1422 星暦559年 紫の月 1日 探索依頼(4)
「ダクラウン商会ね。
倉庫街とは言え、下町に近い区画で何度か放火されて、それなりに迷惑だった。
やっと国が本腰をあげて放火犯やそれの依頼者を捕まえてくれるのか」
長が満足そうに頷いた。
そうなんだよな~。
基本的に倉庫街って港の傍か、下町寄りな場所にあることが多い。
つまりそこで大火事になったら下町へ燃え広がる可能性が高いのだ。
そこまで大火事にならなくても、そうならないように隣接した家を壊すぐらいはしないと危険だし。
どうせやるなら商業ギルドの傍にある本店に放火でもやり合えよと言いたい。
それで火が広まって商業ギルドや他の商会の本店に火が付いたら、みんなもっと真面目に放火なんて手段を使う様な輩を排斥しようとするだろう。
まあ、そんなヤバい場所で放火なんてしたらほぼ確実に誰かの首が物理的に飛ぶから、仲介人も依頼を受けない可能性が高いが。
「元々、ダクラウン商会の前代と前々代がよく使っていた仲介人はこいつだ。
当代がどのくらいそいつに依頼を出しているかは知らんがな。
アホな依頼でも受けるような仲介人として有名なのはこちらとこちらだな。最近になって老舗との伝手が出来たと自慢していたという噂だ。
とは言え、放火を繰り返すなんていう依頼をずっと受け続けているかは不明だが」
さらさらっと三つほど名前を紙に書いて、長がピッと指でそれを持ち上げた。
「金貨3枚で」
「10枚だな。お国の仕事ってことで経費が出るんだろう?」
「国に売っていいなら金貨20枚出しますけど?」
「ふむ。売らないなら5枚で手を打とう」
という事で、ウォレン爺が言った通りの値段で交渉が終結。
金貨5枚を渡して、名前の書いてある紙を受け取った。
昔からの仲介人というのは下町で良く知られるエルスースという業者だった。
ここは基本的に、単に下町に住んでいるだけで悪事とは関係ない仕事を探している人間を紹介してくれる仲介人だ。
無職で金に困っている下町の人間をいい感じに使う事で、人件費を安く切り下げて利益を大きくしていたダクラウン商会の前々代が良く使っていたというのも頷ける。
そういえば、前代に変わってからはあまり下町の人間を使わなくなったとも聞いたな。
堅実にやるならちょっとヤバい人員が混じるかも知れない下町の人間なんぞ使わないのだろう。
その点、前々代は自分と自分が選んだ仲介人の人を見る目を信じて動いていたんだろうなぁ。
で、当代に関しては信頼しちゃいけない人間を信頼して助言を受けているのか、もしくは本人がどうしようもなく無能で考え足らずなのかなんだろう。
そんでもってアホな依頼を受けるような仲介人はフルワースとイデオッタ。
フルワースは聞いたことがないが、イデオッタは俺が下町に聞いたことがある気がしないでもない。その頃は吹けば飛ぶような小さな家族経営の業者だった筈。
放火をやるような何でもありな仲介人であるという話はなかったと思うが、10年以上前の話だから、方針変更があったんだろうなぁ。
今回の調査でとばっちりを喰らって潰される可能性が高いが。
「放火に関連する依頼を受けていたなら、仲介人も潰される可能性が高いと思うぞ?」
直接仲介人の名前をウォレン爺に言わないにしても、証拠を差し出したら名前が出ている人間が共犯として捕まるのだ。
そうなったら芋蔓的に他の違法行為の仲介も調査でバレるだろう。
「国が腰を上げて出てくるようなヤバい案件に関わるアホはどうせ長生きしないさ。
実際に証拠が出てくる規模でずぶずぶだったんならしょうがない」
長がワインをグラスに注ぎながら応じた。
「エルスースは前と同じところに拠点を構えているんですか?
あと、フルワースとイデオッタの場所も教えてもらえると嬉しいですね」
仲介人なのだ。
そこら辺の暇そうな人間に聞けば教えてもらえるが、どうせならここで教わった方が二度手間を省ける。
「……エルスースは動いていないな。
フルワースは西の赤鼻酒場の斜め後ろ、イデオッタは熊の蜂蜜の通りにある」
ワインの味が良かったのか、一口飲んだ長があっさり答えてくれた。
流石ウォレン爺の土産。
こうもあっさり教えてくれるとは有り難い。
もしかして、あのワインを売ったら金貨5枚よりも高くなったのかも?
まあ、ウォレン爺に渡された酒を売るなんて怖くてやるつもりはないが。
「どうも」
長に礼を言って出て行く。
さて。
次は家探しかな。
色々と過去の情報も参考にはなるのかも?




