1369 星暦559年 藤の月 15日 調査協力(22)
書斎の絨毯を撒くったところで姿を現した跳ね上げ扉。それを開けた下から出てきた階段を降りていく。
降りた先には書斎と同じぐらいのサイズの部屋があった。
研究室って感じだなぁ。
王立研究所の研究者の上司が研究者であるとは限らない。こいつは貴族だって話だったから単なる管理職のお偉いさんなのかと思っていたが、色々と置いてある実験道具とか散らばった紙や書籍から推測するに、普通に研究者的な能力のある人間だったようだ。
少なくとも、自分の事を『研究者である』と考える程度の教育を受けた人間なのだろう。
本当は研究者として働きたかったかったのに、貴族だからってことで管理職に引き上げられちゃった不幸な人間なのか?
だが、単に職場で研究を続けられなかったにしても、自宅で研究をするのにこんな隠し部屋でやる必要はないよな?
直射日光が入らない方が薬草とかを使った実験に好ましいとしても、普通にワインセラーの横にもう一部屋作ればいいんだから。絨毯の下に跳ね上げ扉を隠す必要はない。
一緒に来た補佐官のオマケ(多分軍部の人間?)が壁際の机に置いてある粉や薬草を素早く調べていく。
「こちらはアーヴァン氏が研究していた薬草ですね」
あらま。
麻薬の研究に手を出すなんて、ダメじゃん。
まあ、『このままでは麻薬として国に規制されてしまうけど、私の勘ではこれは◯◯の治療に使える筈なんだ!!!』と深く信じて研究をこっそり続けている可能性だってゼロではないが……管理職なのだ。
何かの治療に使えると信じるだけの理由があるなら、上を説得して合法的に研究を続けるべきだったな。
「ここの研究に使う素材はどうやって手配していたのだ?」
補佐官が一緒に連れてこられた家令に尋ねる。
まだ腕を拘束されたりはしていないが、他の人員が出口を塞ぐ形で立っているから、逃げるのは不可能だろう。
多分。
一応部屋を心眼で再度見回して、ここから隠れ場所とか隠れ通路がないかを確認するが、部屋自体が隠されていた代わりに隠し場所はここには無いようだ。
「私が下男に命じて購入させて、子爵が帰宅後にお渡ししていました。
特に違法な物は何もない筈ですが」
家令があっさり応じる。
そっか、あの新しい薬草が麻薬の材料になるという研究結果が正式に報告される前にアーヴァン氏が行方不明になって研究が一時停止したから、あの薬草を購入するのも研究するのもまだ違法行為ではないのか。
「何故こんな地下の隠し部屋で研究をしていた?
何か疚しいことがあるとしか思えないが」
補佐官のオマケが家令に問いただす。
「当主さまの親族の方で、こういった研究を行う事が貴族としてふさわしくないと煩い方がおりまして。
当主様が仕事に出ている間に勝手に押し入って研究室にある素材や道具を処分させたことも何度かあるため、こうなりました」
家令がしれっと答えた。
うわぁ。
研究している内容が麻薬になる薬草でなければ、同情しちまうような話だが。
研究対象が麻薬になるって点がねぇ。
同情を全てかき消す。
とは言え。
現時点ではあの薬草は麻薬になりうる違法物質の素材として指定はされていない。
つまりここでの研究も違法行為として咎めるのは難しいだろう。
この部屋にある素材に麻薬が含まれてれば、話は別だが。
まあ、そこら辺を調べるのは補佐官のオマケに任せるしかないな。
俺には白い粉とか黒い木の実っぽい素材とかが何なのか、分からん。
という事でここの地下室の捜査は専門家に任せ、俺は書斎へ戻り、じっくり心眼で隠し場所がないか、探す。
明らかに訳アリっぽい部屋が下にあったのだ。
この部屋の主が何か怪しいことをやっていた可能性は高い。
それの書類を隠しているかどうかは知らんし、捜査官たちがこの部屋の書類を全部しっかり調べるだろうが、隠し場所があるならば話が早くなる。
という事でじっくり視ていたら、ふと執務机の椅子の背もたれのクッションの中身がちょっと普通の綿だけではないのが視えた。
「どうした?」
俺が椅子の背もたれのクッションを持ち上げたのを見て、補佐官が尋ねる。
「ちょっと斬新な隠し場所かも」
クッションカバーを止めてある小さなボタンを根気よく外し、中の綿が入っている袋を取り出す。
うん。
綿と一緒に、紙も入っているな。
子爵は背もたれには座る時に体重を掛けないタイプなのかな?
法律上の違法行為じゃないから真っ黒なのに罰せられないケースって嫌ですよねぇ




