天海白眉の初恋 8
色々と遊んだ。
サイコロを振って島を開拓して、一番繁栄した者が勝利するゲームとか。
サラミやトウガラシ、チーズが描かれたカードを組み合わせてピザを完成させるゲームとか。
ゲームと言えば囲碁将棋、あとは携帯ゲームかスマホしか知らなかった私にはどれも新鮮で。
「お前強すぎだろ!?」
どのゲームも圧勝した。
羽黒彦一が降参したように突っ伏している。
なぜか僕ではなく鹿歩が自慢げに笑った。
「白眉は将棋でかなり良い成績出してた。普通のゲームでは白眉にはまず勝てない」
「あー、懐かしいな」
女流プロになれるんじゃないかと騒がれたこともあった。
今じゃ遠い思い出だ。
「ところで、もう15時ですよ」
「え、うそ?」
悟に言われてようやく気付いた。
五時間以上ぶっ通しでカードゲームに興じていた。
「ピザ食べたくなりますね……」
「小麦粉あるから作ろうと思えば作れるんじゃないか?」
悟の呟きに、羽黒彦一が何気なく答えた。
それはとても魅惑的な提案だ。
「言い出しっぺ、頼んだよ」
「俺は家庭料理作れるくらいでそんなもの作れないって。味噌汁作ってやっただろ。他の人やってくれ」
「えー……僕だってよく知らないし。あ、でも水で小麦粉溶いてこねる感じじゃなかった? けっこう簡単そうだったような」
「簡単そうならやってみろよ」
「よし」
僕は台所にある小麦粉とボールを取り出した。
念動力で。
「そこで横着すんなよ!」
「良いだろ別に」
この力があれば麺棒を使う必要もなく手を汚すこともなく小麦粉をこねることができる。
思う存分にこねこねして、練った小麦粉の玉を回転させて遠心力で広げていく。
「おお、なんか上手くいきそうじゃないか?」
「さあ、見てろよ」
あとはオーブンで焼いてみるだけだ。
……後からわかったことだが、ピザを焼くには小麦粉の中でも強力粉というものを使った方が良いらしい。このペントハウスに残っていたのは薄力粉、主にお菓子作りなどに使うものだった。
結果として、クッキーみたいに硬くなってしまった。
しかもちょっと焼きすぎてますます硬い。
「ガチガチに硬いじゃねえか!」
「せんべえみたいですね……」
男二人が食べようとチャレンジして早々に諦めていた。
「お、おっかしーなー? まあ、失敗はつきものだよね……!」
「白眉。後で料理覚えて」
鹿歩にさえ呆れられた。
晩ごはんは結局、食堂に頼った。厨房で余っていたパスタの乾麺とミートソースの缶詰を調理人さんからわけてもらい、簡単にパスタを作った。
夕食を食べて風呂を済ませた後も遊んだ。
麻雀だ。
最初の半荘では悟が勝ちまくったが、「予知を使ってる」と気付き、僕もやり返すことにした。洗牌しているときに念動力で積み込みをしたのだ。超能力による介入であれば覚の予知は無効化できる。
そして天和を三連続くらいしたあたりで今度は僕がやり返された。
羽黒彦一が、伏せた牌の中身を勘違いするようにごく僅かな暗示を仕掛けてきたのだ。
更に、自分の行動に注目しないように三人に軽い暗示をかけて堂々と山から自分の手配をすり替えていた。
おかしいという違和感から羽黒彦一の暗示を破ったときには、トビ終了間近だった。
そうしたら今度は、鹿歩が転送能力で好き勝手に自分の手配を交換し始めた。
「鹿歩! それちょっと反則だよ!」
「全員反則してるでしょ!」
「正直これ、ゲームになりませんね……」
「やっぱり超能力麻雀は超能力の強さを競うんじゃなくて概念バトルするもんだと思う」
こうして土曜日が過ぎ去り、日曜日もとにかく遊んだ。
釣りについての知識ゼロで磯釣りに挑んだり、ピザ作りに再トライしたり。
本当に楽しかった。
「家よりリラックスしてるんじゃない? 平日はしゃきっとしてよね」
その日の夜。
自分の部屋で一人で居るのもなんとなく寂しくて鹿歩の部屋に忍び込んだら、呆れたような顔で鹿歩に言われた。
「わかったよママ」
「ママはやめて」
鹿歩は本気で嫌そうな顔をする。
ま、鹿歩の言い分ももっともだ。
自宅に居るよりも僕は気を抜いているかもしれない。
普段から父はほとんど家に帰らない。教団の施設で寝泊まりしている。そして母はとうの昔に逃げている。そこで教団で家事の得意な人が僕の家に出入りして料理や洗濯をしてくれる。家政婦さんのようなものだ。父や僕に対し心からの崇拝を示す。ここで家事をすることを、栄誉ある神職であるかのように振る舞っている。
父は当たり前のように受け入れてるように見えるが、僕はひどく疲れる。彼らの望む存在であることを常に要求され続ける。
いや、その環境に慣れたつもりだった。どうあがこうが、こんな超能力を持っているのだ、今更、超能力を持たない人々の世界でまっとうに生きていくなど夢物語だ。だったら、流されて、受け入れて、行き着くとこまで行き着けば良い。
そう覚悟したつもりでも、やっぱり、肩が重かった。
今こうして油断している自分の身の軽さがそれを実感させてくれる。
「ちょっと、ここで寝ないで」
「良いだろ別に」
「はぁ……まったく」
鹿歩の布団に潜り込んで寝た。
甘えて、遊んで、騒いだ。
これまでの人生で一番楽しい日だったと思う。
これまで大事にしてきた何よりもこの瞬間を大事にしたいと。
何を犠牲にしてでも構わないと。
思ってしまった。




