28.谷底の花を求めて
説明しよう!ジャーバッハ王国とは砂漠に囲まれており、オアシスの中心に位置する国である。伝統的な石造りの建物による風情のある町並みに、町から見える広大な海と雄大な砂漠を眺める事が可能である。その為数多くの観光客が訪れる観光地でもあり、他国でも特殊な環境で育まれる特産物や貿易などにより経済的にも裕福な国でもある。ん?突然なんでこんな説明するかって?そりゃあ――――
「そんな国がこんな過酷だと思わないじゃん!?」
「アレス殿?突然叫んでどうされた?」
「いや、観光地って話だったじゃん!?こんな殺人的な暑さだと思わないじゃん!?」
「夜は凍死するレベルで冷え込みやすよ」
「試される大地過ぎる!?」
「砂漠なんてだいたいそんなモンでやすよ?」
「いや、もっとこう……アラビアンナイト的な感じでも良いじゃない……」
「色んな意味でアラビアンなナイトになるでしょうな」
「そんなん求めて無いんだよ!植物も動物も殺意高すぎるしさぁ!」
-------------------------数十分前-------------------------
「アヂィー……」
「砂漠ですからな……」
「にしたって限度があるだろ……」
「おっ坊っちゃん、あそこに果物がありやすよ?」
「どうせ干からびたりんごとかそんなオチだろ?」
「いや、アレス殿。かなりウマそうですぞ?」
「マジで!?」
ミダスが言うなら間違いない。そう思い俺は二人の視線を見る。すると緑と黒のしましま模様の丸々と太った果物が目に映る。
「コレは俺んだぁ!誰にもやらねぇだぁ!」
果物を確保する為に全力で駆け抜け果物へとダイブする。そして早速食べる為にカバンの中のナイフを突き立てる
「ん?硬いな?」
予想外に固く刃が通らない。何度か試すと逆にナイフの方が欠けてしまった。
「硬すぎじゃね?これ食えるのか……?」
「アレス殿!」
「待ってろって、ちゃんと分けてやるから!」
「そ、そうではなく!」
「何だようるさいなぁ!」
「前!前!」
「前?」
ミダスが訳の分からない事を喚くので顔を上げると巨大なチョウチンアンコウのような生き物がこちらを凝視している。
「これ、もしかして貴方様ので……?」
よく見ると果物は目の前のチョウチンアンコウの頭に繋がっており、果物はほんのりと温かい。
「GYAAAAAAAAAA!!」
「ぎゃーーーーー!!」
モンスターと同時に叫び走り出す。
「あれは『サンド・フィッシュ』と言い。果物に似た疑似餌で得物を誘い出す魔物でやす。地元の人間は引っかかりやせんが観光客が年に数回襲われてやすね」
「言うてる場合か!?助けて助けて!」
楽しそうに説明するピエちゃんにツッコミを入れつつ必死に走るが砂に足を取られ転んでしまう。
「あわわわわわわ……」
尻もちを着いてモンスターを見る事しか出来ないで居るとミダスが間に入る。
「大丈夫か?アレス殿」
「ミダスゥゥ……!」
俺を食わんとばかりに猛突進するモンスターだったが、ミダスの手に集まったモヤを凝視して元来た方向へと去っていく。
「た、助かった……のか?」
「みたいですな……?」
「サンド・フィッシュは自分より格下の相手しか襲わないんでやす。坊っちゃんはナメられたんでしょうなぁ……」
「うるせいやい!ピエちゃん知っててけしかけたろ!?」
「はて、何の事やら♪」
わざとらしく口笛を吹くピエちゃん。ムカついたので引っ叩いておいた。
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「ったく、昨日王様に説教されたんじゃないのか?」
「ピエロですから♪」
「ピエロとは過酷な職業なんですなぁ……」
「んなワケないだろ。ピエちゃんは性格悪いだけだっつーの」
「お、目的地が見えてきやしたよ?」
「もう引っかからんわ!」
「おぉーあれが例の谷ですかぁ!」
「え?マジで着いたん?」
ミダスの見る方向へ目をやると大地を横たわる亀裂が映る。
「うわ、でっけぇなぁ」
「大昔にあった大河が干上がって出来たと言われてやすよ」
「こんなに大きな河が干上がるとは……自然とはすごい物ですなぁ」
谷の縁に立ち底を見ると深すぎる所為か太陽の光も届かず真っ暗になっていた。
「こりゃあ落ちたら終わりだな。押すなよ?」
「それは振りでやすか?」
「振りで死んでたまるか。てかこれどうやって底に降りるんだ?」
「アレを使うんでやすよ」
そう言って指差すピエちゃんの指の先を見ると紐でぶら下がった籠のような物が目に映る。
