第108話 帰還と謁見
王都に戻った。
城門を通った時、人が集まっていた。
討伐隊の帰還を待っていた人たち、家族を待っていた人たち、結果を待っていた人たちがいた。
魔王が消えたという報告は、先行して届いていたらしい。門の前に集まっていた人たちが、全員が生きて戻ってきたことを確認していた。
様々な声があった。泣いている声、笑っている声、名前を呼ぶ声があった。
ゼノたちはその中を歩いた。
ゼノたちは王城に向かった。
討伐隊の隊長と、パーティが代表として謁見することになっていた。
王城に入ると、魔王城の時とはまるで違った。ここには記録が刻まれていなかった。ただの廊下だった。
「ゼノさん、緊張しますか?」とライナスが小声で聞いてきた。
「緊張という感覚がどこにあるか確認中だ。何かは来ている」
「それが緊張ですよ」
「そうかもしれないな」
謁見の間に通されると、奥の椅子には王がいた。
五十代と思われる人物だった。装飾のある椅子に座っていて、周囲に側近がいた。
討伐隊の隊長が報告した。魔王の消滅。城の崩壊。全員生還。損害の状況。
王が頷きながら聞いていた。
「このたびの功績、誠にありがたい」
王が言った。
「討伐隊の皆に改めて礼を言う。その中でも——六属性の魔法使いとして、決定的な役割を果たしたと聞いている」
「パーティ全員と討伐隊の力が合わさった結果です」
「謙遜しなくていい。望みのものを与えよう。王国として、できる限りのことをする」
ゼノは少し間を置いた。
「一つだけ、よろしいでしょうか」
「言ってくれ」
「俺のパーティの全員に、自由な旅の許可と必要な支援を。どの国にも属さず、好きな場所に行ける許可と、その間の宿や物資の手配を王国が保証してくれれば、それで十分です」
そう言うと、王が少し止まった。
「……自分のためではないのか」
「自分のためでもあります」
「自分のためでもある、とはどういう意味だ」
「全員と一緒にいることが、俺の望みだ。全員が自由に動ける状態であることが、俺にとっての望みでもあります」
「全員のためが、自分のためにもなっているということか」
「はい」
「……聞いていた通り、変わった人物だな」
王が苦笑いした。側近も少し表情が動いた。
「変わっているとよく言われます」
「それはそうだろう。六属性を持つ存在が、自分への報酬を求めず、仲間の自由を望む。変わっていなければそうはならない。許可しよう。パーティ全員への旅の許可と、必要な支援を王国が保証する。詳細は後で担当者と詰めてくれ」
「感謝します」
「礼は受け取っておこう。変わった人物だが、今回のことは本当に助かった」
謁見が終わり、廊下を歩いた。
「全員の自由のために交渉したんですね」
「全員と一緒にいたかった。それが理由だ」
「どこにも縛られずに旅が続けられますね」
「そうだ」
「よかったです」
「ゼノさん」
エリナが来た。
「何だ。」
「自分のためって、どういう意味ですか? 王様に言っていましたよね。自分のためでもあるって」
「全員と一緒にいたい。だから全員の自由が、俺の自由だ」
「……ゼノさん」
「何だ」
「それって——」
エリナが言いかけたが、続きが来なかった。
「言語化した」
「え?」
「覚えているか。いつか言語化できたら聞かせると言った」
エリナが息を呑んだ。
「……はい。覚えています」
「旅に出る前の街で、朝、エリナと話した。俺にとってお前が何かを聞かれた。観察対象から始まった。今は言語化できないと言った」
「覚えています。いつか言語化できたら教えてくださいって」
「言語化した」
「どう言語化したんですか」
「俺は……エリナのそばにいたい。それが——俺の言語化の結果だ」
廊下が静かだった。
全員の足が止まっていて、誰も何も言わなかった。
「……私もです」
エリナが言った。
声が少し違った。いつものエリナの声より、小さかった。
「私もゼノさんのそばにいたい。ずっと、そう思っていました」
「ずっと、か」
「学園の頃から。最初に話しかけた時から」
「最初に話しかけた時から、そばにいたかったのか」
「そうです。理由はその時にはわからなかったですけど。今はわかります」
「今はわかるのか」
「はい」
「……目が潤んでいるのはなぜだ」
「なんでそういうことを聞くんですか」
エリナが潤んだ目で笑っていた。
「嬉しいからです。ゼノさんが言語化してくれたから。ずっと待っていたから」
「待っていたのか」
「はい。約束だったので。言語化できたら聞かせると言ってくれていたので。待っていました」
「……待たせたな」
「待ちましたよ。でも、よかったです。待った価値がありました」
「レオン」とゼノは呼んだ。
レオンが振り返った。
「見てたか」
「見てたぞ」
「どうだ」
「……おい。それだけ言うのか」
「何が」
「どうだ、じゃないだろ。感想を聞くなよ!」
「聞きたかった」
「聞くな!!」
「ゼノさんってほんとに……」とライナスが笑っていた。
「何だ」
「大事な場面でそういうことを言うんですね」
「大事な場面かどうかはわからなかった」
「大事でしたよ!!」
廊下が少し笑いに包まれた。
エリナが笑っていた。目が潤んだまま笑っていた。
レオンが「まったく……」と言いながら笑っていた。
ライナスが「よかったです、本当に」と言っていた。
セレンが静かに笑っていた。
ゼノはエリナを見た。
「言語化できた」
「はい」
「約束を守った」
「守ってくれましたね」
「遅かったか」
「遅くないです。今日で、よかったです」
「今日がよかった理由はあるのか」
「わかりません。でも、今日がよかった」
「感覚か」
「感覚です。でも、確かな感覚です」
「エリナ」
「はい」
「一緒に旅を続けてくれ。王国の許可が出た。行きたい場所に行ける。全員で行ける」
「行きます」
「即答だな」
「ゼノさんが行くなら、当然じゃないですか」
「当然、か。セレンが以前そう言っていた。当たり前だと。当然だと思えることが増えてきた」
「増えてきましたね」
「そうだな」
――お前のそばにいたい。
言えた、という事実が頭の中に残っていた。
言語化できたら聞かせるという約束が、今日果たせた。
エリナが「私もです。」と言った。
その言葉が、来たままにしていた。
それが今日の答えだ。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
次の更新をお楽しみに!
ではまた。




