第106話 城の崩壊と脱出
魔王が消えた瞬間から、城が変わった。
今まで魔法的に維持されていた構造が、その支えを失った。石の壁が軋み、天井が震え、床が揺れた。
崩れていくという感覚が城全体から来た。
「全員脱出しろ。今すぐ!」
ゼノは叫んだ。
広間の全員に向けて叫んだ。パーティに向けて。討伐隊の騎士に向けて。城内にいた全員に向けて。
「今すぐ動け。城が崩れる。速度を最大限に上げて出口に向かえ」
全員が動いた。
騎士たちが走り始め、怪我人を支えながら走った。気がつくと魔物が消えていた。魔王が消えたことで、統率を失った魔物たちが散っていた。攻撃してくるものがいなかった。
ただ、城が崩れていくだけだった。
天井から石が落ちてきて、壁が割れ、床に亀裂が入った。
光がなくなっていく場所があった。魔法的な照明が消えていった。
ゼノが最後尾に回った。
前を走る全員の後ろで、ゼノが動いた。
土属性を使い、崩れかけている天井を、魔法で一時的に支えた。全員が通り抜けるための時間を作った。全員が通ったら次の場所に移動し、また崩れかけている箇所を支えた。
廊下を走った。
右側の壁が崩れた。石が転がってきた。ゼノが土属性で弾いた。
天井の大きな石が落ちてきた。前を走っていた騎士の一人が、直前で止まった。ゼノが土属性で受けた。
「止まるな。動け」
「ありがとうございます!」
「ゼノさん、早く!」
前方からエリナの声が来た。
出口が見えていた。城の入口だ。光が入ってきていた。
全員が走っていた。ほぼ全員が出口を抜けていた。
「先に行け」
「一緒に出ます!」
「先に行けと言っている」
「先に行けません! ゼノさんが出るまで、ここにいます!」
「消耗している。足手まといになる」
「足手まといでも、一緒に出ます!」
天井が崩れた。
ゼノが土属性で支えた。六属性の覚醒の消耗が来ていた。
「走れ!」
「はい!」
エリナが走った。ゼノもすぐ後ろで走った。
土属性の支えが限界に来た。
城の天井が崩れ始めた。二人が出口に向かって全速力で走り、二人が城の外に出た。
城が完全に崩壊した。
出口が消え、城の壁が崩れた。巨大な石が積み重なっていた。
城が跡形もなくなるまでの音が続いた。
ゼノが膝をついた。
六属性同時覚醒の消耗が、一気に来た。
足が動かなかった。
「大丈夫ですか!!」
エリナが駆け寄ってきた。
「……問題ない」
「問題あります!!」
「動ける」
「動けなくなってから言ってます!!」
エリナが全力で回復魔法をかけ続けた。魔力が底をついていたはずだった。
「エリナ、魔力が——」
「まだあります!」
「底をつきかけていたはずだ」
「まだあります! ゼノさんのために使います! それだけです!」
「……わかった」
周囲を確認すると、全員がいた。
レオンたちが来た。
「ゼノ! 生きてるな!」
「生きている」
「よかった……!」
レオンの声が震えていた。
「……全員いるな」
全員を見回した。声が震えていた。泣きそうな声だった。レオンが泣きそうな顔をしているのを、ゼノは確認した。
「はい……!」
ライナスが言った。ライナスの目が潤んでいた。
「いますよね、全員」
「全員いる」
セレンが静かに目を閉じた。
何を感じているのかは、言葉にしなかった。
ただ、目を閉じた。その状態が、何かを言っていた。
ゼノは全員を見回した。
エリナが傍にいた。回復魔法を続けていた。
レオンがいた。声が震えていたが、立っていた。
ライナスがいた。目が潤んでいたが、立っていた。
セレンがいた。目を閉じていたが、立っていた。
討伐隊の騎士たちがいた。怪我人はいたが、全員が出ていた。
「……全員、生きて出た」
「全員生きて帰る。それが条件だったんだろ?」
「達成しましたよ、ゼノさん」
エリナが言った。回復魔法をかけながら言った。
「達成した」
「ゼノさんが言ったから、なりましたよ」
「俺が言ったから、ではない。全員が動いたからだ」
「そうですね。全員が動いていました」
「それが答えだ」
崩れた石が積み重なっていた。
何百年も存在した城が、今日終わった。
その中にいたものが、今日終わった。
「ゼノさん、今どんな気持ちですか?」
「複数来ている。整理できていない」
「全部来たままで、いいですよ」
「……そうだな。エリナ」
「はい」
「一緒に出てくれてよかった」
エリナが少し止まった。
「ゼノさん」
「先に行けと言ったのに、来てくれた」
「来ますよ。当然じゃないですか」
「当然、か」
「そうですよ。当然です」
空が赤く染まっていた。
城の中では見えなかった空が、今は全部見えた。
複数のものが来ていたものが、整理できていなかった。
だがそれでいい、とエリナが言った。
来たままにしていた。
全員がいた。
それだけが、今は確かなものだった。
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ではまた。