「あれを使って降りると洞窟があるんでそこを通るんでやすよ」
ピエちゃんに案内され籠に乗り込むと中にレバーがあり、ピエちゃんが操作してゆっくりと降りていく。ある程度降りると出っ張りのような地形になっており、籠が止まる。
「ひゃー、おっかねぇな。やっぱ高いとこは落ち着かんわ」
「私も流石にこの高さは怖いですな」
「こっちでやすよ」
ピエちゃんに声を掛けられ洞窟へと足を踏み入れる。中は緩やかな階段状になっており、壁には光るキノコが生えている。少し暗いながらも気をつけていれば問題ない程度の光量だ。
「自然ってすげぇな。明らかに誰か作った感じだぞ?」
少し階段を降りた後、広間のような空間があり思わず言葉が漏れる。
「ダンジョンだから自然に出来た物では無いでやすよ?」
「へーダンジョンか~……ってダンジョン!?」
驚きを口にした直後、頭上から異音が鳴る。見上げてみると天井の土が膨らんでいる事に気付く。
「何だ……?」
確認するようにピエちゃんの方を見てもニヤニヤしているだけで特に返答は無い。念のため鍬を握る手に力を込めて再度天井を見る。
「おわっ!?」
天井を見る為顔を上げると黒い物体が降り注ぐ。床に倒れ込み降り注いだ物体を確認する。胸の上では間に差し込んだ鍬を一心不乱に食いちぎろうとする巨大なアリの姿があった。
「ア、アリ?」
「ジャイアント・アントと言いやしてそんなに強くは無い魔物でやすな」
「何とも語呂の良い魔物ですな」
「言うてる場合か!」
急な接近で驚きはしたものの大きさは小型犬程度であり、鍬で振り払うと壁にぶつかり黄土色の体液をぶちまける。
「見た目はちょっとアレだけど余裕で倒せるな」
「坊っちゃん、本番はここからでやすよ?」
「え?どういう――」
からかう調子でそう言うピエーロの方を見るとニコニコしながら天井を指さしている。顔を上げると先程の穴から次々とジャイアント・アントが這い出てきており、もうすでに天井の半分を埋め尽くしていた。
「うぇい!?」
「この数は流石にマズいのでは……?」
穴からは続々とジャイアント・アントが出てきており、俺とミダスは断続的に降ってくる個体を各個撃破していた。
「ピエちゃんも手伝ってくれ!流石に二人だとキツい!」
敵の数に圧された俺はピエちゃんに助ける。が、ピエちゃんは笑顔を崩さず肩をすくめるだけだった。
「アッシはただのピエロでやすよ?モンスターと戦うなんてとてもとても……」
ピエちゃんはかなり小柄であり、以前の出来事から義手と義足であることは分かっていた。しかし天井から降り注ぐジャイアント・アントをひょいひょいと避けて見せるその動きはとても戦えない様には見えない。
「アレス殿!」
ミダスの呼ぶ声に反応するように身を屈めると黒いモヤが頭上を通りジャイアント・アントを一掃する。
「今ですぞ!」
「おう!」
ミダスにより数を減らしたジャイアント・アントの隙間を縫うように移動し、穴の下に立つ。握った鍬に魔力を注ぎ、力の抜ける様な感覚を味わいつつ鍬を振り上げる。鍬から穴にめがけて光線が迸り黒い軍団を白に塗りつぶす。ジャイアント・アントは仲間の大半を失った事に気付いたのか出てきた時と同じ勢いで大きく穿たれた穴へと消えていく。
「やった……か?」
「おぉ、どうして中々に」
ピエちゃんは呑気に拍手しながら鍬をまじまじと見つめている。
「ピエちゃん」
「どうしやした?」
少し声を落とした俺の声にすっとぼけた返事をするピエちゃん。俺はピエちゃんの肩をガシッと掴み一言。
「次から知ってる事があれば先に言ってくれ」
「ははは……。分かりやした……」
とりあえず悪戯が過ぎたというピエちゃんの言葉を信用して先へと進む。ピエちゃんによればここに生息している魔物はジャイアント・アントのみであり、通常の動物や魔物はジャイアント・アントを避けてココにはあまり近寄らないとの事だった。光るキノコに照らされているとは言え暗い空間であることには変わりないので、いつもより慎重に足を進めているとピエちゃんに呼び止められる。
「止まってくだせぇ坊っちゃん」
「ん?どした?」
とりあえず足を止めて聞き返すとピエちゃんが小石を俺の前に投げる。すると投げてから少し経った後に下の方でカツーンと固い物に当たる音がする。不思議に思い目を凝らすと眼の前は大きな穴となっていた。
「流石にここから落ちたら無事には済まないでやすよ」
「うおっ!あぶね……」
「またあの籠に乗るんですかな?」
「いえ、それを使って降りるんでやすよ」
