第13話 ガード先生の試練
個別評価テストの日は、朝から訓練場の空気が違った。
通常の授業では生徒同士が組んで動くが、今日は一対一でガード先生と向かい合う形式だった。先生が相手というだけで、全体の緊張度が上がっていた。
廊下で他クラスの生徒と話していたレオンが「聞いたか、ガード先生と直接やり合うやつ」と言いながら戻ってきた顔が、少し青かった。
ガード先生が訓練場の中央に立って説明した。
「評価テストだ。一対一で俺と向かい合ってもらう。目的は攻撃することではなく、自分の魔法を最大限に使うことだ。俺を倒す必要はない。ただし手加減はしない。本気でかかってこい」
生徒たちがざわついた。
「出席番号順に呼ぶ。他は壁際で見ていろ」
最初の生徒が前に出た。
ゼノは壁際に立って観察した。
最初の生徒は火属性だった。ガード先生に向けて魔法を放つが、最小限の動きで回避する。生徒が追撃しようとしたところでガード先生が土属性で足元を固定して終了した。
「悪くない。ただ単調だ。同じ方向からしか攻めていない」
次の生徒は水属性だった。広範囲に魔法を展開しようとしたが、ガード先生が先に動いて接近戦に持ち込んだ。水属性は近距離が弱い。
「遠距離で優位を作ろうとしたのはいい判断だ。ただ距離を維持できなかった」
順番が進むごとに、生徒たちの緊張が増した。
ガード先生は淡々としていた。余裕があるというより、これが仕事だという動き方だ。感情的な起伏がない。それがかえって生徒たちには圧力になっているらしく、前に出るたびに表情が固くなっていった。
ライナスの番になった。
ライナスが前に出る時、足が少し震えていた。ガード先生と向かい合って、魔力を集める。風属性の気流を作ろうとするが、最初の一手で力が入りすぎた。フォームが崩れた。速度で翻弄しようとしたが、ガード先生に読まれて回り込まれた。
「悪くない速度だ。ただ、焦りが動きに出ている」
ライナスが戻ってきた時、ゼノの隣に立った。「ゼノさん、緊張しませんか」と小声で言った。
「緊張の定義が——」
「今はいいです」
ライナスが力なく笑った。
レオンの番だった。レオンは真っ直ぐ前に出て、火属性で攻めた。単調ではなかった。角度を変えて、タイミングをずらして、一点突破を狙った。
ガード先生が「いいぞ」と言いながら土属性で防御を展開した。一分近く続いたが、最後は防御を崩せずに終わった。
「攻撃の多様性がある。続けていれば伸びる」
レオンが戻ってくる顔は、悔しそうだったが満足そうでもあった。
「ゼノ・アルディス」
ゼノは壁際から前に出た。
訓練場の中央。ガード先生が向かい合って立っている。今日何度も繰り返したポジションで、疲弊している様子はない。ゼノを見る目が、他の生徒の時とわずかに違った気がした。期待なのか、警戒なのか。
「始め」
ゼノは動かなかった。
先にガード先生が動いた。土属性で地面を隆起させて足元を崩しにきた。ゼノは風属性で上に跳んで回避する。空中で火属性を右手に集めて、降下しながら放つが横に回避された。着地と同時にゼノは向きを変えていた。
水属性を展開した。広範囲に魔力を薄く広げて、教師の動きを把握する索敵として使う。
土属性で地面に手を当てて、先生の進路上に壁を作るが破壊された。
ゼノは後退しながら、右手に闇属性を集めた。精神への干渉ではなく、速度低下の状態異常を付与する。先生の動きが一瞬遅れた。その隙に風属性を足に纏って速度を上げ、横に抜けた。
先生が振り返った瞬間、ゼノはすでに後方にいた。
火属性と風属性を組み合わせた。風で火を増幅させながら、連射する形で放つ。先生が防御を展開する。ゼノはその防御の範囲を計算して、防御の端を狙った。
一発が先生の肩をかすめ、「止め」と言った。
訓練場が静かだった。
壁際で見ていた生徒たちが、誰も声を出していなかった。ゼノが中央に立ったまま、魔力を収めた。所要時間は二分を超えていて、他の生徒の倍以上だった。
ガード先生がゼノに近づいてきた。
表情がいつもと少し違った。平静ではあるが、何かが動いた後の顔だった。
「......強い。だがお前の魔法には、何かが足りない」
足りない、という評価。どの属性が足りないわけでも、精度が足りないわけでもないとすれば、何が足りないのか。
「威力も精度も申し分ない。六属性の切り替えも理に適っている。戦術的な判断も速い。ただ——」
ガード先生がゼノの目を見た。
「何かが欠けている」
「何が欠けているか、具体的に教えてください」
ガード先生がわずかに目を細めた。考えている目だった。答えを持っているが、言葉にするのに時間がかかっている様子だった。
数秒の沈黙があった。
「......魂、とでも言うしかないな」
「魂」
「お前の魔法は正確だ。最適解を選んでいる。無駄がない。ただ俺が受けていて、何かが来なかった。攻撃を受けた時、技術的な脅威は感じた。だが別の種類の何かがなかった」
「別の種類の何か、とは」
「そこが言葉にできないんだ。長く戦ってきて、相手の魔法から何かを感じることがある。怒りかもしれない、守りたいものへの必死さかもしれない、恐怖かもしれない。それが魔法に乗ってくる。技術の外側にあるものだ。お前の魔法にはそれがなかった」
技術の外側にあるもの。感情が魔法に乗るということ。昨夜ウェントスが言った言葉と繋がった。感情が封じられているから、魔法に何かが乗っていない。ガード先生が観察していたのは、その欠如だった。
「......勉強になります」
ガード先生が少し目を細めた。感心しているのか、別の何かなのか、判別できなかった。
「お前は素直じゃないが、正直だな」
「正直の方が効率的です」
「そういうところが魂がない、と俺には見える」
否定できなかった。
壁際に戻ると、レオンが「すごかったぞ」と言った。ライナスが「かっこよかったです!」と言った。ゼノはどちらにも答えなかった。
魂。技術の外側にあるもの。感情が魔法に乗ること。ウェントスが言った覚醒。全部が、同じ何かを指している気がした。
全部が、ゼノに今はないものを指している気がした。
残りの生徒の評価テストが続いた。ゼノは壁際で見ながら、今日初めて明確になった問いを処理していた。
俺の魔法に、魂を乗せることはできるのか。
今夜の円卓でウェントスに話すことが、また一つ増えた。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
次の更新をお楽しみに!
ではまた。




