1380 星暦559年 藤の月 26日 魔力認証結界(8)
工房の庭に出る側の扉のところに実験に使っている小屋を持ってきて、工房内に防御結界を展開して小屋で入室認証をする形で試作品を実際に設置してみた。
「あ、中の美術品代わりの物とそれへの防御結界も展開しないと」
今回の試作品を試そうと色々と確認作業をしているところで、シャルロが声をあげた。
「お~。
迂闊に何かが触れられなくなると困るかもだから、取り敢えずこれとこれを美術品と見立てようぜ」
適当に前回の獣除けで使った箱2つを手に取り、一つを壁際に、一つを部屋の真ん中に置く。
「2つにするならもう一つ防御結界の魔具を作らなきゃだな」
アレクがそう言いながら魔術回路の素材を持ってきた。
確かに。
壁際に置いたのと部屋の真ん中に置いたので何か反応に違いがあるか調べる必要があるのだ。
最初から認証無しの防御結界の魔具を二つ作っておくべきだったな。
「あとは~。
そういえばパディン夫人の魔力も認証しておく?」
シャルロが聞いてきた。
俺とアレク、シャルロの魔力は既に試作品に記録させているのだが、他の人間の分は特にやっていないんだよな。
「そこのドアを開けて声を掛ける程度なら防御結界に邪魔されない筈だから、構わんだろ。
というか、魔力認証の登録がされていない人間でも防御結界があっても扉を開けて中を見て声を掛けられるか、確認するするのに丁度いい」
実際に設置する場合も、扉を二つにしておいて一つは普通に開けて中を状態を覗き込める様にしておいたら、通り道としては使えないが安全確保のために中で異常が起きていないか確認するのにいいかも?
そう考えると、魔力認証をして防御結界が再展開される際に確認用の入り口から入ってこれないように、そこはそれこそ美術品用の防御結界と同じ結界で塞いでおくべきだな。
取り敢えず準備が出来たので、俺とアレクが工房の中に残り、シャルロが一旦外に出る。
「じゃあ、起動するぞ~」
窓からシャルロに声を掛ける。
ちなみにこれらは中から外に出れるタイプの防御結界なので、室内にいる俺とアレクは窓から外に出ようと思ったら出られるが、中に入るには認証しなければならない、筈。
うっかり何か問題があって認証が上手くいかなかった場合に中に誰もいないと魔具をぶち壊して工房に戻る必要が出てくるので、今回は窓から外に出るつもりはない。
「は~い」
シャルロが庭から答える。
アレクが次々と魔具を起動して、最後の一つも無事に動き始めたのが視えたので、シャルロに準備完了と合図した。
俺が手を振ったのを見たシャルロが小屋の入り口の所にある認証用のプレートに手を触れる。
ヴン。
微かに魔力が震えて、防御結界が小屋の入り口から工房の入り口まで凹むのが視えた。
シャルロが小屋の中に入って後ろのドアを閉めたら、探知結界が起動して防御結界が一瞬消えて再起動した。
ちゃんとシャルロが防御結界の中に入る形になっている。
「上手く入れたね~。
だけど考えてみたら、全員登録するんじゃなくって一人認証不可な人がいないと誰かが侵入しようとした時のテストが出来なくて、ダメじゃん」
シャルロが工房に入って来てから問題点を指摘した。
確かに。
パディン夫人かキーナに協力を頼んでも良いが、ここは俺が侵入者役をした方が良いかな。
「じゃあ、外に出てまず廊下から声を掛けるのと、入ろうとするのを試すから俺の登録を消しておいてくれ」
アレクに声を掛ける。
「了解。
入れないのを確認したら、シャルロの後ろについて入れないかも試さないとだから、シャルロも出ていってくれ」
アレクがあっさりシャルロにも出ていけと指示する。
まだ寒いから、アレクは外に出る当番になりたくないのだろうな〜。
まあ、そのうち交代で色々と実験することになるからアレクもいずれは外に出るんだけど。
取り敢えず。
まずは廊下かな。
廊下に出る方の結界は美術品用の侵入不可な防御結界なので中からでも通れないので、小屋経由で外に出て玄関から家の中に戻る。
「あら、どうしたんですか?」
玄関が開く音に台所から首を出したパディン夫人が尋ねる。
「ああ、ちょっと実験中でね。
そういえば工房に暫く入れなくなるが、扉を開けて声を掛けるのは可能なはずだから」
入ろうとしても衝撃を受けるタイプの結界ではないから問題はないだろうが、驚くかもだから先に言っておく。
「おやまあ。
良いですけど、ちゃんと使い終わったお皿やマグは台所に持ってきてくださいよ?」
お茶に使ったポットやマグは洗って貰うために自分たちで持って行っているつもりだったが、時折忘れてパディン夫人に回収されていたようだ。そういえばクッキーや茶葉もいつの間にか補充されている気がする。
うむ。
色々と気付かないところで世話を焼かれているんだなぁ。
そう思いつつ、廊下から工房へ入る扉を開ける。
問題なく開いた。
中の様子も見える。
心眼だと防御結界のせいでちょっと中の様子が見難いが。
「おっと」
扉の中に入ろうとして、がん!と壁にぶつかるように止まった。
今回は結界があると分かっていたから前に出した腕が当たっただけが、これって下手したら頭をぶつけて痛いかも。
まあ、取り敢えず結界が人を排除する役割はちゃんと果たしているのが確認できたな。
結界に激突したらたんこぶとか出来るのかな?