そう言ってピエちゃんは穴の縁を指差す。そこには階段があり、目を凝らすと螺旋状に続いている。
「あとはこの階段を降りれば谷底でやす」
階段の幅は1人で渡る分には落ちる心配は無いものの手すりなどがあるワケでは無いので慎重に降りていく。
「そういえば気になったのですが、今アリ共に襲われたら危険ではないですかな?」
「心配ご無用でやす。ココの壁は素材が特別なのかジャイアント・アントは食い破れないのでやす」
そう言って胸を張るピエちゃん。壁を見ると特に穴などは見当たらず、過去にジャイアント・アントが食い破られていない事を証明している。
「しっかし、この壁って何で出来てんだろうな?」
壁を叩いて呟く。見た目や感触からは何の変哲も無い石だとしか思えないが、それだと食い破られない事に説明がつかない。
「過去に調査はしてるんでやすが、サンプルを持ち帰れない事もあって研究が進まないんでやすよ」
「サンプルが?適当に削って持って帰れば良いんじゃないか?」
「それが、異常に固くて魔導具を使っても欠けすらしないんでやすよ。坊っちゃんの鍬も試して見やすか?」
「いや、無駄に魔力使ったら戦う時に困るからやめとくわ。ミダスだったら行けるんじゃないか?」
「うむ、試してみますか――」
そう言って手袋を外して壁に触れる。表面の苔の様な物が塵にはなるものの壁自体は崩れる気配も無い。
「私のスキルでも無理みたいですな」
「ミダスで無理なら厳しそうだな。魔力に余裕があれば帰りにでも試して見るか」
「ええ、持って帰れやしたら報酬は弾みやすよ」
とりあえず俺が試すのは帰りに魔力が余っていたらという事に決まり、先を急ぐ。暗い空間に同じ景色が続いている為、時間感覚が狂い、何時間進んだかも分からなくなった頃ようやく底が見えてくる。底まで降りると出口から光が差している事に気付く。光の方に歩いていると花の香りが鼻に広がり、何とも幻想的な景色が映し出される。
「おぉ……」
「これは圧巻ですなぁ」
そこには白い花弁が何層にも重なった花が暗い谷底一面に広がっており、月の光で照らされ、まるで花そのものが光っているようにも見える。
「すごいでやしょう?これぞ『地元民だけが知る絶景』ってやつでやすよ」
「あぁ、絶景だわこりゃ」
一面の花畑に圧倒されていると遠くに何かが見える。
「何だ?あれ?」
目を凝らして見ると何かしらの像の様に見える。近づいて見てみるとその像は羽の生えた女性の形をしている事が分かった。端正な顔立ちがところどころ苔や蔦に覆われており、風化したのか右の羽は途中から折れている。
「何か書いてありますな」
そう言ってミダスが像の台座部分を覆う蔦を払うと金属製の板が出てくる。
「アッシには読めやせんねぇ……」
「うむ。見たことも無い文字ですな」
この世界での言語は概ね種族毎に統一されており、獣人語・魔族語・エルフ語・ドワーフ語・人語の5種類が存在する。コレ以外にも神語と呼ばれる言語も存在するが、未だ解明されていない文字が多く、使用する種族も居ない為、一部の専門家が多少分かる程度だ。それに魔族は先の大戦で滅びたので実質使用される言語は4種類に絞られる。
「ん~、一応5種族全部の言語は覚えているんでやすが……。アッシが分からないとなると神語と言う事になりやすが……」
「ピエール殿は優秀なんですなぁ」
「アズライール……」
「む?アレス殿は何と書いてあるか分かるのですかな?」
「いや、読めないハズ……なんだけど……」
何故かは分からないが見たことも無いハズの文字なのにその像が「アズライール」と言う名前である事を俺は知っていた。
『この像はアズライールって言うみたいよ?』
知らない事を知っているという奇妙な感覚に動揺していると突然何かの声が聞こえる。声に驚き顔を上げると3人の男女が像を囲み何やら話をしている光景が一瞬写り元の景色に戻る。
「何だ……?今の……?」
「どうされた?」
「いや、今……疲れてるのかな?」
「坊っちゃん、顔が真っ青でやすよ?」
ピエちゃんに指摘され顔をさする。手は驚く程冷えており、考える事を否定する様に鈍い頭痛が襲ってくる。
「すまん。ちょっと体調悪いかも……」
「無理せず少し休みやしょう。落ち着いてから花を詰むのでも問題ないでやすし」
「うむ、それが良いでしょうな」
二人の提案を承諾し、腰を落として水を飲む。
(さっきのは……)
先程見た景色を思い出そうとするが、頭痛が酷くなるので、一旦考えるのは止めて体を休ませる事を優先させる。




