1412 星暦559年 赤の月 19日 消火用魔具(14)
「まずは最初の想定通りに、錫合金の火事探知の魔具と一緒に冷却用魔具を設置して置いたらどうなるかを試して、そのまま燃え続けるようだったらそれを消火するのに別の冷却用魔具で出来るか試してみようか」
アレクが試作品の幾つかを手に取りながら言った。
「そうだな。
消火用にどうだと勧める前にまずは火事に気付かなきゃ話にならないしな」
という事で、比較用に二個並べた木箱に火をつけるのと、それに火事探知と冷却用魔具を扉モドキ付近に設置したので火を点けてどんなふうに燃え広がり方が変わるかを確認することにした。
ある程度結果が出たところで消すのに冷却用魔具単体で消火出来るかも試せば色々一気に試せるし。
「じゃあ、いくよ~」
シャルロが声を掛ける。
今回はシャルロとアレクが着火、俺が防風結界の役目だ。
考えてみたら、この結界で完全に風の流れを止めたら普通の家の扉よりも空気遮断効果が強いが……まあ、『扉と同程度に適度に風を通す結界』なんて難しすぎるし同じだけ空気を通しているかの確認がほぼ不可能だしなので、あまり気にしなくてもいいだろう。
という事で、着火。
ほぼ同じ感じに炎が広がっていき、やがて右側の木箱の方から警戒音が鳴り始めた。
『錫合金テスト5,錫合金テスト5』
一緒に設置した冷却用魔具が錫合金の融解に伴って起動し始めた。
うん?
溶けてた錫合金がまた固体化しているな。
まあ、警報が鳴り続けているので、警報が鳴る温度以上だけど発火しない程度に冷却っていう設定が微妙に成功していないが、少なくとも温度が極端には下がっていないみたいだから構わないか。
「冷却用魔具がある方は手前側の木箱には燃え移らないね」
シャルロが木箱の中を覗き込みながら言った。
「ただ、奥の木箱の火が消えている訳ではないな。
大分と炎の勢いが落ちているが、距離が離れすぎていて地面に置いた着火させた木片入りの箱を消火するだけの効果は無い様だ」
アレクが指摘する。
そうなんだよなぁ。
木箱だから実際の部屋の天井よりずっと位置が低い筈なのに、床まで効果が届いていない。
一応届くように結界の大きさを指定した筈なのだが、考えてみたら魔具がある場所の床まで届く大きさであって、ちょっと離れた床は範囲内ではないのだ。
見ている間に、奥の木箱は後ろの壁が燃え始めた。
空気の流れがもっとある扉側へ最初は火が広まっていたが、冷却用魔具で止められると普通に奥側の壁へ炎が広がるのか。
まあ、当然って言っちゃあ当然か。
これだと、美術品の部屋の入り口と美術品周辺にこの魔具を設置したら、絵は守れても人間が居る辺りの着火を防げないな。
しかも、美術品の傍には侵入禁止の別の防御結界が設定してあるとしたら、下手したら美術品は無事だけど部屋の中にいた人間が安全な部分に近づけず焼け死ぬなんて言う羽目になりかねない。
「取り敢えず、比較対象用の木箱の消火が出来るか試してみるね~」
シャルロが声を上げ、冷却用魔具を手に取って左の木箱の方へ近づいた。
「おう、立って使うと意外と地面近辺への有効距離が短いっぽいから、屈んで使うといいかも?」
俺が指摘したことは既にシャルロの気付いていたのか、俺が言ったときに既にシャルロは体を低くして木箱の方へ冷却用魔具を向けていた。
「ふむ。
そこそこ炎の勢いが落ちるな」
アレクがちょっと満足そうに言う。
が。
見ている間にまた炎が勢いを取り戻してしまい、シャルロが戻ってきた。
「もう魔石が枯渇しちゃった。
しっかり燃えている炎を消すのには大分と魔力を使うみたい」
空になった魔石を見せながらシャルロが言った。
うわぁ。
燃えている木箱の一面すら消火しきる前に中型魔石一個が枯渇するのかぁ。
ちょっと厳しいな。
とは言え、右側の火事探知用の魔具と一緒に設置した冷却用魔具はしっかりと炎が扉モドキの方へ燃え広がるのを抑えている。
代わりに後ろ側の壁が既にごうごうに燃えて穴が開いてきているが。
「あの木箱の背面や床・天井部分が燃え尽きるまで扉モドキの上に設置した冷却用魔具の魔石が保つようだったら、消火用というよりも燃焼防止用という売り込みの方が現実的かもだな。
燃え盛っている炎を消すようにはちょっと魔石の費用が高くつきそうだ」
アレクが悩まし気に眉を顰める。
「まあ、チェルナ子爵とか王宮の文官とかに、美術品や書類がある部屋全体を覆うほどにこの火事探知と冷却用魔具を設置したいか、それとも警報が鳴った後に消火に駆けつけて大きくて高額な魔石を使って水なしな消火をしたいか、聞いてみたらどうだ?
ある意味、大きな部屋全体を覆うだけ設置しようと思ったらどうせそれなりに費用は高くなる」
俺たちと美術好きな貴族や王宮の文官の金銭感覚は違う可能性は高いし。
と言うか。
美術品に大金を払う時点で明らかに俺とは金銭感覚が違う。
絵に高額なあお金を出す必要性を共感できないウィル君w




