1423 星暦559年 紫の月 1日 探索依頼(5)
長から別れた後、現在地からだと赤鼻酒場の方が近いのでまずはフルワースの事務所へ行くことにした。
ヤバい依頼でも受けると言う悪評の高い仲介人だが、ヤバい依頼と言うのは基本的に下町の外から来るので、事務所は港に比較的近い場所にある。
酒場で飲んだくれている連中を横目に、斜め後ろにあるフルワースの事務所に忍び込む。
2階の窓の鍵を魔術で動かして開け、そっと中に降り立つ。
この程度の鍵は針金でも簡単に開けられるのだが、魔術で出来ると更にお手軽で早いから助かる。
まあ、魔術師が泥棒に入っているなんてバレたら色々と不味いだろうが。
今回は国の依頼なんだし、どうせ俺が見える場所に人はいないようなので捕まる可能性はほぼない筈だけどね。
とは言え、万が一にも中で捕まって長なりウォレン爺なりに助けてもらう羽目になったら滅茶苦茶気まずいので、否視の術を自分に掛けておく。
この術も激しくあまり動きまわるとか音を立てると解けてしまうのだが、家探ししている程度の動きだったら大丈夫だろう。
突然家人が戻ってきた時なんかに、じっと動きを止めた際に目に留まらなくなるから便利そうなんだよな。
そう考えると、マジで魔術師って入っちゃいけないところに侵入するのに向いている。
王宮みたいに術の行使自体を制限している場所なら別だが。
魔術師はどうせ高給取りなのだから泥棒なんてアホなことはやらないと考えて、魔術院も金持ち層もあまり術による侵入・窃盗への対策はしていない様だ。
が、考えてみたら魔術学院の同級生だったイリスターナたちが以前違法に高い利率の借金でヤバくなっていたように、世間知らずな魔術師を嵌めるのはそれ程難しくはない。
適法利率の月率と年率の違いとか、魔術師への支援策とかを魔術院が頑張って魔術師全般に告知するようになったから最近は流石に借金詐欺に引っ掛かる魔術師は減っただろうが、他にも色々と嵌める手段はあるのだ。
そう考えると、『魔術師が泥棒になんて入る訳はない』と安心するのは不味い気もする。
とは言え。
肉体派な魔術師はあまり居ないから、屋敷に忍び込むのに失敗して入る前に発見される可能性は高そうだし、肉体派だったら嵌められて困った状況になったら軍に入ればいいんだしで……そこまで問題はないか?
まあ、俺の知ったこっちゃないな。
そんなことを考えながら、あちこちの部屋を調べているのだが……。
フルワースにとっては放火の依頼も特に珍しい案件ではないのか、普通にそこら辺に置いてある書類の依頼に放火とか暴行とか殺しを暗語で書いてある。この中からクラウン商会の依頼を探すのには時間が掛りそうだ。
と言うか。
態々暗語を使うなら、その一覧表を一番上の引き出しの中にそのまま入れておくなよ……。
う~ん、帳簿に掛かれている依頼の詳細よりも、出来れば手紙か何かで依頼の詳細が書いてある物がある方が良いんだよな。
とは言え、流石に手紙で『ライバル商会の倉庫を焼け』と赤裸々に書きはしないだろうが。
それでも、こういうヤバい仲介人って言うのは自分たちが切り捨てられないように、相手のヤバい証拠をいざと言う時の脅しなり交渉の手段の為に取っておくことが多いんだが。
そう言うのは流石にそこら辺の棚には入っていないか?
だとしたら、そっちを探すのが正解かな。
という事で、隠し金庫か何かを探そうともう一度じっくり建物を心眼で下から念入りに調べる。
地下室に……隠し金庫があるな。
中身に金属が多いようだから、これは隠し財産系か。
そのまま地下室から棚を避けた裏に細い穴の様な通路があって、敷地の隅にあるゴミ捨て場の裏に出られるようになっているから、襲撃を受けたら地下室の隠し金庫の中身を持って逃げる予定なのだろう。
あれは盗んでも特にいいことは無いので後回しだ。
流石に1階の奥からではよくは視えないがちょっとは書類も入っている感じなので、他で見つからなかったらあそこを漁ろう。
フルワースがやっているヤバい仕事はダクラウン商会だけじゃない筈だから、もっと沢山書類を隠してあると思うんだが……もしかしてここじゃなくて別の所に隠してあるのか?
そんなことを考えながら、じっくり順番に各部屋の隠し場所を探していたら、部屋ではなく、階段の途中に段の下へ収納できる空間があり、書類がぎっしり詰まっているのが視えた。
部屋ではなく、廊下でもなく、階段ねぇ。
上り下りの際に踏んだ足音の響きが変わりそうな気もするが、二階に着く一つ前の段だから、音が違ってもそんなものだと見過ごす想定なのかな?
さて。
ぎっしり詰まった書類のどれがダクラウン商会関係なのか、探すのが大変そうだ。
探した挙句、この中に無かったらちょっと暴れるぞ~……。




