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六属性を持つ最強転生者は、感情という魔法を知らない  作者: 猫眼鏡博士
最終章

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101/116

第100話 恐怖の臨界

遂に100話!

長かった!

 対話が続いていた。

 しかし、魔王が動いた。

 長い沈黙の後で、六属性が再展開された。今まで以上の規模だった。広間全体に魔力が充満した。


「本気を出す」

「わかった」

「話は終わりではない。ただし、手を抜く理由もない」

「同時にやれるなら、やる」


 魔王が本気を出し始めた。

 今まで経験した中で最も高い魔力の密度が、正面から来た。

 ゼノが対応した。蒼海抱擁の感知を全力で使った。流れが見えていた。受け流せる部分を受け流した。対応できない部分は直接防いだ。


「強い」

「当然だ。今まで手を抜いていたからな」

「手を抜いていたのか」

「お前と話したかった。壊すつもりではなかった」

「今は?」

「わからない。本気を出すことで、何かが変わるかもしれない。それを確認したい」


 大量の眷属が押し寄せてきた。

 魔王が召喚した。城内に潜んでいた眷属が、後方から一斉に動いた。


「エリナ、状態を教えてくれ」

「数が多いです!」

「魔力の残量は」

「……半分を切っています」

「半分、か」

「全力でかけ続けていたので」

「わかった。優先順位をつけてくれ。重傷者から。軽傷は後回しでいい」

「はい」


 後方の戦闘が激しくなった。

 レオンが叫んだ。ライナスが動く音がした。セレンが水属性を展開していた。

 各自の状態を確認した。消耗が来ていた。眷属の数が多かった。長期戦になれば、エリナの魔力が底をつく。


「エリナの魔力が底をつく前に決着をつける必要がある。ただ——」


 ただ、正面に魔王がいる。本気の魔王だ。決着をつけるための攻撃を入れようとすれば、後方への注意が薄くなる。後方への注意が薄くなれば、全員への負荷が増す。

 どちらかを選ぶしかない状況が近づいていた。


 その時だった。

 魔王の攻撃が、方向を変えた。

 ゼノに向かっていた攻撃が、後方に向いた。

 エリナに向かった。


 ゼノがエリナと魔王の間に入り、直撃を受けた。

 今まで経験したことのない規模だった。複数属性の複合攻撃だ。受け流す間もなかった。


「ゼノさん!!」


 立ち上がろうとしたが、動けなかった。


「……問題な——」


 声が出なかった。続きが来なかった。

 問題ない、と言おうとして、声がかすれた。


 エリナが来た。

 回復魔法が来た。ゼノの状態を確認していた。


「重傷です。骨に——」

「動ける」

「ゼノさん」

「動ける」

「でも——」

「動ける」


 三度言った。

 実際に動いた。立ち上がった。足が震えた。ただし、立った。


 その瞬間、意識の端で、円卓が見えた。

 今までと違い、最後の椅子が光っていた。

 黒い光だった。他の五人の覚醒とは違う種類の光だった。深かった。底が見えない光だった。


 人が現れた。

 黒い髪のショートカットで、黒い瞳だった。

 他の五人とは違う雰囲気があった。ウェントスの明るさでも、イグニスの強さでも、テラの穏やかさでも、ルミナの深さでも、アクアの静けさでもなかった。

 鋭かった。

 ゼノを見ていた。何かを見透かしている目だった。


「……ゼノ。今、何か感じてる?」

「……お前は」

「ボクはノクスだよ」

「……恐怖を司る人格」

「そうだよ。ボクが来るの、待ってたでしょ」

「来るとは思っていた。今日来るとは確信していなかったが」

「今日じゃなかったら、いつ来るの。ゼノ、今、怖いでしょ」

「怖い、か」

「確認しなくてもわかるよ。ボクにはわかる」

「わかるのか」

「ボクは恐怖を司ってるから。ゼノが怖いと感じた時に来る。今来たってことはそういうことだよ。」

「何が怖いんだ」

「自分でわかるでしょ」


 ノクスの声が鋭かった。


「エリナが傷つくかもしれない。全員が傷つくかもしれない。守れないかもしれない。それが怖い。今日一番強くそれが来た。だからボクが来た」

「それが恐怖か」

「そうだよ。守りたいものができた。だから失う怖さが来た。それが恐怖だよ。愛情が来てから、恐怖が来る。ルミナが先で、ボクが後。そういう順序だよ」

「……愛情が来たから、恐怖が来るのか」

「そう。恐怖は弱さじゃない。大切なものがある証拠だよ。恐怖を感じることができるのは、守りたいものがあるからね」

「ウェントスが似たことを言っていた」

「みんな本当のことを言ってるから、似るんだよ。ゼノ、一つだけ聞くよ」

「何だ」

「エリナが傷つくかもしれない。全員が傷つくかもしれない。その怖さを、今、受け取れるかどうか」

「受け取れるかどうかわからない」

「正直だね。でも、庇ったでしょ。計算なしで」

「ああ」

「それが受け取ってる状態だよ。怖さを感じながら、それでも動いた。それが恐怖を受け取った上で動くってことだよ」

「……覚醒が来るのか」

「来るか来ないかは、ゼノ次第だよ。それは強制できない。ボクは来たけど、覚醒するかどうかはゼノが決めることだよ」

「どうすれば覚醒するんだ」

「怖さを認めること。怖いと言えること。怖くても動くと決めること。それが全部来た時に、来るよ」

「今日、怖かったと言えた」

「そうだね。ライナスに言えたね。でも、今の怖さはもっと大きい。エリナが傷つくかもしれない。全員が帰れないかもしれない。魔王に負けるかもしれない。そっちの怖さが、まだある」

「ある」

「それを言えるか」

「……わかった」


 意識が戻った。

 エリナが傍にいた。回復魔法が来ていた。消耗が少し和らいだ。


「ゼノさん、大丈夫ですか」

「……大丈夫ではないかもしれない」


 エリナが止まった。


「今、初めてそう言いましたね」


 魔王が見ていた。

 ゼノが直撃を受けて立ち上がった場面を見ていた。声がかすれた場面を見ていた。それでも立った場面を見ていた。


「立ち上がるのか」

「まだ終わっていない」

「重傷だ。続けられるのか」

「わからないが心配無用だ。止まる理由もない」

「なぜだ」

「全員がまだいるから。全員がいる限り、止まらない」

「守りたいから、か」

「そうだ」

「その守りたいという感情が、今日お前に直撃を受けさせた。弱点だと言ったはずだ」

「弱点として機能した。だが――俺は立っている」


 魔王が少し動いた。


「庇ったのか、あの時。後衛を」

「ああ」

「計算したのか」

「していない。気づいたら動いていた」

「……」


 後方でレオンが「ゼノ、無理するな!」と叫んだ。


「問題ない」

「さっき声がかすれてたじゃないか!」

「回復した」

「回復してない顔してるぞ!!」

「動ける」

「動けるかどうかより……わかった。お前が動けると言うなら、動けるんだろ。後ろは俺たちに任せろ」

「頼む」


 ゼノは前を向いた。

 ノクスが来た。恐怖を司る人格が来た。

 怖さがあった。全員が傷つくかもしれない怖さが、来ていた。来たままにしていた。それでも動く。


「ノクス」


 内心で声をかけた。


「なに」

「来てくれてよかった」

「……ボクも、やっと来れた。最後だからね。ちゃんと来たかった」

「最後だ」

「うん。ゼノ、怖くても動けるよ。ボクが来たからね」

「……ああ」

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!

次の更新をお楽しみに!


ではまた。

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