1414 星暦559年 赤の月 26日 消火用魔具(16)
「小屋って本当に持ってこれるんだ……」
朝食後にいつものお茶を飲んだ後に、ダルム商会の積み直し用の土地に来たら置いてあったボロい小屋を見ながら思わず声がこぼれた。
ここ二日ほどの実験で、少なくとも木箱だったら大体1メタの間隔で熱感知と冷却用の魔具の組み合わせを設置する事で放火っぽい感じに火をつけても本格的に燃えないことは確認できた。
なので今度は自分たちの実験用の小屋を燃やそうかという話をしていたら、ダルム商会が壊す予定の古い小屋があるからそれを移築するからつかってくれと言われた。
それで上手くいくようだったら、建て直す予定の倉庫も実験に提供するのが可能だという、破格な話まで出てきている。
どれだけ倉庫の火事を恐れているのか。びっくりだ。
まあ、ダルム商会だったら山ほど倉庫を保有していて、その中で一つか二つは建て替える予定だとしても不思議では無いが。
「取り敢えずこの天井の高さでどの程度の間隔でそちらの魔具を設置すれば火事にならないのか、確認してくれ。中にも色々と適当な貨物っぽい物を置いてあるから最初は壁際からの着火で良いが、最終的には内部で火を点けられた時のことも想定して欲しい」
何やら人夫に指示をしていたおっさんが声を掛けてきた。
そういえば、ダルム商会の人が出てくるって言っていたな。
「デビタール氏が来るほどのことですか?
本気なんですね。
ああ、此方が一緒に工房を営んでいるシャルロ・オレファーニとウィル・ダントールです。
シャルロ、ウィル、ダルム商会の副会長のダビタール・ダルム氏だ」
アレクがおっさんを紹介してくれた。
副会長!
そんなのが来る程、火事に悩まされているんかぁ。
つうか、だったら適当に人を雇って見張りにする方がよくね??
それとも人間だとやっぱ酒を飲んだり金で買収されたりって心配があるからダメなのかね?
「やあ、今回は有望そうな魔具を開発してくれそうで、期待しているよ!
火事は本当に困るからね。
それをほぼ確実に止められるかもしれない魔具が出来たら本当に助かるから、うちとしては本気で期待しているんだよ」
おっさんが気さくに手をあげて挨拶しながら言ってきた。
ふ~ん。
とは言え、確実に燃えないほどの数の魔具を全部の倉庫に設置したら高くなりすぎると思うんだけどな。
しかも、目が飛び出るほど高いとまでは言わないが、それなりな値段になり、しかも便利な魔具を倉庫に付けまくったらそれを外して盗んでいく人間が続出するんじゃないかね?
それを見張るために人員を配置しなきゃならないとなったら、かなり高くつくと覆うんだが。
まだチェルナ子爵の美術品の部屋に、何が何でも燃えないように俺らの魔具を設置しまくるって話の方が現実的だと感じる。
あそこもさらっと話したら美術品の部屋だけ冷却用の魔具を設置して絶対に絵が燃えないようにするが、他の部分は警報器を各部屋と廊下に設置する程度で良いって話になった。
まあ、屋敷自体が広いからそれでもかなりの数になりそうだが。
裏の使用人が使う部分は要らないんじゃね?とも思ったが。なんでも裏の方が火を使う作業が多いし、そちらで気付かれる前に大きく燃え上がると、屋敷の表側の部分にまで広がった時点で手を付けられないほどの勢いになっているかもだから、屋敷全部に警報器を設置すると言われた。
まあ、ダルム商会が扱う商品とそれを入れる倉庫でも、絶対に燃えたら困る高額品とか用の倉庫と、それほどでもないのもあるんだろう。
流石に鉄鉱石とかそういうのの為に大量に魔具を使うとは思えない。
もっとも、石炭とか薪を積んである倉庫だったら火が付いたらヤバいから魔具を設置するかもだが。
「じゃあ、最初は角を起点に、1メタごとに壁際に設置していこうか」
シャルロが提案した。
「だな。
と言うか、地面に何か置いて着火するだろから、屋根近くではなく木箱の高さと同じぐらいで良いんじゃないか?」
木箱では高さが現実の建物と違うから小屋や倉庫で実験したいと話し合っていたのだが、考えてみたらこれで天井付近に魔具を設置したら小屋の下の方の壁にしっかり火が広まったら冷却用の魔具に掛かる負荷が大きくなって直ぐに魔石が枯渇しかねない。
「そうだね、取り敢えず外側の壁はそのぐらいの高さにして、内部は天井の高さでってことにしようか。
天井の高さだったら中の床に置いてある貨物に火を点けられたらある程度は燃えちゃうかもだけど」
シャルロが俺の言葉に合意した。
そうなんだよなぁ。
まあ、壁際は外に設置した魔具の効果が及ぶはずだから、内部の貨物がどうしても燃えすぎるようだったら天井からつるすか、適当に目立たない柱を立ててそれに設置するしかないな。
さて。
まずは試作品の設置だ。
倉庫の外に空の木箱とかを積んでたらダメですけどね。
まあ、ここまで火事に神経質になっているなら倉庫周辺の整理にも注意を払っているでしょう!
多分。




