1374 星暦559年 藤の月 19日 魔力認証結界(2)
「防御結界を一度解除しなくても、ちゃんと特定の対象だけを通せるような無効化登録の手段だって絶対あると思うんだよねぇ」
1日かけて魔術院で色々と防御結界や探知結界、魔力認証の魔術回路の特許を片っ端から集めてきた後、シャルロが工房のソファにぐだっと寄りかかりながら言った。
「王宮とかの宝物庫あたりの結界なんかはそういう感じになってる可能性は高いだろうが、そういう魔術回路は特許登録してないだろうな」
作り方を公開して抜け道の研究なんぞさせては、意味がない。
どうせ王宮関連の研究なんぞ国の予算で賄っているのだ。
それを特許登録して金儲けに使おうなんて考え方自体がないだろう。
「研究して誰かが既に開発に成功していたら……秘匿特許として登録されていて、我々が開発に成功して登録しようと申請した段階で、既存の特許に抵触するという事で登録どころか使用まで禁じられる可能性があるな」
アレクが難しい顔をしながら言った。
「秘匿特許って中身は教えてくれないにしても、どんな方向性の物があるのかって教えてくれるんだっけ?」
立ち上がって茶葉の入っている棚に行ってお茶を淹れる道具を取りだしながら二人に尋ねる。そう言う制度的な事は俺より二人の方が詳しいんだよな。
「一応秘匿特許の存在に関しては具体的な機能を指定して問い合わせる書類を提出すれば返答は来るが、是か否かって程度だから内容は分からないし、方向性が我々の考えている物と近いかどうかも不明だから、あまり参考にはならないな。
同じ『魔力認証付き防御結界』があっても原理が違えば我々の特許は通るが、どういう原理を使っているかは絶対に事前には教えてくれないだろう」
アレクが溜息を吐きながら指摘する。
確かにな。
使っている原理とか方向性を教えていたら、秘匿特許にする意味が半減してしまう。
「まあ、自分たちで作ったのだったら秘匿特許に引っ掛かるからって登録できなくても、試作品を知り合いに贈るぐらいはできるよね?
合わないと期待して、取り敢えず頑張ろうよ」
シャルロが立ち上がってクッキーの缶を取りだしてきながら言った。
「それが一番かな」
俺がこっそり魔術院に忍び込んで秘匿特許を調べるという手も無きにしも非ずなんだが、どこにしまってあるのか不明だから探すのが大変そうだし、万が一忍び込んだところを見つかったら悪気が無くても不味いだろう。
ウォレン爺に嬉々として『不法行為を握りつぶしてやるから、これから色々な捜査に協力しろ』と言われる将来が目に浮かぶ。
「取り敢えず、理想論的に言えば無効化対象を登録できる防御結界を開発したいな。
それが無理だったら探知結界で魔力認証を登録した相手が来たら一瞬防御結界が解除されて、その人物が探知結界から離れたら再展開って感じかな?
単に通りすがりに探知結界に触れただけで防御結界が解除されないように工夫しなきゃだけど」
茶葉を入れたポットにお湯を注ぎながらどんなのが良いか、口に出して考えを纏める。
「探知結界を使う場合は、魔力認証された人が何人も人を連れ込めるかも指定できる形にした方がよくない?
人に見せたいような素敵な美術品のある部屋だったりしたら、自分一人しか入れない形じゃもったいないって感じるかも」
シャルロがクッキーを缶から取り出しながら指摘した。
「というか。
考えてみたら、絵画とか美術品って言うのは普通は手に触れないで目で楽しむ物だろ?
だったら絵画だったらその壁の部分、彫刻とか宝石系の美術品だったら決まった形の球形なり箱形の防御結界を作る形にしたらよくないか?
部屋に入るのを禁じなくてもいい気がしてきた」
登録型の無効化が出来ても、客を招いた際に見せて自慢しようと思ったら結局防御結界を解除しなくてはならないのだ。
解除する必要がないような、ぴったり対象を囲む形の結界で良くないか?
「それだと結界を発生させている魔具に侵入者が触れて解除するなり壊すするなり出来てしまうかもだろう?
防御結界の中に魔具を設置する形にして、認証されていない人間が触れられない場所に魔具があるようにすれば解除も出来ないって言うのが肝なんだよ」
アレクが指摘した。
あ~。
そんなことを昨日言ってたか。
1日魔術院で特許を探し回っている間に、何か頭の中がぼ~としてきて話し合っていた内容を忘れていたわ。
「そっか。
じゃあ、美術品は無効化登録のない防御結界の中に入れておいて、部屋自体は別の無効化や解除が出来る防御結界で覆う形か。
それでも客を招き入れたら魔具に細工されそうだけどなぁ。
マジで、絶対に盗まれたくないものは持っていることを人に知られないのが一番なんだけどなぁ」
持っているだけで満足するタイプならまだしも、人に自慢するのも重要な満足度の要因の一つだとしたら、そう言い聞かせても無駄なんだけどね。
まあ、取り敢えずどんな防御結界が出来るか、色々と試してみよう。
持っていることを盗みたがる様な相手に知られなければ防犯も不要w




