1416 星暦559年 赤の月 26日 消火用魔具(18)
「放火って基本的に床に置いてある物に火をつけないか?
だとしたら、1メタの高さに設置するんじゃなくって、0.5メタの方がよくないか?」
1メタの高さで棚の柱などを使って熱感知と冷却用の魔具を設置して、棚に色々と詰めてある倉庫を模倣した小屋の中での着火と消火実験をした後、俺はふと思ったことを指摘した。
入り口や部屋の奥で魔具を設置してある棚の柱の真下以外で着火した場合、それなりに棚とかが焦げたんだよね。
それで思ったのだが。
下町で嫌がらせとかで火をつけられたと噂になった場合って、基本的に建物の中全部がほぼ灰になっていたんだよな。
まあ、あれは下町には碌な消火用の道具がないから、周囲への飛び火対策がメインになって火元の家は全部燃え尽きるまで放置されたっていうのもあるが。
でも、うっかりした事故からの火事の場合ってあそこまで徹底的に燃えていない場合が多かった気がする。
事故だと2階の寝室で何らかの失火で火事が起きた場合も多く、そうなると1階はそこまで完全に燃えない事が多い気がした。その点、放火だと1階の外の地面の傍で火をつけているのか、完全に家全部が下から上まで燃え尽きることが多かった。
まあ、放火の場合は油などを撒いて火の回りを良くしようとしていることも多いっぽいって言うのもあるんだが。
それを考えるんだったら、この小屋の燃焼実験でも油を撒いた状態での放火に対処できるかを確認するべきだな。
「確かに、元々倉庫の中で自然に出火なんてしない筈なんだから、火事になるとしたら放火の可能性が高いか。
だとしたら下の方に魔具を設置するのがいいかも知れないな」
アレクが少し考えてから頷いた。
「本当に嫌がらせするなら、仕入れる商品に時間が経ったら発火する魔具を入れる可能性もあるかも?」
シャルロが指摘する。
「そこまでお金をかけてやる気があるとなったらどうしようもないですから。
魔具での着火は考えなくていいでしょう」
苦笑しながらダルム商会のおっさんが言った。
「じゃあ、下の方に設置して試してみよう。
その後に、油を撒いてから着火するのも試してみないか?」
料理用の油程度だったら下町での嫌がらせでも使う連中がいた。
まあ、そこまで殺意が高いのは裏のギャング同士の闘争関連な時が多かったが。
いや、二股されて捨てられた女も……油をまいた上に扉を外から棒で抑えて開かないようにしているのが居たな。
取り敢えず。
そう言う例外的なケースは考えずに、小屋の中の焦げた棚を入れ替えて高さ0.5メタに1メタごとに熱感知と冷却用の魔具を設置してまずは実験を始めた。
その間におっさんが更に別の小屋と油を持ってこさせるように手配するらしい。
マジで怖いぐらいに真剣だな、ダルム商会。
どこかのヤバい組織と喧嘩でもしてるんかね?
そんなことを考えながら、アレクが着火した小屋の中を心眼で確認する。
入り口近くと奥との2か所に置いた木片やくしゃくしゃにした紙の入った箱が着火の術で本格的に燃え始め、まずは奥の棚の傍にあった熱感知の魔具の錫合金が解けるのが視える。
『錫合金テスト2、錫合金テスト2』
警報の音が鳴り始めたが、ほぼ同時に起動し始めた冷却用の魔具が箱の中の炎を直接冷やし始めたのか、炎が小さくなっていく。
その間に入り口の傍の箱の炎も大きくなり、近くにあった棚の木箱が焦げ始めた。
『錫合金テスト1、錫合金テスト1』
おっと。
よく視たら熱感知の魔具の錫合金が溶けていたか。
こちらは魔具の場所が着火した箱から少し離れているせいで、棚に燃え広がり始めていた炎は消えたが、着火した箱の中身は燃え続けている。
棚の反対側に燃え広がり始めていた炎もそちら側の熱感知の魔具の錫合金を溶かし始めているのが視えて……数秒後に警報と冷却用の魔具が動き始めた。
『錫合金テスト3、錫合金テスト3』
「うん、低い目に設置しておく方が、床に放火した場合は被害が少ない段階で下火になって終わりそうだね」
着火用の箱2つの炎がほぼ消えた時点で、シャルロが中を覗き込んで言った。
「小屋の中もそれほど焦げなかったし、このまま油をまいた実験をやろうか」
油の入った缶を持ってきたダルム商会の人間を見て、アレクが提案した。
「だな。
とは言え、倉庫の中に油を撒いて火をつけられたら中が煤だらけになって商品もダメになるんじゃないか?」
外の壁に油を撒くなら消火出来ればいいが、中に油をまかれたらどうしようもないんじゃないかね?
「と言うか、中で油を撒く程の時間的余裕があったら、中身をごっそり盗むなり壊すなりするだろうから、火事探知の魔具で何とかなる段階を過ぎているだろう」
アレクが苦笑しながら指摘する。
確かにね。
そんじゃあ、外に油を撒いて放火したのを対処できるか、確認しようか。
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