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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

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113/134

第112話 エリナへの言葉

最終話まであと2話!

明日から20時の一本投稿にします!

 翌日の朝。

 ゼノが食堂で一人で地図を見ていると、エリナが来た。


「ゼノさん、今日の予定は?」

「特に決まっていない」

「じゃあ、散歩に行きませんか? 街の外れに川があって」

「川か」

「はい。昨日セレンさんが行ってたって聞いたので、私も行きたくて。ゼノさんも来ませんか」

「行く」


 街の外れに向かった。朝だったが、人が出ていた。市場が動き始め、食べ物の匂いがした。

 二人で並んで歩いた。どちらも話さなかった。それが不快ではなかった。並んで歩いていることが、それだけで何かがあった。


 川に着いた。

 昨日のセレンがいた場所だった。朝の光が水面に当たっていた。しばらく二人で川を見ていた。


「ゼノさん」

「何だ」

「昨日はよく眠れましたか?」

「眠れた。色々と落ち着いた」

「そうですか。よかったです」

「……昨日、笑った」


 エリナが振り返った。


「え?」

「初めて、笑えた気がした」

「笑ったんですか」

「今まで口角が上がることはあった。ただ、来たから出たのは昨日が初めてだった気がする」

「そうなんですね……見たかったです」


 声が残念だという声だった。


「見たかったのか」

「はい。ゼノさんの笑顔、見たかったです」

「見せる機会はある」

「え?」

「これからもある。昨日来たなら、また来る可能性がある」

「これから、もっと見せてもらえますか?」

「……努力する」

「努力するって言い方が、ゼノさんらしいですね」

「約束する、と言うと確定になる。来るかどうかが俺の意志で制御できない場合は、努力する、が正確だ」

「そうですね。でも、努力してくれるなら十分です」

「来た時には、エリナに見せる」

「ありがとうございます」


 川の音があった。

 二人で並んで川を見た。


「ゼノさんって、最初は怖かったんですよ。本当に」

「この前も聞いた」

「また言いたくなったので。聞いてもらえますか?」

「ああ」

「感情がなくて、何を考えているかわからなくて。最初に話しかけた時、無表情で、短い返答しか来なくて。怖いというより、どう接したらいいかわかりませんでした」

「以前も似たことを聞いた」

「はい。でも今日言いたいことが少し違うんです」

「……続けてくれ」

「怖かったけど、一番正直な人だって気づいてから、変わったんです」

「気づいた時期はいつだ」

「最初の頃ですよ。ペアの練習で一緒になって、腕の角度を直接指摘してくれた時。嘘をつかない人だって思って。それから、そばにいたいって思い始めました」

「嘘をつかないことが、そばにいたい理由になったのか」

「なりました。一番正直な人のそばにいると、私も正直でいられる気がして。作った笑顔をしなくていい、って思えて」

「俺がいることで、エリナが自分でいられた」

「そうです。一番そばにいたくなりました。学園の頃から、旅の間も、今も」

「今も変わらないのか」

「変わらないです」

「理由が増えたか、それとも最初の理由が続いているのか」

「両方です。最初の理由が続きながら、旅の中で理由が増えました」

「どんな理由が増えたんだ」

「ゼノさんが変わっていく様子を見てきたから。少しずつ感情が来ているのを見てきたから。昨日、笑ったと言ってくれたから」

「増え続けているのか」

「増え続けています。これからも増えると思います」

「俺は——エリナが笑う顔を、最初は観察対象として見ていた」

「知っています。観察してくれていたんですよね?」

「そうだ。感情を現象として観察できる相手だと思っていた。笑顔の種類が多く、変化が読みやすかった」

「今は?」

「今は——」


 ゼノは少し止まった。

 観察対象だった。その頃の自分がいた。エリナの笑顔を見て、データを取っていた。今はどうか。


「……見るたびに、何かが増える」

「何かが増える……」

「言語化が追いつかない。エリナが笑う顔を見た時に来るものが、増えている。どんな増え方をしているのかが、まだ正確に言えない」


 エリナが笑った。


「それで十分です」

「十分か」

「はい。言語化できなくても、何かが増えているってわかる。それが嬉しいです」

「十分なのか」

「十分ですよ。ゼノさんが何かが増えると言ってくれるなら、それが全部です」

「全部か。」

「全部です」

「……エリナが笑うと、俺も——何かが来る気がする」

「何かが来る、ですか」

「ああ。エリナが笑った時に来るものが、他の場面で来るものと違う気がする。どう違うかがまだわからない」

「それってどんな感じですか?」

「……悪くない、という言葉では足りない」

「足りない、ですか」

「悪くないの外側に何かがある。以前から感じていた。その外側が何かを、まだ正確に言えない」

「言えそうですか? いつか」

「わからない。ただ、言えるようになっていく気がする。言語化できることが増えてきた。この感覚も、いつか言語化できるかもしれない」

「見つかったら、教えてください」

「ああ」

「また約束しましたね」

「そうだな」

「ゼノさんって、約束を守る人だから。楽しみにしています」

「楽しみにする、という感覚がどういうものかはまだわかっていない。だが、俺も——何かを待っている感覚がある。言葉が来るのを待っている感覚が」

「一緒に待ちましょう」

「一緒に待つ、か」

「はい。私が待って、ゼノさんも言葉を探す。それが一緒に待つということだと思います」

「……そうだな」


 川の音が続いていた。水が流れていた。朝の光が上がっていた。


「ゼノさん」

「何だ」

「今日、来ていますか。何か」

「来ている」

「どんな何かですか?」

「整理できていない。悪くない、では足りない何かが来ている。川の音があって、エリナがそばにいて、来ている」

「それが何か、いつかわかりますよね」

「わかるかもしれない。まだわからない」

「わからなくていいですよ、今は。来ているなら、それで十分です。今日のところは」

「今日のところは、か」

「明日はまた増えるかもしれないからです」

「増えるかもしれないのか」

「増えると思います。ゼノさんは毎日少しずつ変わってきたから。明日も変わると思います」

「……エリナ」

「はい」

「昨日、笑えた。今日、言語化できない何かがある。この二日で来たことが、以前より多い」

「そうですね」

「旅の終わりに近いから来ているのか、終わったから来ているのかわからない」

「どちらでもいいと思います。来ていることが大事ですから」

「来ていることが大事か」

「はい。来ている間に言葉を探せばいい。急がなくていいですよ」

「急がないことを、覚えてきた」

「覚えてきましたね。旅の最初の頃は、すぐに答えを出そうとしていたから。今は待てるようになった」

「エリナに言われることで確認できる変化がある。外から見える方が正確だと、旅の途中で確認した」

「今もそうですよ。私から見えるゼノさんの変化が、たくさんあります」

「全部教えてくれるか。これらも」

「教えます。これからも」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


 その笑顔が来た。悪くない、という言葉では足りない何かが、また来た。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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