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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

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114/116

第113話 また会う日まで

 王都での休息が終わった。

 王国への報告を済ませ、旅の許可証が手渡された。必要な支援の手配が確認された。

 全部が整い、次に向かう準備が来た。

 それが同時に、それぞれが動き始める日になった。


 朝に、全員で食事をとった。

 特別な食事ではなかった。いつもと同じ食堂で、いつもと同じように食べた。

 ただ、全員がわかっていた。今日が一緒に食べる最後の朝になるかもしれないことを。

 誰も言わなかった。

 食事をとりながら話した。レオンがいつも通り笑いながら食べていた。ライナスが少し静かだった。セレンがいつも通り食べていた。エリナが全員を見ていた。


 食事が終わった後、荷物の整理を始めた。

 宿の前に出ると、空が晴れていた。


「俺、一度実家に帰る」


 レオンが言った。


「実家に」

「兄貴に直接話す。手紙だけじゃなくて、直接会って話したい。旅で変わったことを、全部じゃなくていいけど、言いたいことがあってな」

「兄への手紙を書いていたな」

「書いた。でも、書いてから思った。やっぱり直接言いたいって。顔を見て言いたいって」

「それから、また冒険者に戻るのか」

「そうだな。実家に帰ってから、また動く。どこに行くかは決めていないけど」

「そうか」

「お前と旅できて、よかった。本当に」

「俺もだ」

「それだけか」

「それだけではない。ただ、まだ全部言語化できていない。よかったという評価は確実だ」

「十分だよ」

「……レオン」

「何だ」

「感情が燃料になることを、レオンから学んだ。俺の最初の例だった」

「また言ってくれたな」

「事実だから言った」

「……ありがとう。そういうことを言ってもらえると、実家に帰って話しやすくなる。俺が変わってきたことが、言葉として確認できた気がするからな」

「感情ないとか言ってたくせにか」


 ゼノがそう言うと、レオンが笑いながら言った。


「お前が一番感情豊かだったよ。今日まで来てみたら」

「感情豊か、か」

「豊かかどうかはわからないけど、本物だった。全部本物だった。怖かったって言えた時も、大切だって言えた時も。全部本物だった。それが一番だよ」


 レオンが手を伸ばした。

 手を差し出していた。握手の形だ。

 ゼノは少し迷った。

 迷ったという感覚が来た。どうするかを処理しようとした。

 手を伸ばし、握り返した。


 レオンの手が強かった。

 ゼノも握り返した。


「また会おうな」

「ああ」

「今度会う時、お前が笑えてたら最高だな」

「……努力する」

「努力するって言うとこが、ゼノだよ。変わらないとこもある。それがいい」

「ああ。……ライナス」


 ライナスが来た。少し目が潤んでいた。朝から来ていた潤みだった。


「ゼノさん」

「これからどこに向かうんだ」

「もう少し、冒険者として経験を積みます。いろんな場所に行って、いろんな戦闘を経験して、強くなりたいです」

「目的は強くなることか」

「それだけじゃないですけど、一つはそうです。それから——強くなったら、また一緒に旅したいです。ゼノさんたちと」

「待っている」


 ライナスが止まった。


「……ゼノさんに、待っているって言ってもらえるとは思いませんでした」

「なぜだ」

「学園の頃のゼノさんが、誰かを待っているって言う場面が、想像できなくて。でも言ってくれました」

「言えるようになったな」

「そうですよね。変わりましたよね」

「泣きそうな顔をしているが」

「泣きそうです。嬉しくて。待ってもらえると思ったら、また会いたいって気持ちが強くなって」

「また会う」

「はい。絶対に」

「ライナス」

「はい」

「信頼してくださいと言えた日から、今日までの変化を、俺は見てきた。記録していた」

「ゼノさんらしい」

「臆病だと言っていたライナスが、前に出られる理由を持つようになった。それが俺には一番の変化だった」

「ゼノさんに言ってもらえると、本物の変化だって思えますね」

「本物だ。俺は嘘をつかない」

「知っています。だから嬉しいんです……!」

「……セレン」


 セレンが来た。いつも通りの静かな顔だった。


「ゼノさん」

「次は何をするんだ」

「水の研究をしたいと思います」

「水の研究、か」

「はい。感覚を言語化しようとするのをやめたという話をしましたよね。でも、感覚でわかることを誰かに伝えたいとは思っています。言語化じゃなくて、感覚でわかる人に伝えることをしたくて」

