1377 星暦559年 藤の月 22日 魔力認証結界(5)
「防御結界で魔力認証用に登録した人だけを排除するっていうのは出来るけど、排除しないってどうやればいいんだ〜〜?!」
色々と試した結果、行き詰って一休みしようという事でソファに体を投げ出しながらシャルロが声をあげて嘆いた。
昨日はまずは魔力認証の魔術回路を作ってみて、それで何が出来るか色々と試してみた。
探知結界に組み込んで魔力認証の登録されている人が近づいたら警報が鳴るようにするというのは出来た。
反対に、その人が来ても警報が鳴らないようにというのも、警報への魔術回路への繋がり方を変えればいいだけなので、昨日の午後のうちに一応成功した。
なので防御結界でも何とかならないかと希望を抱きながら今日はそちらに取り掛かったのだが……。
「探知結界につなぐ警報と違って、防御結界の場合は排除するのが本質的な機能そのものだからなぁ。
登録した特定の対象を排除するのは出来ても、『それ以外を対象として排除』っていうやり方がどうすれば良いのか、予想もつかないな」
そんなことになるかもと密かに恐れてはいたんだが。
防御結界で空気の流れは阻害しないとか設定できるから、何とかなるかと思ったが。残念ながら、あれは単に動きを止める対象の大きさに空気が引っ掛からないからだったんだなぁ。
「『以外』っていう意味の魔術回路が絶対にあるとは思うんだよねぇ」
シャルロが起き上がって湯沸かし器の方へ動きながら言った。
「誰かがどこかで見つけてどれかの魔術回路に入っているのは確実だと思うが、どれだか考えてみると直ぐには思いつかないけどね」
溜め息を吐きながらアレクが応じる。
『これ』と『これ以外』って根本的な二択なんだから、絶対に魔術回路の中にも選ぶ方法があるとは思うんだよなぁ。
「『なにそれ以外』的な使い方をする魔術ってあったっけ?
それの魔具の魔術回路を分解したら分かるかも」
考えてみたら魔術も、『何かをする』って術が多いよなぁ。
「……誓約魔術なんかは誓ったことを破らないって術だから近いかも?
あれも誓ったことを『する』ではなく、誓ったことに『反さない』だから否定に近い術だと思うが」
アレクがちょっと考えてから言った。
「でも、誓約魔術は魔具なんてないよね~」
シャルロが指摘する。
だな。誓約用の契約書は簡易式の術を補強するための道具であって、魔具では無い。
敢えて言うならば違法な隷属用の魔具なんかが誓約魔術に近いかもだが、流石にあれを研究する気は起きないし、そんな魔具の魔術回路は当然どこにも公開されていない。
第一、あれは作るのも、入手するのも、持つのも違法だ。
「魔力認証と探知結界とを組み合わせて、認証された人が来たら防御結界が解除されて、中に入って防御結界が再展開される前に他の人が入ってきたら探知結界経由で警報が鳴るようにする?」
シャルロが茶葉をポットに入れながら提案する。
「一応防御結界がある室内に探知結界と防御結界を展開する魔具が置かれているなら、魔力認証付きの扉を騙すみたいな感じには出来ない……か?
というか、だったら魔力認証付きの扉の認証部分も探知結界を使って扉から離れた部屋の内部に魔具を置くようにしたら、魔力認証を誤魔化して扉を開けられなくならないか?」
アレクが指摘する。
「いや、魔力認証付きの扉って要は扉の鍵を魔力認証が担うだけだろ?
だから鍵の構造そのものを壊せば扉は開けるんだよ。
人が入ること自体を防ぐ防御結界を使う意味はあるぞ」
防御結界だって壊せるが、扉の鍵を壊すよりはずっと手間暇がかかるし、普通の盗賊にはかなり難易度が上がる。
それに部屋全体を覆う形の防御結界にしたら天井や壁をぶち抜いて忍び込むという手も防げるしな。
まあ、壁や天井をぶち抜く気がある相手だったら、余程使われていない部屋なんじゃない限りそれなりに大きな音を立てても構わないと思われている可能性が高いから、大掛かりな攻撃用の魔具を持ち込めば室内用の防御結界程度ならぶち破れなくはないが。
「そっか、魔力認証の扉って魔力認証を騙して何とかしちゃうんじゃなくって、魔具部分は関係なしに鍵を壊すのか」
シャルロが言った。
「それこそ、時間があるなら蝶番を壊して扉を外すなんて手もあるぞ?
だが防御結界で部屋の空間内に入れないようにすれば、扉を外そうと関係ない。
とは言え、後ろからついてきた人間が一緒に入る可能性っていうのをどうやって完全に排除するかが問題だよなぁ」
ケレナ経由で入手する一人しか進めないゲートでなんとか出来るかな?
否定って一言なんですがそれの機能を担う言葉なり魔術回路なりを知らないと、定義が難しいですよねぇ




