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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第14話 覚醒の存在

 その夜は、すぐに円卓に入った。

 寮の部屋に戻って、やるべきことを終えて、横になった後も目が覚めていた。考えていることがあった。うまく処理できていないことがいくつか残っている。

 意識を内側に向けた。


 円卓の広間は、いつも通りだった。

 天井のない白色の空間。七つの椅子を持つ石の円卓。ウェントスが自分の椅子に座って、今日は本を読んでいた。ゼノが来たことに気づいて、本を閉じた。


「来たね」

「話したいことがある」

「どうぞ、何?」


 ゼノは自分の席に座った。六つの空席が暗いまま並んでいる。今日も変わらない。


「最近、自分の魔法について考えている」

「どんなこと?」

「ガード先生に言われたことがある。俺の魔法には何かが足りない、と。魂とでも言うしかないと言っていた」

「うん」

「それが何かを考えている。六属性の魔法は使える。精度も出力も標準以上だ。だが何かが足りないと言われた。その何かが何なのかが、まだ分からない」


 ウェントスがゼノを見ていた。何かを言うかどうか迷っているような、そんな目だった。


「......ねえ、ゼノ」

「何だ」

「一つ、話していいかな。大事な話」

「聞く」


 ウェントスが足のぶらつかせ方を止めた。いつもと少し雰囲気が変わった。


「あたしたちってさ。ゼノが感情を理解した時に、一緒に強くなれるんだよ」

「感情の理解が魔法の強化に繋がる、ということか」

「そう。それを覚醒って言うの」

「覚醒」

「うん。今のゼノの魔法は、いわば土台だけがある状態。強いんだけど、何かが乗っていない。感情を理解した時に、その何かが乗る。それが覚醒」



 ガード先生の言葉が繋がった。魂とでも言うしかないという部分。魔法に何かが宿っていないという観察。それが感情と連動しているということか。


「メカニズムを説明してくれ。感情の理解がなぜ魔法の強化に繋がるのか。魔法は魔力の制御によって発動する。感情が介在する経路がわからない」


 ウェントスが少し困った顔をした。


「そんなこと聞くんだ......」

「説明できないのか」

「説明できる部分とできない部分があるの。あたしにも全部は分からないんだよね、正直。ただ魔法って、魔力の制御だけじゃないと思うんだ。力の源というか、何で動かすかみたいな部分が感情と繋がってる気がする。ゼノが感情を封じてるから、その部分が動いてない」

「封じている、という表現が気になる。俺は感情がないはずでは」

「ないんじゃなくて、封じてる」


 ウェントスがゼノを真剣な目で見た。


「あたしはずっとそう思ってる。ゼノには感情がある。ただ、それが出てこない状態になってるだけ」


 封じているのが自分だとしたら、なぜ封じたのか。その答えも、今の時点では出てこなかった。


「覚醒について、もう少し聞かせてくれ。どのタイミングで起きる」

「感情を頭じゃなくて心で分かった時。理解じゃなくて体験。そういう時に来る」

「最初に来る覚醒は何だ」

「最初は喜びだよ。ゼノが喜びを分かった時に、最初の覚醒が来る」

「喜びの定義を教えてくれ」


 ウェントスが少し止まった。

 それから笑った。いつもの笑い方ではなかった。困ったような、少し寂しいような、でも温かい笑い方だった。


「そう来ると思った」

「何がおかしい」

「おかしくないよ。ゼノらしいな、って思っただけ」


 ウェントスが視線を円卓の表面に落とした。石の模様を見るともなく見ながら、少し考えているようだった。

 ウェントスが何かを言おうとして、止めた。また考えて、また止めた。その繰り返しが数回あった。珍しかった。ウェントスはいつも言葉が早い。考えてから言う、という様子を見せることが少ない。


 円卓の広間は静かだった。五つの空席が暗く、ゼノとウェントスだけがいる空間で、時間がゆっくりと流れた。

 それからウェントスが、ゆっくりと顔を上げた。


「......ゼノが自分で分かった時が、本物だと思う」


 静かな声だった。


「あたしが言葉にしても、頭で理解するだけでしょ。喜びって何ですかって説明されても、ゼノはそれをデータとして記録するだけだと思う。そうじゃなくて、感じた時に分かるものだから」

「......合理的な答えではないな」

「そういうもんじゃないって、言ったじゃん」


 ウェントスが少し笑った。今度はいつもの明るさに近い笑いだった。


「喜びを定義で理解しても、覚醒には繋がらないってことか」

「そう。体験しないと意味がない。だからあたしには教えられない」

「では俺はどうすればいい」

「生きてれば来るよ、絶対に。ゼノはちゃんと生きてるから」

「......一つ確認したい。覚醒は感情ごとに起きるのか」

「うん。あたしが最初だよ。あたしは喜びを司ってるから、喜びの覚醒の時に一緒に強くなれる。楽しみだな、あたし」

「他の五人も、それぞれの覚醒があるということか」

「そう。でも今はまだあたしだけしかいないから、詳しくは来てから話した方がいいと思う」


 ゼノは五つの空席を見た。

 五つの覚醒。五つの感情。それぞれがいつ、どのような形で来るのか。今の時点では情報が足りなかった。


「順番はあるのか」

「ある。でも、それもゼノが自分で気づいた方がいいと思う。先に全部知ってても、頭で整理するだけになっちゃうから」

「俺が頭で整理することを警戒しているのか」

「警戒、じゃないけど......感情のことは、頭より先に体で来た方が本物になるから。ゼノが体で感じる前に頭が処理しようとしたら、本物になる前に整理されちゃうかもしれない。それがもったいない」


 頭の理解と体の理解が異なる。ゼノには頭の理解しかない。体の理解が何かは、まだ分からない。


「......非効率に思えるが」

「そういうもんだよ」


 ウェントスがまた足をぶらぶらさせ始めた。緊張が解けた動作だった。


「ゼノ、一個だけ覚えておいてほしいことがある」

「何だ」

「覚醒した時、魔法が変わるよ。ガード先生が言ってた、足りない何か。それが乗ってくる。強くなるだけじゃなくて、魔法の質が変わる。だから——楽しみにしててほしい。覚醒する日を」

「楽しみの定義が——」

「分かってる! でも言う!」


 ウェントスが笑った。今度ははっきりと明るい笑いだった。

 ゼノは少し黙ってから「......参考にする」と言った。


「それで十分!」


 それぞれの椅子が、六つの感情に対応している。それぞれの覚醒がある。順番がある。

 ただその順番も内容も、今夜は聞かなかった。

 ウェントスが言った通り、先に知ってしまうことで何かが変わるかもしれない。その可能性を、ゼノは排除しなかった。


「ウェントス」

「何?」

「最初の覚醒が来た時、どうなる」

「どうなるって?」

「俺の魔法が変わると言った。具体的にはどう変わるか」

「それは、来てからのお楽しみ!」

「非合理的だ」

「そういうもんだよ」


 ウェントスがまた同じ言葉を言った。

 ゼノは目を開けた。寮の天井が見えた。

 喜びを体で理解する。その日がいつ来るのかは分からない。ただ、今まで考えてこなかった問いが、今夜初めて頭の中に生まれた気がした。


 俺は喜ぶことができるのか。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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