「どういう意味だ」

「感覚を持っている人に、感覚を通して伝える。言葉じゃなくて、やってみせることで伝える。そういう方法があると思っています」

「感覚から感覚へ、か」

「そうです。それをやりたい。だから水の研究を続けながら、誰かに伝える方法を探します」

「……合理的だ」

「え?」

「セレンのやり方に合った目標だ。言語化しようとする方向ではなく、感覚のまま動く方向を選んだ。それはセレンらしい」

「ゼノさんに『セレンらしい』って言ってもらえるのが一番嬉しいです」


 セレンが笑った。

 静かな笑いだったが、嬉しさが出ていた。


「なぜ一番なんだ」

「ゼノさんって、観察してきたじゃないですか。全員を。だから、ゼノさんが『お前らしい』って言う時は、ちゃんと見てきた上で言っている。それが嬉しいんです」

「観察してきた」

「はい。記録していたんですよね。全員のことを」

「していた」

「それが嬉しかった。見てもらえていたから」

「セレン」

「はい」

「川を見ながら話した夜のことを覚えているか」

「覚えています。感覚の話をした日ですよね」

「あの夜、セレンの感覚が武器だと言った。それは今も変わらない」

「変わらないですよね」

「変わらない。どこに行っても、その武器は持っていける」

「……ありがとうございます。行ってきます」

「ああ」


 三人が動き始めた。

 レオンが荷物を背負って、「また会おう!」と手を振りながら歩き始めた。

 ライナスが「行ってきます!」と言って、振り返りながら歩いた。

 セレンが静かに頭を下げて、歩いていった。


 ゼノは三人の背中を見ていた。

 レオンの背中が遠くなった。大きな背中だった。感情が燃料になることを、最初に教えてくれた背中だった。

 ライナスの背中が遠くなった。小さく見えた。信頼してくださいと言いながら前に出た背中だった。

 セレンの背中が遠くなった。川を見ながら感覚の話をした、静かな背中だった。


「見送るって、こういう感じなんですね」


 エリナが隣に来た。


「……来たものがある」

「どんな感じですか?」

「整理できていない。ただ、来ている。悲しいとも違う。寂しいという感覚に近いかもしれない」

「寂しいって言えたんですね」

「言えたか」

「言えましたよ。寂しいに近いかもしれないって」

「来たから言えた。来たものを確認したら、言葉が来た」

「それが変化ですよ」

「……レオンが言っていた」

「何を言っていたんですか?」

「感情ないとか言っていたくせに、お前が一番感情豊かだったと」

「そう思います」

「同じ評価か」

「はい。本物だから豊かに見えると思います。計算で出した感情じゃなくて、来たものが出ているから」

「来たものが出ている」

「そうです。それが豊かということだと思います」

「……そうか」


 三人の背中が見えなくなった。

 王都の道の先に消えていった。

 ゼノはしばらくそこに立っていた。


「……ゼノさん」

「何だ」

「全員、また会えますよ」

「レオンが言っていた。また会おうと」

「会えます」

「根拠は」

「根拠はないですけど。でも、会えると思います。感覚です」

「セレンに影響されているのか」

「されていますね。感覚も大事だと思うようになりました」

「そうか……」

「ゼノさん、次はどこに行きますか?」

「決めていない」

「決めていないんですか?」

「どこにでも行ける。王国の許可が出た。急ぐ理由もない。今日は決めなくていい」

「そうですね」

「どこに行きたいか、エリナはあるか」

「どこでもいいですよ。ゼノさんと一緒なら」

「それが理由になるのか」

「なります。当然じゃないですか」

「当然、か。エリナが当然と言う時、俺にはまだ当然に感じられない場合がある。だが、そうかもしれないという感覚は来るようになってきた」

「少しずつですよ。急がなくていいです」


 三人が消えた方向を見た時、来たものがあった。

 寂しいに近い何かが来ていた。

 同時に、エリナがそばにいることで来るものがあった。

 悪くないでは足りない何かが来ていた。


「……行くか」

「どこにですか?」

「今日は街を歩く。次の場所を探す前に、今日がある」

「……そうですね。今日がありますよね」

「ああ」


 そう言って二人で歩き始めた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!


次回、最終話です!


ではまた!

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