1421 星暦559年 紫の月 1日 探索依頼(3)
ウォレン爺とアレクの交渉の結果、俺はそれなりな報酬と経費枠を貰うことになり、アレクとシャルロは火事警報用魔具の下町への大量供給に必要な仕組みづくり及び補助金の対価として住民にやらせる火事対策として出来ることなどに関してちょっと調べることになった。
売り上げに比例してある程度の収益が入る火事警報用魔具の大量供給はまだしも、火事対策として下町でその他に出来ることの調査なんて俺たちの工房に利益は全くないが、まあ火事警報用魔具を導入したのに結局大火事になったなんて事態になったら俺たちの魔具に対する風評被害が起きるかもだからな。
火事警報用魔具が完璧に火事を止められる訳ではないのは既に分かっている事だし。
足りない分を補う為にも、金を出さなくても出来る対策を補助金を出す代わりにやれと国が命じるのも良いことだろう。
例えば倉庫や家の外に捨ててあるゴミなんかも、ちゃんと決まった場所に集めて運び出しておけば放火しにくくなる。
流石に港の税関待ち区画の倉庫で放火する人間はいないと思うが、あそこで見たような感じに倉庫の外に古い壊れた木箱を積み上がっているのは他の倉庫街でもよく見る光景だ。
殆どの倉庫や店舗の裏や脇には壊れた木箱や棚なんかが無造作に捨ててあることが多いのだ。
個人の家にしたって、それに近い。
まあ、下町の住居の場合は少なくとも毎年冬になったら燃えるような物は全て家の中の暖を取るための燃料として拾われるので、冬になったら奇麗さっぱり消えるが。
それはさておき。
夜になったので俺は長を探しに下町に出てきた。
ヤバい嫌がらせやそれよりも更に危険な違法行為は盗賊ギルドでは手を出さない。
盗みに入る時だって中の住民に出くわして危害を加えると、単なる盗難よりも捜査が大幅に厳しく、執拗になる。なので住民に出くわしたらたとえ依頼が失敗になるとしても、即座に逃げろと盗賊ギルドでは下っ端からベテランまで、徹底して言い聞かせている。
貴族や豪商をうっかり殺した一人の盗賊のせいで、すべての盗賊への捜査が大幅に真剣度が上がって見て見ぬふりをしてくれる可能性もぐっと下がったりしては、ギルドとしても迷惑なのだ。
だからどうしても『うっかり』と言う程度の間違いで一度やってしまったぐらいなら大目に見るが、繰り返し忍び込んだ先で『うっかり』住民を殺す盗賊はそのうちギルドから処分される。
なので怪しい仕事の仲介人なんて言うのは盗賊ギルドと直接仕事をすることなどないが、まあ裏の世界の話だ。
誰が誰と何をやっているかと言う情報はいつの間にか集まっているので、長に聞けばある程度教えてもらえるだろう。
裏社会にとって都合がいい仲介人の名前は抜けているかもだが。
と言うか、今回は仲介人自体ではなく、依頼をした老舗の商会を処分する証拠さえ手に入ればいいので、話が分かる仲介人だったら紹介してもらえるかも?
まあ、仲介人と話し合って証拠を貰うよりも、こっそり忍び込んで資料を見るなり貰うなりで済ませたいが。
俺の顔を裏社会で売るつもりはない。
仲介人なんぞに顔を売ったら、そのうち俺の情報まで売られる可能性が高い。
という事で。
何軒か酒場や倉庫を回り、長が居る場所を見つけて忍び込む。
「こんにちは~。
今日はちょっと仲介人の情報を買いたいんですが」
お土産代わりのワインの瓶を差し出しながら長に声を掛ける。
ウォレン爺から入手したワインなので、そこそこいい物……かも?
俺は酒はあまり飲まないからよく知らんが。
「ほう?」
ワインのラベルを確認してから栓抜きを取りだした長が首を小さく傾げて聞き返してきた。
「なんかダクラウン商会が落ち目になってきて、慌ててダルム商会相手になりふり構わぬ嫌がらせをするようになって明らかに違法行為を犯すようになったから、国がそろそろ腰を上げるつもりらしくって。
ただ、国だとどうしても動きが鈍いし情報が漏れやすいしで、折角動いても商会の分家の人間何人か程度しか捕まらないんじゃ困るでしょう?
という事で捜査を始めたって情報が流れて証拠を消される前に、さっさと大きな証拠を集めて押さえておく依頼を受ける羽目になってね。
ヤバいことを外注した先を見つけようと思ったら仲介人を抑えないとだし」
名前を聞いてみたら、ダクラウン商会と言えば前々代がやり手で、大儲けした上に中々良い美術品や宝石を集めたから俺も何度か仕事にお邪魔したことがあった。
前代はそこまで美術品や宝飾品に興味が無かったからか、換金価値と金を隠すためとしての宝石しか買わなかったからあまり面白い物は買わなかった。盗賊ギルドに依頼が来るようないい物は前々代が買い集めた物だった。
俺が魔術院に入った後にいつの間にか世代交代があって、面白みはなかったが堅実だった前代から、単なる無能な当代に変わったらしく。ダクラウン商会はゆっくりと没落への歩みを進めているとアレクに教わって、初めて何度か話に出てきた『老舗な商会』がどこだったか知ったのだが。
ちょっと残念だ。
前々代の宝石なんかには本当に凄いのもあったんだがなぁ。
死ぬ前には時々絵を売って宝飾品を買うなんてこともやっていたから、ギルドでも色々と話題になったし。
まあ、今となってはそんな逸品がどれだけ残っているのか知らんが。
裏社会の人間を雇う為に捨て値で売られていたら勿体ないなぁ。
どうせなら、後生大事に持っていたのが国に没収されてオークションででも売られて、下町の為の資金になればいいんだが。
興味を持たれているかは問題……




