたから確認した」

「格好悪いところを、また」

「格好悪いとは思わないが、何を練習していたんだ」


 エリナが少し間を置いた。

 言うかどうか考えている時間だとゼノは判断した。強制する必要はない。ただ、聞いたことには答えが来るか来ないかのどちらかだ。


「......ソーレル家は代々聖属性の名家で」

「知っている」

「そうですよね」


 エリナが苦笑いした。作られた笑顔ではなく、困り顔に近い表情だった。


「私にも期待があって。回復魔法の精度を家が定めた水準まで上げることが、一つの目標で」

「今の精度では届いていないのか」

「届いていないです。具体的には、複数対象への同時回復と、回復速度の安定性が基準に満たないって言われていて。一年以内に達成しないといけないらしくて」


 複数対象への同時回復と、回復速度の安定性。技術的な課題として明確だった。


「努力の方向性が間違っている可能性がある」

「え?」

「今やっていた練習は、単一対象への回復だった。複数対象への同時回復を目標にするなら、単一対象を繰り返しても直接的な改善には繋がりにくい。俺が分析する」


 エリナが目を丸くした。


「え......いいんですか?」

「情報を集めれば最適解が出る。感情の問題ではない」


 エリナが何か言おうとして、止まった。それから「お願いします」と言った。


「まず単一対象で発動してみろ」


 エリナが魔力を集めた。手から金色の光が広がり、対象に向けて流れていく。ゼノは魔力の流れを追った。出力、方向、密度、維持時間。データとして記録した。


「次に複数対象を意識して発動してみろ」


発動する。光が出たが二つ目の対象に届く前に密度が落ちた。


「もう一度」


 また発動する。今度は少し出力を上げようとしたが、一つ目への精度が下がった。


「分かった。問題の所在が二つある」

「二つ」

「一つ目は魔力の分配方法だ。今は一点に集中させてから広げようとしているが、複数対象の場合は最初の段階で分岐させる必要がある。集めてから分けるのではなく、分けてから集める順序が必要だ」

「分けてから集める......」

「発動の前に対象の数だけ魔力の起点を用意する。それから同時に収束させる。やってみろ」


 エリナが試した。光が二点に分かれて立ち上がり、それぞれの対象に向かった。密度が落ちなかった。


「あ......できた」

「二つ目は回復速度の安定性だ。速度がばらつく原因は呼吸のリズムと魔力の放出タイミングが合っていないことだ。発動の瞬間に呼吸を止めている」

「止めてますか、私」

「無意識だ。集中すると呼吸が浅くなって、発動の直前に止まる。それで出力にムラが出る。呼吸を意識しながら発動してみろ」


 エリナは試した。今度は意識して呼吸を続けながら。すると光の安定度が上がった。


「......速度が安定してる。ゼノさん、どうして分かるんですか、こういうこと」

「観察すれば見える。感情的なアドバイスはできないが、技術的な問題の所在を特定することはできる」


 エリナが何度か繰り返した。

 発動のたびに、精度が上がっていった。複数対象への同時回復が、安定した形で出せるようになってきた。

 ゼノは観察しながら、細かい修正点を伝えた。起点の距離の調整、収束させるタイミング、呼吸のリズムの維持。どれも技術的な問題だった。どれも、観察すれば見えた。

 しばらくして、エリナが練習の手を止めた。


「......どうして」

「何だ」

「こんなに助けてくれるんですか」


 合理的な理由を探した。いくつかの仮説を立てた。エリナの魔法が向上することが将来的な戦力になる可能性。エリナの技術的な問題を解決することが授業の目的に沿っている。情報収集として有用だ。

 だがどれも、今日ここに来た本来の目的とは関係がなかった。訓練場に来たのは自分の魔法の確認のためだった。エリナがいたから声をかけた。技術的な問題が見えたから伝えた。

 その順序を振り返ると、合理的な理由が後付けにしかならなかった。


「合理的な理由を探しているが、まだ見つかっていない」


 ゼノは正直に言った。

 エリナが少し止まり、それから笑った。

 今度のは作られていなかった。口角の動きが自然で、目の奥と表情が一致していた。力が抜けた笑いでも、困った笑いでもなかった。ただ笑っていた。

 今まで見てきた中で、最も自然な笑顔だった。


「理由が分からなくても、助けてくれるんですね」

「......結果としてそうなっている」

「それで十分です」


 エリナがまた笑った。同じ笑顔だった。

 今まで見てきた中で最も自然な笑顔だと、もう一度確認した。

 その確認をしている自分が、何かをしているような気がした。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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