表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/116

第112話 エリナへの言葉

最終話まであと2話!

明日から20時の一本投稿にします!

 翌日の朝。

 ゼノが食堂で一人で地図を見ていると、エリナが来た。


「ゼノさん、今日の予定は?」

「特に決まっていない」

「じゃあ、散歩に行きませんか? 街の外れに川があって」

「川か」

「はい。昨日セレンさんが行ってたって聞いたので、私も行きたくて。ゼノさんも来ませんか」

「行く」


 街の外れに向かった。

 朝だったが、人が出ていた。市場が動き始め、食べ物の匂いがした。

 二人で並んで歩いた。

 どちらも話さなかった。それが不快ではなかった。並んで歩いていることが、それだけで何かがあった。


 川に着いた。

 昨日のセレンがいた場所だった。朝の光が水面に当たっていた。

 しばらく二人で川を見ていた。


「ゼノさん」

「何だ」

「昨日はよく眠れましたか?」

「眠れた。色々と落ち着いた」

「そうですか。よかったです」

「……昨日、笑った」


 エリナが振り返った。


「え?」

「初めて、笑えた気がした」

「笑ったんですか」

「今まで口角が上がることはあった。ただ、来たから出たのは昨日が初めてだった気がする」

「そうなんですね……見たかったです」


 エリナが言った。

 声が残念だという声だった。


「見たかったのか」

「はい。ゼノさんの笑顔、見たかったです」

「見せる機会はある」

「え?」

「これからもある。昨日来たなら、また来る可能性がある」

「これから、もっと見せてもらえますか?」

「……努力する」

「努力するって言い方が、ゼノさんらしいですね」

「約束する、と言うと確定になる。来るかどうかが俺の意志で制御できない場合は、努力する、が正確だ」

「そうですね。でも、努力してくれるなら十分です」

「来た時には、エリナに見せる」

「ありがとうございます」


 川の音があった。

 二人で並んで川を見た。


「ゼノさんって、最初は怖かったんですよ。本当に」

「この前も聞いた」

「また言いたくなったので。聞いてもらえますか?」

「ああ」

「感情がなくて、何を考えているかわからなくて。最初に話しかけた時、無表情で、短い返答しか来なくて。怖いというより、どう接したらいいかわかりませんでした」

「以前も似たことを聞いた」

「はい。でも今日言いたいことが少し違うんです」

「……続けてくれ」

「怖かったけど、一番正直な人だって気づいてから、変わったんです」

「気づいた時期はいつだ」

「最初の頃ですよ。ペアの練習で一緒になって、腕の角度を直接指摘してくれた時。嘘をつかない人だって思って。それから、そばにいたいって思い始めました」

「嘘をつかないことが、そばにいたい理由になったのか」

「なりました。一番正直な人のそばにいると、私も正直でいられる気がして。作った笑顔をしなくていい、って思えて」

「俺がいることで、エリナが自分でいられた」

「そうです。一番そばにいたくなりました。学園の頃から、旅の間も、今も」

「今も変わらないのか」

「変わらないです」

「理由が増えたか、それとも最初の理由が続いているのか」

「両方です。最初の理由が続きながら、旅の中で理由が増えました」

「どんな理由が増えたんだ」

「ゼノさんが変わっていく様子を見てきたから。少しずつ感情が来ているのを見てきたから。昨日、笑ったと言ってくれたから」

「増え続けているのか」

「増え続けています。これからも増えると思います」

「俺は——エリナが笑う顔を、最初は観察対象として見ていた」

「知っています。観察してくれていたんですよね?」

「そうだ。感情を現象として観察できる相手だと思っていた。笑顔の種類が多く、変化が読みやすかった」

「今は?」

「今は——」


 ゼノは少し止まった。

 観察対象だった。その頃の自分がいた。エリナの笑顔を見て、データを取っていた。

 今はどうか。


「……見るたびに、何かが増える」

「何かが増える……」

「言語化が追いつかない。エリナが笑う顔を見た時に来るものが、増えている。どんな増え方をしているのかが、まだ正確に言えない」


 エリナが笑った。


「それで十分です」

「十分か」

「はい。言語化できなくても、何かが増えているってわかる。それが嬉しいです」

「十分なのか」

「十分ですよ。ゼノさんが何かが増えると言ってくれるなら、それが全部です」

「全部か。」

「全部です」

「……エリナが笑うと、俺も——何かが来る気がする」

「何かが来る、ですか」

「ああ。エリナが笑った時に来るものが、他の場面で来るものと違う気がする。どう違うかがまだわからない」

「それってどんな感じですか?」

「……悪くない、という言葉では足りない」

「足りない、ですか」

「悪くないの外側に何かがある。以前から感じていた。その外側が何かを、まだ正確に言えない」

「言えそうですか? いつか」

「わからない。ただ、言えるようになっていく気がする。言語化できることが増えてきた。この感覚も、いつか言語化できるかもしれない」

「見つかったら、教えてください」

「ああ」

「また約束しましたね」

「そうだな」

「ゼノさんって、約束を守る人だから。楽しみにしています」

「楽しみにする、という感覚がどういうものかはまだわかっていない。だが、俺も——何かを待っている感覚がある。言葉が来るのを待っている感覚が」

「一緒に待ちましょう」

「一緒に待つ、か」

「はい。私が待って、ゼノさんも言葉を探す。それが一緒に待つということだと思います」

「……そうだな」


 川の音が続いていた。

 水が流れていた。朝の光が上がっていた。


「ゼノさん」

「何だ」

「今日、来ていますか。何か」

「来ている」

「どんな何かですか?」

「整理できていない。悪くない、では足りない何かが来ている。川の音があって、エリナがそばにいて、来ている」

「それが何か、いつかわかりますよね」

「わかるかもしれない。まだわからない」

「わからなくていいですよ、今は。来ているなら、それで十分です。今日のところは」

「今日のところは、か」

「明日はまた増えるかもしれないからです」

「増えるかもしれないのか」

「増えると思います。ゼノさんは毎日少しずつ変わってきたから。明日も変わると思います」

「……エリナ」

「はい」

「昨日、笑えた。今日、言語化できない何かがある。この二日で来たことが、以前より多い」

「そうですね」

「旅の終わりに近いから来ているのか、終わったから来ているのかわからない」

「どちらでもいいと思います。来ていることが大事ですから」

「来ていることが大事か」

「はい。来ている間に言葉を探せばいい。急がなくていいですよ」

「急がないことを、覚えてきた」

「覚えてきましたね。旅の最初の頃は、すぐに答えを出そうとしていたから。今は待てるようになった」

「エリナに言われることで確認できる変化がある。外から見える方が正確だと、旅の途中で確認した」

「今もそうですよ。私から見えるゼノさんの変化が、たくさんあります」

「全部教えてくれるか。これらも」

「教えます。これからも」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


 その笑顔が来た。

 悪くない、という言葉では足りない何かが、また来た。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