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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
第一章

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第12話 レオンという存在

 レオンたちと昼食を一緒にとるようになって、一週間以上が経っていた。


 レオンが「明日一緒に食おう」と言ってから、気づけばそれが続いていた。ゼノが断る理由を見つけられなかったことと、レオンが毎回当たり前のように声をかけてきたことが重なった結果だった。ライナスも加わることが多く、三人で食堂の端の席をとる形が定着していた。


 今日はライナスが別の用事で来なかった。

 レオンとゼノの二人だった。

 食堂は昼時の喧騒に満ちていた。あちこちで声が上がり、笑い声が起きた。レオンは周囲の様子に特に気を取られる様子もなく、持ってきた食事を食べながら話しかけてきた。


「なあゼノ」

「何だ」

「お前って、友達いたことあるか?」


 食事の手が、わずかに遅くなった。

 友達という言葉が、何かに触れた気がした。触れた、という感覚が正確かどうかは判断できなかった。ただ、いつものように即座に処理できなかった。


 転生前の記憶は断片的だった。

 鮮明な場面があるわけではない。ただ人の気配がした。自分の隣に、誰かがいた記憶の輪郭があった。

 名前が出てこない。顔もはっきりしない。誰かがいたという感覚だけは薄く残っていた。

 それが友達だったのかどうかは、思い出せなかった。


「......いたはずだ。記憶が断片的で、詳細は分からない。ただ、誰かがいた気がする」

「気がする、って言い方するんだな。お前にしては曖昧な答えだ」

「曖昧なものは曖昧に答える方が正確だ」

「それはそうか」

「ああ」


 レオンがしばらく食事を続けた。何かを考えているのか、それとも特に考えていないのか。

 レオンは考えている時と考えていない時の顔が似ている。感情表現は豊かだが、思考状態の外部表現は意外と読みにくかった。


「俺はゼノのこと、友達だと思ってるけどな」


 食事の合間にそう言って、また箸を動かした。重大な宣言をしたような様子は全くなかった。

 友達だと思っている、という一方的な宣言。確認を求めるわけでも、同意を要求するわけでもなく、ただ自分の認識として述べた形だった。


「......そうか」

「なんか言えよ! そうか、って。お前、もうちょっとこう——何かあるだろ」

「何を言えばいい」

「それを人に聞くな!」

「......俺もそう思う、と言えばよかったか」

「思ってるのか?」


 ゼノは少し考えた。友達だと思う、という感覚が自分の中にあるかどうか。友達とは何かの定義が確定していない以上、自分がそう思っているかどうかも判断できなかった。


「......有用な関係だ」


 レオンが固まった。

 数秒、完全に動かなかった。それから「最悪の返し方だな!!」と言った。

 声が少し大きくなったので、近くの席の生徒が振り返った。レオンが「すまん」と周囲に謝りながら、ゼノに向き直った。


「有用な関係って。俺は人間なんだが」

「有用の意味を誤解している可能性がある。俺にとって有用とは、存在することに意味があるという評価だ。悪い意味ではない」

「じゃあいい言い方で言い直せよ!」

「......適切な言葉が見つからなかった」


 レオンが「はあ」とため息をついた。怒っているわけではなかった。呆れているわけでもなかった。どこか困ったような、でも笑いをこらえているような顔だった。


「お前ってさ、正直なのは分かるんだよ。嘘つかないし、思ってないことは言わない。だから有用って言葉が本当にそういう意味だってことも、まあ分かる」

「ならなぜ最悪と言った」

「気持ちの問題だ!」


 気持ちの問題。技術的に正確でも、感情的に適切でない表現がある。レオンが求めているのは精度ではなく、別の何かだ。


「......俺には、その別の何かを言葉にする方法がまだない」


 今度はゼノが正直に言った。

 レオンが少し止まった。それから「そっか」と言った。先ほどまでと少し声のトーンが変わった。


「まあ、いい。俺が勝手に友達だと思ってるだけでもいい。お前が有用な関係だと思ってるなら、俺にとってはそれで十分だ」


 食事の残りを食べながら、しばらく他愛のない話をした。

 レオンが次の魔法実技の授業の話をした。レオンが「お前と話してると何でも授業みたいになるな」と言った。ゼノが「授業でない会話の構造が分からないが」と言った。レオンが「それが問題なんだよ!」と言った。


 その繰り返しだった。

 レオンとの会話は、処理が追いつかない部分が多い。感情的な反応の速度が速く、話題の転換が予測しにくい。しかし不快ではなかった。処理できない部分があることが、不快ではなかった。


 夜の円卓。

 ウェントスがゼノの顔を見るなり「今日、レオンと二人だったんだね」と言った。


「どうして分かる」

「ゼノが考えてたから、なんとなく。どうだった?」

「情報量が多かった。処理しきれない部分が残っている」

「それって、楽しかったってことじゃないの」

「楽しいの定義の話を始めると怒るだろう」

「怒らないけど! 少しは分かってきたじゃん! ねえ、レオンって友達じゃないの?」

「......定義の整理が必要だ」


 ウェントスが笑うかと思ったが、笑わなかった。

 少し黙って、足のぶらつかせ方が止まった。それから「ゼノって、ほんとにそういう感じなんだね」と言った。

 声が普段と違った。からかいでも呆れでもなく、少し寂しそうな静かな声だった。


「どういう感じだ」

「定義が固まらないと、認められない感じ。確信が持てないと、言葉にできない感じ」

「......そうかもしれない」

「レオンは友達だって思ってくれてるんでしょ」

「そう言っていた」

「ゼノは?」

「......分からない。友達という概念が何かが確定していないから、自分がそう感じているかどうかも判断できない。ただ」

「ただ?」

「レオンがいなくなれば、何かが変わる気がする。どう変わるかは言葉できないが、変わる気がするということは、今、何かがあるということかもしれない」


 ウェントスが少し黙った。

 それから「それが友達ってことだと思う」と静かに言った。


「定義じゃなくて、いなくなったら変わるって感じることが、そういうことだよ」


 ゼノはその言葉を処理した。完全には理解できなかった。しかし今日レオンが言った「勝手に友達だと思ってるだけでもいい」という言葉と、ウェントスの言葉が、何かで繋がっている気がした。


「......保留だ」

「うん」


 ウェントスが足をまたぶらぶらさせ始めた。


「でも、だんだん近づいてるよ」

「何に」

「定義じゃなくて、感じることに」


 レオンがいなくなれば何かが変わる。

 その「何か」が何なのかは、まだ分からなかった。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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