1419 星暦559年 紫の月 1日 探索依頼
「火事探知と消火用の魔具は実際に一部顧客に先行販売してみて何か改善要求が出てこない限りあれで良いとして、次は何を開発しようか」
休息日の後、いつものように朝食後に工房でお茶を飲みながら次の開発に関して話し合おうと、アレクが黒板に色々書いてあった今までのメモを消しながら言った。
「そうだ、ウォレン叔父さんがちょっとウィルに頼みごとしたいって言ってたんだけど。
今日の午後ぐらいにこっちにお邪魔してもいい~?って聞いてきたんだった」
シャルロが手をあげて、ちょっと申し訳なさそうに言う。
「げげ~。
また国から何か頼み事かよ。
税務調査やら麻薬組織を潰すのとやら手伝ったんだから、今年はもういいじゃんか~」
思わず愚痴をこぼす。
「……まあ、国として重要な何かに対処するための協力依頼なんだろう。
対価を貰うついでに、下町でせめて火事探知の警報を区画単位で導入する補助金を出してもらえないか、国に提案するのを後押ししてもらうのでどうだ?」
ちょっと腹黒く笑いながらアレクが言った。
確かに?
どうせ手伝うのを断ってもしつこく付きまとわれるのだ。
だったらさっさと手伝いをやって、代わりの見返りに金だけじゃなくって口利きも頼んでもいいかも?
「まあ、それはそれでいいが、一気に下町に火事警報の魔具を導入する事になっても製造が間に合うのか?」
幾ら作りが単純だとは言え、それなりに精度は必要なのだからどこの工房でも作れる訳じゃないから製造数には限界があるだろう。
「補助金なんて、話をまず流して、合意を得て、補助金の予算をどこかからひねり出して、横やりを入れようとする連中を叩き落としてってやるのに1年かそこらは余裕で掛かるんだ。
今から話し合いを始めたとしても実際に購入が行われるまでに十分製造体勢を揃えられるだろう。
というか、実際に予算が出るかどうかをウォレン氏が確約できるかの方が重要だな」
アレクがちょっと眉を顰めながら言った。
確かに、1年後にガンガン売れると思って在庫を積み上げたのに、結局話が潰れたなんてことになったら大問題だろう。
シェフィート商会だったらそれで潰れたりはしないだろうが、色々と経営計画に支障がでそうだ。
「まあ、聞いてみようよ。
ウォレン叔父さんが出来ると言ったことで実現しなかったことって殆どないから、出来るか出来ないかをはっきり返事が貰えたらそれでいいし、何とも言えないと言われたらちょっと考えないとだね~」
シャルロが肩を竦めながら言った。
まあ、報酬が入るだけでも今までだって協力してきたんだしな。
◆◆◆◆
「ちょっと商業ギルドの老舗商会が最近、色々と目に余る行動をしているのでの。
状況的にも変化が起きてきたから今までの膿も吐き出そうと王宮の方でも計画しているのじゃが、動く前に証拠を消されてしまっては困る。
だから証拠を前もって集めて確認するのを頼みたい」
昼食後に現れたウォレン爺が、お茶を飲みながらのんびりと言ってきた。
おや~?
なんか微妙に聞いたことがあるような状況の話じゃないか?
弱くなってきたからついでに潰すのか、それとも弱くなってきて悪足掻きをする際に色々と目に余る行動をし始めたから潰されるのか。
微妙な感じがするな。
まあ、業界最大として黙っていても旨い汁を吸えた間は極端にヤバい違法行為はしなくても済んだんだろう。
それがその美味しい地位から蹴り落されそうになったから形振り構わず違法行為をしてでも妨害しようと動き始めたせいで、今までのみみっちい不正も合わせて徹底的に潰される羽目になりそうなのかな?
商会に有終の美を飾れとまでは言わんが、負けないように頑張る知恵と資金力がないなら、せめて後から追撃されるような情報を残さないように身ぎれいにしておけばよかったのに、アホだよなぁ。
まあ、それはともかく。
「実は、最近になって火事を探知して警報を鳴らす魔具を開発したんですが、それを下町の家に区画ごとで全部設置したらあちらでの大々的な大火事の危険性を下げられると思いませんか?
一般の職人や商人層にも売り込む予定ですが、やはりある意味住居地区に一番消火手段がなく、警報が必要な下町はこういった便利な道具を購入する資金力がないので、補助金が必要でしょう。
国からの出費になりますが、総合的に見れば何年かに一度起きるような街のほぼ全てを燃やし尽くすような大火事の可能性を減らせると考えると、十分お釣りが出ると思いますが」
アレクが補助金に関して売り込み始めた。
さて。
頑張って交渉してくれ。
こういうのは俺は苦手なんだ。
やらかしている商会は商業ギルド自体のトップではなく、輸出入を行う交易部門のトップでした




